大阪の新ランドマークである「あべのハルカス」。高層階の展望フロア、ならびに16階の美術館の入退場管理に、ある画期的なシステムが使われている。その概要や、そもそも導入に至った背景などを関係者に聞いた。
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高さ300mと日本一の超高層ビルとして2014年3月に開業した「あべのハルカス」(写真1、大阪市)。58階から60階にある展望フロア「ハルカス300」からの眺めは絶景だ(写真2)。話題性もあって、ゴールデンウィークは大混雑だったという。そのハルカス300と地上16階にある「あべのハルカス美術館」の入退場管理に、画期的と言えるシステムが使われていることをご存じだろうか。「レベニューシェア型のクラウドサービス」がそれだ。
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あべのハルカスは、入場者ゲートや発券端末などの設備、それに情報システムの利用料金を入場者数=収入に応じて、毎月支払えば済む。入場者数が少なければ支払額も少なくなる、つまり変動費にでき、設備投資や運用の負担、機器の老朽化といったリスクも回避できる。
レベニューの何%を支払うのかという問題はあるにせよ、入場者数という“水物”で売り上げが変動する事業者にとっては、理想的なシステムや関連設備の調達形態だろう。近畿日本鉄道あべのハルカス事業本部の福田剛志氏は「このような導入形態は初めてです」と前置きしながら、「経営層への説明は資料こそ多めに作成する必要がありましたが、メリットが多く明確なので予想以上にスムーズでした」と話す。
関連設備やシステムを提供するのは、パナソニック系の情報サービス会社であるパナソニック インフォメーションシステムズ(以下パナソニックIS)。同社は逆にかなりのリスクを背負うことになるが、クラウド型で提供することによりリスクを最少にする仕組みを構築している。実際のところ、どんな契約モデルであり、どんな工夫がされているのか。近畿日本鉄道とパナソニックISに聞いた。
レベニューシェア型クラウドによる初期投資の少なさを評価
改めて確認しておくと、情報システム調達におけるレベニューシェアとは、企業がシステムを活用して得る売り上げの一部をシステム開発・運用を担うIT企業に支払う契約形態だ。ユーザー企業は初期投資額を大幅に抑えられ、またシステム稼働後にITベンダーの継続的な努力を期待できる利点がある。
半面、投資額を確定できず、ユーザー側の努力で売上げが上がったとしても一部をベンダーに支払わなければならない。一方、ITベンダーは数年にわたって開発費を回収しなければならず、資金負担が重くなりがち。売り上げ(システムの利用実態)をどう把握し、配分比率をどうするかを決めにくい問題もあり、システム契約の理想形の1つとされながらも、あまり広がってこなかった。
今回のケースでも、あべのハルカスを運営する近畿日本鉄道が、自らレベニューシェアを提案募集の要件に入れたわけではない。「そういう契約形態があることを知りませんでした。入場ゲートや発券管理システムの構築にあたって5社に提案を求めたところ、すべて自社設置型の提案でした。しかしパナソニックISの提案の一部にクラウドサービスによるレベニューシェアに関わる記載がありました」(近鉄の福田氏)。
詳しく話を聞いたところ、初期投資が少なくて済むメリットに惹かれたという。「必要な予算は当然、確保していましたが、ハルカスのような大規模プロジェクトでは、内装デザインや館内設備などについてやりたいことが次々に出てきます。初期投資を少なくした分をほかに投入できるのは、大きな魅力でした」(同)。加えてパナソニックISが類似施設である東京スカイツリーの発券・ゲート管理システムを手がけている実績も評価(後述)。委託先はパナソニックISに決まった。