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[市場動向]

日本の復興モデルを福島から発信、ITで支える「豊かな社会」を世界に提示

2011年11月10日(木)中村 彰二朗(一般社団法人オープンガバメント・コンソーシアム 代表理事)

2011年3月11日に発生した東日本大震災は多くの犠牲者と避難生活者を生み、国民全員にこれからの日本のあり方を考え直させる戦後最大の出来事となった。復興に向けた施策をどう描くか。そこには、さらに価値ある日本を創造するための「システムデザインの視点」が欠かせない

会津若松市、会津大学、アクセンチュアの3者は2011年7月26日、震災復興案を協議策定に向けて、共同で活動を開始することを発表した。

復興施策の策定に際しては、市民・県民の方々の状況や長く受け継がれた歴史や文化を最大限考慮しつつ、将来的に成長の見込める産業を積極的に振興させて雇用を創出させることで、豊かさと幸せを両立できることを念頭に置いた。また、会津若松市にとどまらず、県全体の復興計画にも盛り込まれることも視野に入れた。

さらに価値ある日本の創造へ

読者の皆さんは「金継ぎ」(きんつぎ)という言葉をご存じだろうか。これは、壊れた器を漆で接着し、継ぎ目を金で覆う伝統的修復技法を指す。原型に戻すだけではなく、以前よりも価値があるものとして蘇らせるのだ。

福島県の伝統工芸として会津漆器は多くが知るところだが、震災からの復興も、漆塗りで培われた匠の技と同様の価値観で臨む必要がある。復興を成長戦略ととらえ、さらに価値ある日本を創造することを目指す。「会津の漆で福島を、そして日本を金継ぎする」─。3者は思いを1つにした。

まず、アクセンチュアは復興支援の拠点として、「福島イノベーションセンター」を会津大学正門前に開設。コンサルタント5名を常駐させ、8月1日から復興施策の策定支援をプロボノ活動として開始した。

広い福島県にあって、なぜ会津若松市に拠点を構えたのかの理由を表に示した。旧に復するのではなく、魅力的な都市を創る。再生可能エネルギーを主要電力とする社会インフラといった最新技術と、歴史や地理が育んだ地域性を巧くバランスさせた豊かな住空間、つまりは日本の将来を見据えたあるべき都市像を具現化するという視点でどこに軸足を置くかを考えた。エネルギー源の確保、産学の協業、地域としての訴求力…。会津若松市の立地は多くの条件にかなっていた。

表 アクセンチュアが会津若松市に復興支援拠点を構えた理由
表 アクセンチュアが会津若松市に復興支援拠点を構えた理由

会津若松市や会津大学、ならびに地元企業と共に、先行して復興モデルを実証し展開の準備をする。そうすれば、浜通り地方や中通り地方が復興のタイミングとなった際に、求められるクラウドサービスやスマートシティサービスを早期に提供できる。各地域が連携し、会津から他地域をITによってサポートするという「真のネットワーク社会モデル」の構築を目指した。

我々が検討を重ねた成果物は今後、各関係機関における最終判断の下に実施可否が決定されることとなる。本稿では、9月時点での復興計画案としてその概要を解説する。

まずは避難者の生活基盤を

風評被害対策

アクセンチュアでは活動をまず風評被害対策から始めた。根も葉もない噂を沈静化させる上で、当社のような外資系企業が、当該地域に新たに拠点を構えるというアクションは一定の訴求力があると考えた。実際に会津若松市に新設したことは前述の通りである。

さらにメンバーは累積線量計を携帯し、測定結果を海外メディアも含めて随時公開することにした。その際、フェイスブックなどのソーシャルメディアもできるだけ駆使する。政府による発表以外に、客観的なデータが存在することは大きな安心材料につながる。ちなみに私自身の測定結果を見ると、8〜9月の2カ月間で0.1マイクロシーベルト以下。東京と変わりない。今後も当面の間は、メンバー全員で測定し結果を公開する。

住宅・雇用・教育による支援

会津若松市に避難している人は2011年8月5日時点で4708名に達する。多くのは東山温泉などの旅館が引き受け、8月くらいからは仮設住宅の完成と共にそこに移りつつある。もっとも、仮設住宅は基本的には2年という制限付きだ。会津若松市は目下、震災前からある都市計画を中断して用地を提供している。今後、中長期の住宅が必要になってくると、既存計画を見直す必要性も出てくる。

その際には、避難している自治体の首長と町民の冷静な話し合い、受け入れる自治体および避難している自治体の首長同士の真摯な話し合いの末に計画されることになるだろう。恒久住宅を検討する時には、新たなスマートシティを構築するといった夢のある未来都市計画を示し、避難している方々が希望の光を感じられる配慮も必要だろう。もちろん、元々の市民も、我々のような首都圏からの転入者も共に暮らせる、多様性を認めた街作りが重要なポイントとなる。

公的保証に頼る生活を強いないように、雇用の問題も考えなければならない。アクセンチュアは、国内のみならず海外からも有力企業を積極的に誘致すると同時に、地元人材の活用によって雇用機会の創出に取り組む計画である。海外企業誘致に関連したプロジェクト「Invest Japan」の委託を経産省から受けて昨年度より支援しているが、この枠の中でも積極的に福島への誘致を働きかけたいと考えている。雇用を生み出すには新たな教育も必要だ。この点では、会津大学と共同で就労教育や復興の鍵となるプロデュース人材を育成する計画である。

雇用のマッチングサービスの導入も市・大学と共に検討している。ハローワークには求人情報が集められるものの、該当者とのマッチングがなかなか進まない。就労履歴や雇用時の周囲や上司の評価なども併せたデータベースを整え(本人の希望による)、求人情報とのマッチングを支援するのが基本的な仕組みだ。フェイスブックなどのソーシャルネットワークも組み合わせれば、公開可能な個人データの幅も広がり、スピーディなマッチングが期待できる。雇用創出が緊急課題であるこの地の、スムーズな雇用促進の一助にしたいと考えている。

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