多くが薄々、感じているのかも知れない。「このままではビッグデータへの取り組みが過去のDWH(Data Warehouse)やBI(Business Intelligence)、データマイニングなどと同様に、尻すぼみになってしまうのではないか」――と。この問題について、日本IBMのソフトウェア事業本部の大塚 知彦インフォメーションマネジメント事業部技術統括部長が、5月21日と22日に開催した自社カンファレンス「XCITE Spring 2014」において、「ビッグデータは第2章へ--失敗しない取り組み方」と題して語った。
「ビッグデータの適用分野は、株式市場の分析や顧客データの分析など多岐にわたる。一方で『本当に役立つのか』『どうすればアプローチすればいいのか』といった悩みを持つ企業も多い」――。日本IBMの大塚 知彦 技術統括部長は、こう明かす。具体例として、「とりあえずHadoopを導入したが役に立つ結果が得られない」「他社がやっているのでうちも取り組んでいるが成果につながらない」といったケースを挙げる。
続けて「これらがビッグデータの“第1章”で経験したことだろう。たいした結果が出ないので(ビッグデータへの取り組みを)止めた企業もある。しかし本当にそれでいいのか、あまりにもったいないのではないか」と指摘する。DBMSや分析ツール、アプライアンス製品を提供する同社の言葉だけに、ビッグデータへの取り組みを止めた企業があるという点にはリアリティがある。
では大塚氏は、どうすればいいと考えているのか?「スウェーデンにおける都市交通の混雑状況の分析と予測、アイルランドの海洋研究所の海洋センサーによる洪水予測、米ニューヨーク州立大による多発性硬化症の診断など、ビッグデータには数多くの成功例がある。その裏には、もっとたくさんの失敗例があることを認識すべき」というのが、その1つだ。
上記で取り上げた成功例が、いずれも一般企業の取り組みではない事例であることはさておくとして、「新しい取り組みだけに失敗は必然。そこで止めるのではなく、失敗に学んで成果を上げることが大切だ」というわけである。
そのうえで、「成功している企業は、3つのステップと9つの要素をクリアしていることが米IBMの調査で明らかになっている。そこから学んで欲しい」という。
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それを示したのが図1である。「準備・実行・拡大」という3ステップと、それぞれのステップにある3要素だ。どれも、とてもオーソドックスで拍子抜けするほどだが、「9項目には企業文化や信頼、スポンサーシップなど、人間系の要素が多数あることに注意して欲しい」(大塚氏)。データや分析基盤があるだけでは不十分であり、例えば事実に基づいて結果を評価したり分析したりする風潮が必不可欠だとした。
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さらにIBMらしく、ビッグデータ分析のためのシステムアーキテクチャーにも言及した(図2)。単にHadoopを使えば済むという話ではなく、多様なデータソースから適切なタイミング(リアルタイム)でデータを取得し、適切な分析手法を適用する必要があるとの指摘だ。これも当然と言えば当然だが、実際のところ、図2に相当するようなビッグデータのための処理基盤を構築しているケースは少ないのではないか。
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最後に大塚氏は、失敗しない取り組みの実践を来場者に呼びかけた。「アナリティックスをあらゆる場面で使う文化」「ビッグデータ&アナリティックスのプラットフォームを入手」、「プロアクティブにプライバシー、セキュリティー、ガバナンス」の3点である(図3)。
「ビッグデータとアナリティックスは、旅に似ている。それは始まったばかりだ。準備をして成功に向けて進もう」(同)。もちろん、これが日本IBMでビッグデータ関連製品を担当する大塚氏の言葉であることは割り引く必要がある。だがビッグデータへの関心が実際の取り組みとして定着しないままに終わってしまっては、あまりに残念であることも確かだろう。情報システムがもたらす価値の1つがデータであることは間違いないからだ。