[インタビュー]
貴社にはビッグデータもモバイルも不要かもしれない─重要なのは企業の個性やポジションの再認識
2014年8月29日(金)緒方 啓吾(IT Leaders編集部)
すべての企業がITによるイノベーションを目指す必要はない――。「ユーザー企業のIT活用実態調査」をまとめた、野村総合研究所の淀川高喜研究理事はこう語る。企業のビジネスモデルや成熟度は全く異なる。当然、あるべきIT投資の姿も千差万別というわけだ。同氏にIT投資戦略について聞いた。
企業の状況は千差万別、IT投資戦略の万能解はない
世の中には、IT投資の在り方を示唆する様々な言説がある。ITは脇役だから、なるべくシンプルなものにすべきだという意見もあれば、競争力の源泉だから積極的に投資すべきとの意見もある。情報システムの担当者ならば、いったいどのアドバイスを信じれば良いのかと、悩んだ経験があるはずだ。
特に、最近はIT投資の幅が広がってきた。従来は、既存業務のプロセスをIT化して「効率化」を目指す投資が多かった。しかし、こうした投資が一巡し、情報活用や、ビジネスモデルの創出にも目が向き始めている。ビッグデータやモバイル、ソーシャルの活用などはそれだ。
基本的にIT投資は、業務効率化から情報活用、戦略活用と進展する。ただし、企業のビジネスモデルや、その成熟度、置かれた競争環境は千差万別だ。“企業ITとはかくあるべし”と画一的には語れない。どの会社も等しく、ビッグデータやモバイルデバイスを使った業務改革に取り組む必要はない。
自社にとって最適な選択をするためには2つの視点を持ちたい。
まずは、「自分にとってITが重要かどうか」という視点だ。具体的には、①ITが事業を差異化し、競争優位を生むコアな技術かどうか、②業務をこなすためになくてはならない基幹設備かどうかを考えてほしい。この2軸で企業を4つに区分するとき、自社がどこに当てはまるか考えてほしい。
図は国内企業600社の回答をまとめたものだ。ITがコア技術かつ基幹設備だと回答したのは33.7%。これらの企業にとっては、確かにITは戦略的な武器であろう。一方で、ITはなくてはならない基幹設備だが、差異化にはつながらない企業、ITがなくても業務が回る企業も多数存在する。
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もう1つの観点は、事業の成熟度である。あらゆる事業には盛衰がある。企業が成長段階にある場合は、迅速なIT調達が必要だろう。ビジネスモデルが確立した後は、それを効率化する改善を重ねるべきだ。事業が衰退しており、打開策を探る状況では、あえて投資のリスクを冒す必然性は乏しい。
ITの重要度と、事業の成熟度がIT投資戦略を決める
「ITの重要度」と「事業の成熟度」が共通する企業は、ビジネスの変革に向けたアクションが似通っていることが、われわれが実施した調査によって分かっている。それをマトリクスとしてまとめたものが図2である。
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縦軸にビジネスの成熟度、横軸にITの重要度をとり、各企業がビジネスの変革に向けて実施している代表的なアクションをマッピングしている。例えば、一番左の列は、ITが非コア、非基幹と答えた企業のグループ。上の段は、事業が成熟・分化段階にある企業のグループといった具合だ。
例えば、ITが非コアな企業は、一貫してITを使わない活動をしている。成熟、統合段階にある企業は、ITを使って改善を進める傾向が強い。
一方、成長・分化段階にある企業は、戦略的な目的でIT投資する傾向が強い。ITそのものが差異化要素ではなくとも、事業を海外展開したり、製品をサービス化したりするには、ITをグローバル統合したり、サプライチェーンを拡大したりする必要があるためだ。
マトリクスに我々が推奨するIT投資戦略をマッピングしたのが図3だ。例えば、ITが基幹でもコアでもない10%の企業は、事業の成熟度に関わらず「シンプル(Simple)」なITを目指すべきだ。ITが基幹やコアであっても、事業の今後を模索する段階にあるときは投資を控えた方がいい。
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ITへの依存度が高く、成長、分化段階にある企業は、事業構造が頻繁に変更される可能性がある。よって、「フレキシブル(Flexible)」を重視したIT投資が必要になろう。例えば、SOA(サービス指向アーキテクチャ)などを使ってシステムを共通部品化し、その組み合わせで事業変化に対応できるようにする。
ITが業務のコアとなる企業で、成長・分化段階にあるのなら、戦略的な投資によって、他社との差異化を図るような投資もあり得る。ビッグデータやソーシャル、モバイルといったテクノロジーを使って、「VRIO(Value, Rareness, Imitability, Organizational)」を生むべきはこうした企業だ。
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