「IBM as a Service=サービスとしてのIBM」――。2014年4月27日から米IBMがラスベガスで開催中のカンファレンス「Impact2014」の基調講演で、同社のRobert LeBlanc上級副社長が使った言葉だ。ソフトウェア&クラウドソリューション担当を兼務する同氏が言うだけあって、IBMはクラウドへの傾斜を急速に強めている。
Impact2014の模様は改めて報告することにして、以下では、今回のカンファレンスに合わせてIBMが発表した内容に焦点を当てる。画期的な新製品やサービスを発表したわけはない。一見すると単なるパートナー強化策でしかないように見えるものもある。個々に見れば、決して分かりやすい発表ではないが、そこには、クラウドに生き残りをかけるIBMの“意思”が垣間見える。
発表は大きく3つある。(1)「IBM Cloud Marketplace」というクラウド上のソフトウェア/サービス取引市場の開設、(2)2014年2月にベータ提供中だと公表したPaaS(Platform as a Service)の「BlueMix」の強化、(3)「BlueMix Garages」と呼ぶ開発者やパートナー、ユーザーとの協業施設の設置、である。
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Cloud marketplaceは名称から明らかなとおり、IBMやパートナー企業が提供する数百のクラウドサービスあるいはソフトを理解したり、試したり、利用契約を結んだりするためのクラウド上の市場だ。単なるサービスカタログではなく、あるサービスが、どんな課題を解決できるのかといった情報や事例の提供に力を入れる。LeBlanc上級副社長は、「開発者、ITマネジャーに加え、LOB(事業部門)の責任者や担当者にも使ってもらえるものにした」と話す。
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まずはIBMが100を超えるSaaS(Software as a Service)を、パートナー企業が200以上のサービスやソフトウェアを”販売”する。発表文では、SendGrid、 Zend、 Redis Labs、 Sonian、 Flow Search Corp、 Deep DB、 M2Mi、Ustreamといった企業の名前が挙がっている。後述するBlueMixもMarketplaceの一要素になる。
「2014年、我々はSoftLayerの事業拡大に12億ドル、Bluemixの正式リリースに向けた活動やミドルウェア製品をPaaSで利用可能にする開発に10億ドルなど、大規模な投資を行った。企業ユーザーのための、最も包括的なクラウドのポートフォリオを築くためだ。Cloud marketplaceは、そのための重要なステップである」(LeBlanc上級副社長)という。
2番目の「BlueMix」はソフトウェアの開発・実行(運用管理)をクラウド上で行えるようにするPaaS。ベータ版という位置づけは変えずに、いくつの機能を追加した。いずれも一見、地味だが、次世代アプリケーションを開発するには重要な機能群である。
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具体的には、アプリケーションやデータをクラウド上でセキュアに連携・統合する「クラウド・インテグレーション・サービス」、IPアドレスを持つネットワーク上のデバイスを簡単に登録管理できる「IoTサービス」、複数のデータを関連づけたりデータ駆動型のアプリケーションの開発を容易にしたりする「データと分析サービス」である。
余談になるが、これらの機能を追加したにもかかわらず、なぜ現在もベータ版としての提供なのか?表向きの説明は「機能や使い勝手をさらにリファインするため」だ。だが、「失敗が許されない極めて重要なサービス」だからと見ることもできそうだ。
というのもBlueMixは、元をたどれば米VMwareが中心になって開発してきた「Cloud Foundry」である。現在はOSS(Open Source Software:オープンソースソフト)になっており、IBMは自社版を開発している。しかし、OSSベースのPaaSは、VMwareから分離独立した米Pivotalが同じCloud FoundryベースのPaaSを、米Red Hatも「OpenShift」と呼ぶPaaSを、それぞれ提供している(関連記事『“第3のOS/ミドルウェア”狙う米Pivotal、PaaS基盤の統合製品を発表』『「OSS抜きに次世代システムは構築できない」 米Red Hatのホワイトハースト会長』)。米Salesforce傘下のHerokuも有力だ。OSSではないが、マイクロソフトのAzureも一般企業向けのPaaSとしては特に強力な存在になる。
これら競合が多い分、十分なリードを得ないまま有償化に踏み切ることは難しい――。そんな状況が背景にあるようなのだ。この点で今後、IBMがどこまで機能を充実させてくるのかに要注目である。
話を戻そう。最後のBlueMix Garagesは、PaaS分野におけるIBMならでは、あるいは従来のIBMの枠を飛び出したユニークな施策だといえる。BlueMix Garagesは、新たなアプリケーションやサービスをBlueMixを使って開発するための物理的な施設である。そこでは、ユーザー企業やパートナーの開発者、製品マネジャー、設計者などがIBMのコンサルタントなどと協業する。
Garagesの何がユニークなのかというと、この施設の第1号をサンフランシスコにある米Galvanizeという企業のファシリティに置くことだ。Galvanizeは、スタートアップ(ベンチャー企業)に教育機会やシェアードスペースを提供する企業。その結果として、ユーザー企業やパートナー、IBMの人材に加えて、スタートアップ企業もが一同に会することになる。
異種の人材を集め、BlueMixを活用して斬新なアプリケーションを開発する--。Garagesは、そんな狙いを持っているのだ。日本でも広がる気配を見せている「オープン・イノベーション」の実践である。
Galvanizeのような企業の力を使ってでもBlueMixでイノベーティブなアプリケーションを開発しようとする、IBMの本気度(あるいは危機感)が感じられる発表だ。なおIBMはGalvanizeでの成果を見ながら、Garegesを世界各地に展開する計画である。