これまでのIT基盤はチャネルごとに整備されてきた。IT部門も各チャネルを持つ事業部門からの要望に対応するのが一般的だった。だが、オムニチャネルの本質は、顧客中心視点で、すべてのチャネルを最適に組み合わせることにある。この目標を達成するためには、企業のIT基盤の設計はもとより、IT部門の役割も変化せざるを得ない。(中村 博之 野村総合研究所 先端ITイノベーション部 上級研究員)
オムニチャネルに対応したIT基盤に求められる役割は、複数チャネルを横断したモノと顧客の管理である。最初に目が向くのはモノの管理のほうであろう。米国の小売業では、店舗チャネルとネットチャネルのどちらでもシームレスに商品を購買できるような仕組みの構築が広まりつつある。そこでは、商品の在庫をいずれのチャネルからも参照可能にしたり、互いのチャネルに発送指示を出したりできるようなIT基盤が求められる。
チャネル横断での顧客管理がより重要に
だが、より重要なのは、複数チャネルを横断する顧客を管理するためのIT基盤である。従来の顧客分析は、個々のチャネルで生み出されるデータ、例えば店舗チャネルでのID-POS(顧客購買情報)、ネットチャネルでのWebログなどを、個別に分析するのが一般的であった。しかし、こうしたチャネル別データは顧客行動の一断面を示しているに過ぎない。
一方、複数のチャネル、すなわち複数の顧客接点からのデータを組み合わせると、360度視点で顧客の行動を理解することに近づける。例えば、「TV広告とWeb広告の接触回数のどちらが実際の購買に寄与したのか」「Web上で競合商品とどれだけ比較したのか」「店舗とオンラインのどちらで購買したのか」「商品を手に入れた結果どれくらい愛着を抱いたか」という具合である。
360度視点の顧客分析に基づき、それぞれの顧客に最も適したプロモーションやサポートなどが実施できること。これがオムニチャネルに対応した顧客管理基盤に求められる機能だ。こうしたオムニチャネルに対応した顧客管理基盤のイメージを図4-1に示す。
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