クラウド分野ではアマゾンやグーグル、マイクロソフトの攻勢、ソフトウェア分野ではオープンソースの伸張を受け、毎年のように売上高を減らすIBM。IAサーバー事業の売却が背景にあるが、どっこい、このまま縮小均衡に陥るわけではなく、次に向けた様々な手を打っている。その1つがITを活用した自らの企業変革である。
売上高は10四半期連続で前年割れ、224億ドルの売上高に対し、わずか1800万ドルの純利益──米IBMが発表した2014年7~9月期の決算数字だ。前年同期比25%増の米Micorsoftや12%増の米Appleなどに比べると低調さが際立つ。堅調な米国経済における実績だけに放置すれば、就任2年目のバージニア・ロメッティCEOの責任問題につながる可能性さえある。
しかし巨象ながらも俊敏なIBMだけに無為無策ではあり得ない。「ITを活かした企業変革を自ら先んじて実践し、それを顧客に提供していく」──。米IBMで企業変革(エンタープライズ・トランスフォーメーション)を担当する上級副社長のリンダ・サンフォード氏は、日本IBMが11月中旬に開催した事業戦略説明会の場で、こう言い切った(写真1)。IBM自身がモバイルファースト、クラウドファーストを実践し、自らを変革する。それで得た経験を顧客サービスに適用するストーリーである。日本のIT大手にはあまり見られない取り組みだけに注目する必要がありそうだ。
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自らモバイルファースト、クラウドファーストを実践
IBMは、具体的に何をするのか? リンダ・サンフォード氏によると、4つの項目がある。第1が共有とパートナーシップ、第2がグローバルインテグレーション、3番目がスマート化、最後がスピードとイノベーションを重視する企業文化の醸成、である(図1)。「共有とパートナーシップでは、何が共有され何がされていないのか、どんなパートナー企業がいるのかといった、社内のことを明らかにします。グローバルインテグレーションは、世界各国の人材の可視化とコミュニケーション強化を指しています」。部門の壁や、地域・国の違いを超えた、情報の共有化やコラボレーションを行う。
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そのためのキーワードがモバイルエンタープライズ(図2)。「進化するモバイルやソーシャルを、変革のために活用しています。すでに10万台のモバイル機器を社内ネットワークで利用しています。また営業部門の社員2万人以上にiPadを配布済み。モバイルアプリも70以上を開発して利用しています」。そこに企業ソーシャルとして知られる「イノベーションジャム」と呼ぶ仕組みを適用し、様々なアイデアを生み出しているという。「一例がモバイル・アプリの開発を促す基金であるifund ITです。社員の投票により何を開発し、利用するかを決めるもので、700万ドルを投資しています。お客様同士のコラボレーションを可能にするコラボレーション・ハブもあります」。
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3番目のスマート化とはアナリティックスの実践だという。「アナリティックスこそ、本当のゲームチェンジャーです。IBMは全世界で50人のデータサイエンティストを擁しており、サプライチェーンの最適化や買収のリスク低減など日々の洞察、意思決定を導き出しています」。この発言には説明が必要かも知れない。リンダ・サンフォード氏が言うデータサイエンティストは、事業創出ができる、あるいはその経験を有する文字通りのトップ人材を意味する。データアナリストやデータエンジニアを含まない点に注意が必要だ。「優秀な社員をリテンション(引き留め)するためにも、アナリティックスを役立てているという(図3)。「離職を考えているのは誰で、リテンションするにはどんな策を採るべきなのかを導き出すことができます。もちろん一般社員も、それぞれの立場でアナリティックスを実践しています」。
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スピードとイノベーションについては、情報システムのクラウド化を挙げた(図4)。そのためにオーストラリアの金融コングロマリットであるSuncorpのCIOを務め、直近はCEOだったジェフ・スミス氏を8月にCIOとして招聘(www.itnews.com.au/News/388062,jeff-smith-quits-suncorp-for-ibm.aspx)。“Born on the cloud”など、クラウドをを活かした自社の情報システムの改革を急ぐ。「クラウドをどう活用すればいいのか、俊敏性をどう高められるのか、それらを考えてITを再構築しています」。
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なおジェフ・スミス氏という人物は、豪通信企業のTelstraや制御機器大手のHoneywellでCIOを務めた後、Suncorpに移籍。2億7500万ドルを投じて14の異なるレガシーシステムを統合し、クラウドに移行させるプロジェクトを率いた(http://www.zdnet.com/suncorp-pours-275m-into-it-simplification-1339338736/)。
この時に採用したクラウドサービスはAWSだったが、今回はIBMのIaaS「SoftLayer」がターゲット環境になる。「オンプレミスからクラウドまでを統合し、ハイブリッドのシステム基盤を整備します。他社に推奨していることを自社で実践する一例です」。クラウド上の開発・実行環境(PaaS)である「BlueMix」で開発を行い、取り組みも行っている。