[海外動向]
IBMが「Composable Business」を提唱、PaaS使ったビッグデータ活用を強調
2014年5月7日(水)田口 潤(IT Leaders編集部)
「ビジネスや事業に貢献するIT」――。ここに焦点を当てる米IBMの年次カンファレンス「Impact2014」が、2014年4月27日~5月1日(現地時間)に米ラスベガスで開催された。今年のテーマは「Be First!(1位になる!)」。そのためのキーワードが「Composable Business」であり、具体的な手段がPaaS(Platform as a Service)の「BlueMix」や「IBM Cloud Marketplace」である。基調講演を中心としたカンファレンスの内容は、ITの方向性を考えるうえで、示唆に富むものだった。まずはメッセージの像と基調講演初日の内容を紹介する。
ではなぜSoE、SoRといった分類をするのか、また何の意味があるのか。それは、区分けをしないままだと、エンゲージメントを目的にしたWebシステムやデジタルサイネージなどのシステムを、SoRに属するCRM(Customer Relationship Management:顧客関係管理)システムの延長線上、あるいは拡張機能として構築しかねないためである。
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SoEとSoRは、システムの目的や使われ方がまったく異なる(図4)。しかし、SoEの要件定義は困難だし、構築しただけでは不十分で使われ方を見ながら、素早く改良し続ける必要もある。つまり、SoRとは全く別、全く新たに、開発や運用の手段を用意する必要がある。それがBlueMixであり、IBM Cloud Marketplaceであり、概念としてのComposable Businessだというわけだ。
ところが、Impact2013の時点では、こうした手段をIBMは擁していなかった。開発と運用を一体化する、いわゆるDevOpsのためのツールを提供するUrbanCodeを買収したり、開発ツールを担当するRational事業部門が「JazzHub」と呼ぶサービスを提供していたりする程度である。
その分、ここ1年の動きは速かった。まず2013年6月にIaaS(Infrastructure as a Service)事業者のSoftLayerの買収を発表。7月にはオープンソースのPaaS「Cloud Foundry」を管理する米Pivotalとの協力を明らかにした。そして10月には、SoftLayer上のPaaS「BlueMix」をベータ版として無償で提供開始するところにまでこぎ着けた。自社製ミドルウェア製品をBlueMix上で利用できるようにする作業も急ピッチで進める。すでにWebSphere Application Serverの軽量版などが利用できるほか、主要なミドルウェアを2014年内に利用可能にする。
その上でImpact2014では、さらにいくつかの手を打った。前述したIBM Cloud Marketplaceの設置や、BlueMixで開発するアプリケーションからSoR(オンプレミスの既存システム)を呼び出せる機能の追加などだ(関連記事)。
つまり、1年前に提唱したSoEやSoR、それにSoIは、その時点では「絵に描いた餅」に過ぎなかった。これらを「食べられる餅」にするべく、IBMはSoEを開発・実行する環境を急ピッチで整備してきたのだ。こう見てくると「Composable Business」にしても、単なる宣伝文句とは言いにくいことが分かる。もちろん、より正確には「Composable Application」というべきだろうが、それでは訴求力に欠けるので、こう表現したようである。
[基調講演1日目]
SoEの入り口としてのモバイルファースト、独ダイムラーも成果をアピール
かなり遠回りしたが、基調講演の内容に戻ろう。要所要所にIBMの主張を織り込みながら、ユーザー企業を中心とした様々なゲストの話を通じて、来場者にSoEへの取り組み、実践を訴える場になった。トップを切って登壇したのはカナダのTangerine銀行(旧名はING Direct)だ。
同行のCEO(Chief Executive Officer)であるPeter Aceto氏が、「当社はモバイルファーストの銀行になりました。顧客が何を望むかに専念した結果です」と口火を切れば、CIOのCharaka Kithulegoda氏が、「以前は必要なシステムの開発に6週間かかっていました。これではスピードがまったく足りません。Pure Application Systemやモバイル開発環境のWorklight、API管理のポータルソフトなどを駆使し、現在は2週間にまで短縮しました」と受けて立つ。
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さらに同CIOは、「必要なカスタマーエンゲージメントをいつでも実施できるようになりました。(モバイル支払いなどを利用するためのAppleのiOS用アプリケーションである)Passbookにも対応し、例えば飛行機に乗っている時にもバンキングが可能です。まさしくAPIエコノミーの成果です」と続けた(図5)。
ただし、Tangerine銀行は設立が1997年と比較的新しく、日本で言えばソニー銀行などに近い。店舗は少数しかなく、電話やネットを主力としているので、モバイルファーストは必然だったと言えるかも知れない。