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[市場動向]

日本の復興モデルを福島から発信、ITで支える「豊かな社会」を世界に提示

2011年11月10日(木)中村 彰二朗(一般社団法人オープンガバメント・コンソーシアム 代表理事)

2011年3月11日に発生した東日本大震災は多くの犠牲者と避難生活者を生み、国民全員にこれからの日本のあり方を考え直させる戦後最大の出来事となった。復興に向けた施策をどう描くか。そこには、さらに価値ある日本を創造するための「システムデザインの視点」が欠かせない

地域活力の再生に向けて

災害に強い社会インフラ

会津若松市、ならびに福島県の復興計画として、世界標準を採用しオープンなスマートシティの構築が検討されている。会津地方には、猪苗代湖や尾瀬などの豊かな水源を利用した大型の水力発電所が複数存在する。山林資源の活用としては、木材として商品価値のない未利用材を使ったバイオマス発電が来春に稼働する予定だ。また、地熱発電が既に稼働しているのに加え、県下の海域と山岳部が風力発電に適しており大規模展開が可能である。

これらの再生可能エネルギーを主要電力とするインテリジェントな都市を構築できれば、環境に優しい世界有数のスマートシティとしての価値を訴求できる。その暁には、日本国内に留まらず世界各国へ展開、一方では、この街を体験するツアーを企画することで、観光客誘致にも貢献できる。

行政システムのあり方も再考しなければならない。今回の震災で、特に浜通りの自治体の多くはIT環境が被災したり、データを失ったりした。辛うじてシステムは残っても、避難している状況では利用できないといった問題にも直面した。政府は3年ほど前から自治体クラウドを推進しているが、本格的な展開に向けて課題も少なくない。

こうした中、会津若松市の復興計画として、県内のサーバー環境やデータを比較的安全な会津若松市に集約させ、各自治体がクラウドサービスとして利用するモデルに切り替える案が検討されている。大幅な行政コストの削減とサービス内容の安定、変更時のメンテナンスの簡略化など、自治体や住民が求めてきたIT環境への移行が現実となる可能性を秘めている。

「都市OS」モデルの実証

アクセンチュアでは、街が必要とする公共系システムの共通機能を「都市OS」と総称し、モデル化を図っている。スマートグリッド、データセンター、スマートハウス、自治体サービス、医療サービス等々、これまで個別で標準化されてこなかったシステム環境を共通化する。地域特性や独自性を許容するサービス層と、それらを支える共通化したIT基盤層、および公共インフラ層の3層に分けて展開し、オープンなAPIで連携させる。エコロジーを十分に追求したデータセンターでシステムが稼働し、スマートグリッドと連携するといった青写真も描いている。

福島県および会津若松市では、「都市OS」のコンセプトを活かし、標準技術を全面に採用した世界にも展開し得る先進的スマートシティの実証が検討されている。さらに都市OSは、浜通り地域の復興モデルとしてSAKO建築設計工社によってデザインされた、人工高台型のコンパクトシティへの展開も検討されている。

この人工高台は、津波に十分に耐え得る強度を持った「産業と住宅」を集約したモデルで、そのものが防波堤の役割も果たす(図)。市場や加工場などの職場は高台の中、住宅は高台の上にある。有事の際は職場の真上にある自宅に逃げることを想定しているわけだ。家が守られれば体育館への避難や仮設住宅への移住が不要になり、政府は本来の復興策に全力を注げるようになる。今回の経験を十分に活かした、災害に強い「持続可能な社会」を創るアイデアの1つだ。

図 人工高台型コンパクトシティの概要(SAKO建築設計工社の資料等を元にアクセンチュアが作成)都市OSの構成要素 (出典元: アクセンチュア)
図 人工高台型コンパクトシティの概要(SAKO建築設計工社の資料等を元にアクセンチュアが作成)
都市OSの構成要素 (出典元: アクセンチュア)

グローバル視点での復興策

最先端の街作りを海外へ

前述した人工高台のコンパクトシティは、津波の危険性を有する各国へ展開が可能なはずだ。温暖化が進むことで各種のトラブルに直面している海岸の街にも、有益なヒントとなるだろう。原子力発電とそのノウハウをパッケージとして世界に販売してきた日本だが、国家としてのエネルギー政策の再考が求められている現在、この復興を新たな機会と捉えて、世界に輸出および展開可能な新たなビジネスをも構築すべきである。スマートシティは、福島および日本復興の象徴として、世界に貢献するパッケージになる。

一極集中から地方の競争力を高める変革を

グローバルネットワークは第4世代に突入しており、100GB/秒の光ケーブルが敷設されようとしている。これを機に、これまでの東京一極集中のネットワークデザインを見直し、各地域が自立し得る分散ネットワーク(グリッドインフラ)を考えなければならない。

ネットワークだけではなく、経済・政治の中枢が首都圏に一極集中している現状や、東京を起点にスター状に敷かれている各種インフラ網のあり方など、この国の構造自体も再検証し、より地方の競争力を高める変革をしなければならない。そしてそれは、今回のような有事の際にも強いネットワークとなり、危機管理上もはるかに有益なものとなる。

政府は、将来の産業構造をにらみながら国家戦略として強いネットワークのあり方に取り組んでほしいと願う。

◇◇◇

「自立、分散、協調」。それを実現するための地域の自然資源、再生可能エネルギーとITの融合、平時はグリッド社会としてそれぞれが連携・補足し合い、有事の際にはオフグリッドとして個別でも維持・継続できる社会の実現へ─。日本は大きな課題を抱えつつも、その解決に向かうことは新たな社会モデルを創り上げるという歴史的な一大テーマに取り組んでいるということである。そしてその成果を世界に提案していくことで、長年の課題であった日本再生の良い機会であると認識し実行することが最も重要であろう。

今回の震災で犠牲となった多くの尊い命を決して無駄にしてはならない。同じことを繰り返さないことを国民全体で誓い、新たな社会モデル構築に邁進することを心より望んでいる。

中村 彰二朗
アクセンチュア 福島イノベーションセンター センター長
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