[イベントレポート]
PBXから「UC」へと移行する米国企業、広がりを見せるモバイルブロードバンド
2011年7月1日(金)小池 良次(ITジャーナリスト/リサーチャー)
情報通信技術の先行きを知る上で見逃せないカンファレンスの1つが、米Interop。2011年は5月9日から4日間、米Las Vegasで開催された(秋にNewYorkでも開催予定)。今回の見所は何だったのか。米国在住のITジャーナリスト、小池良次氏が報告する。
米国企業の間では最近、電話の利用が減り、電子メールやチャット、ソーシャルメディアなどの比重が高まっている。そのためPBX(構内交換機)への投資をやめて、メールやチャット、インターネット電話、ドキュメント共有、ビデオ会議、携帯モバイルなどを総合的に取り扱えるユニファイド・コミュニケーション・システム(UC)を導入する企業が増えている。
この変化に対応すべく電話機器ベンダーは、データセンターにPBXをホスティングして電話機能だけを専用線で提供する“ホスティングPBX”や、UC向けに高度な電話機能を提供する“ソフトウェア・フレームワーク”などに活路を見いだそうとしている。その1社が破綻したノーテル・ネットワークスの法人電話部門を買収したアバイア社だ。
同社はソフトウェア・フレームワーク路線を選択し、「Aura」と呼ぶ製品を開発している。Interopで基調講演に立った同社CTOのSteve Bandrowczak氏は、この製品のデモンストレーションを実施した。同社製タブレットを使い、画面両端にあるディレクトリから通話相手をタッチ・アンド・ドロップで中央に移動させ、多点間ビデオ会議を実演する、といったものである。多機能性と直感的なインタフェースが印象的だった。
フラット化進むDC向けスイッチ
技術的にやや難解だが、今年のInteropで注目を集めたものの1つにデータセンター向けファブリック・スイッチ機器がある。仮想化技術の登場により、データセンター内の通信は“論理面と物理面の分離”が進み、仮想(論理)サーバー間の通信が急増している。しかしハイパーバイザーは通信制御に対応しないため、従来の固定的な3階層モデルを採用するLANは、データセンターの大規模化・高速化を阻害するとして問題視されてきた。それを解消するのがファブリック・スイッチのフラット化(2階層モデル)である。
2011年3月にジュニパーネットワークス社が発表した「QFX3500」(QFbaricシリーズ)、ブロケード社の「VDX 6720 Data Center Switch」などがこれに対応している。ブロケード社はフラット化を強く提唱しており、Interopの直前に開催した自社イベントでファブリック・イーサ・スイッチの次世代機能であるFCoE(Fibre Channel over Ethernet)搭載機を今年中に発売すると表明した。
モバイルでベライゾンとSAPが提携
米国の企業システムでは、モバイル・ブロードバンドの利用も急拡大している。スマートフォンの普及率の高さや、iPadを筆頭とするタブレット・ブームが、その牽引車だ。
今回のInteropでは、それを象徴する動きがあった。通信事業者系のSI大手であるベライゾン・ビジネス(VZB)と、ERPの最大手SAPが相互販売契約を発表。VZBはグループの1社であるベライゾン・ワイヤレスが提供する高速ブロードバンド接続サービスLTE(Long Term Evolution)を主体に、SAPユーザーに対し、従業員の職制や所在地、利用するアプリケーションなどを細かく管理し、最適かつセキュアなモバイル環境を提供する。一方、SAPは企業モバイル分野の充実に力を入れており、両社の思惑が一致した格好だ。
(小池良次=在米ITジャーナリスト)