[イベントレポート]
BPMと非構造データ連携で“Digital First”に、加OpenTextが進めるレガシー再生
2014年12月12日(金)志度 昌宏(DIGITAL X編集長)
クラウドやモバイルには対応したいが既存環境はどうすべきか−−。こうした課題に対し、「EIM(Enterprise Information Management)」を掲げ、ビジネスプロセスの統合/自動化を提案するのが加OpenTextだ。クラウド/モバイル側から発せられるメッセージが氾濫する今、バックエンドを意識したEIMの概念は、企業運営を考えるうえで参考になるだろう。2014年11月に開かれた同社の年次イベント「Enterprise World 2014」での基調講演や専門セッションからEIM像とOpenTextの戦略を紹介する。
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「デジタルファースト(Digital First)な世界が訪れた。メインフレームからクライアント/サーバー、そしてインターネットへと変遷してきたIT業界の歴史の中でも最大の影響力を持っている。この影響力は、すべての業種に向かっている」──。
加OpenTextのマーク・バレンシアCEO(Chief Executive Officer:最高経営責任者)兼社長は、同社年次イベント「Enterprise World 2014」の基調講演で“デジタルファースト”への対応が必要だと訴えた(写真1)。
「XXファースト」は、ここ最近、ITベンダー各社がITトレンドや自社製品の優位性を語る際の常套句になっている。「クラウドファースト」や「モバイルファースト」がそれだ。米AWS(Amazon Web Services)や米Googleによるクラウドショック以後、事業戦略を立て直してきたITベンダー各社が、クラウドシフトやモバイル対応を訴える。
そうした中で、OpenTextはなぜ「デジタルファースト」をメッセージに選んだのか。その答えは、同社が推進するEIM(Enterprise Information Management)戦略にある(関連記事『「非構造データの取り込みが2020年の成否を決める」加OpenTextのCEO』)。文書に代表される非構造データを抑え、クラウドやモバイルを使った最新システムと既存システムをつなぎ合わせる“糊”のポジションに立ちたいためだ。
最新システムと既存システムをつなぐために、OpenTextの打ち手を、Enterprise World 2014での発表内容を中心に見ていこう。クラウドやモバイルを導入したとしても、企業のビジネスは既存システム抜きには動かないだけに、その考え方は参考になるはずだろう。
デジタルファーストを求める3つの圧力
マークCEOは、デジタルファーストを求める圧力として3つの事柄を挙げる。1つは、破壊的テクノロジーの登場だ。ウェアラブルデバイスや5G(第5世代移動通信)、3Dプリンティング、ロボティクスなどだ。これらのテクノロジーによって、「労働者の2000万〜2500万人が職を失う。ERP(Enterprise Resource Planning)も職を奪ったが、せいぜい1000万人だった」とマークCEOは、危機感をあおる。
第2の圧力は、世代交代である。なかでも「クラウド世代の台頭に照準を合わせるべき」(マークCEO)という。クラウド世代とは、例えばエンジニアであっても、オンプレミスな環境でシステムを開発・構築した経験がないような世代を指す。企業家も、クラウドとOSS(Open Source Software)で事業を立ち上げる。2020年の主流は、デジタルネイティブならぬクラウドネイティブだというわけだ。
そして最後が、徹底した自動化だ。現状でも1日に何十、何百の電子メールに忙殺されている我々だが、今後はIoT(Internet of Things:モノのインターネット)などにより、デバイスが発する情報にも注意を払わなければならなくなる。巨大化するサプライチェーンを、たった数人で運用できるような仕組みを実現できるよう、ビジネスモデルの再定義が必要とする。
クラウド/モバイルファーストで強調される顧客接点やIoTの影響を加味しつつも、企業内の業務プロセスに視点を向けさせているのも、EIM戦略の現れだといえる。
BPM製品で顧客システムも自社製品群もつなぐ
これらの圧力に対抗し、デジタルファーストに対応するためにOpenTextが投入するのが「SP1TG15」である。SP1は、同社のスイート製品群の最新バージョンを、TG15は文書やデータを交換するためのメッセージングサービス「TradingGrid」の2015年版をそれぞれ指している。
スイート製品群としてOpenTextは、5つの柱を持っている。(1)ECM(Enterprise Content Management)、(2)CEM(Customer Experience Management)、(3)BPM(Business Process Management)、(4)IX(Information Exchange)、(5)Discoveryである。
(1)ECMは、文書など非構造データを管理する仕組み、(2)CEMはWebやモバイルデバイスにおけるユーザーインタフェースを開発/管理する仕組み、(3)BPMはビジネスプロセスの管理である。(4)IXはEDI(Electronic Data Interchange:電子データ交換)を、(5)Discoveryは管理するデータを検索したり解析したりするための仕組みのこと。いずれも最新版を2015年1月から順次投入する。
これらSP1の中でも、デジタルファーストに向けた“糊”としての重要な役割を担うのが、BPMとIXだ。BPMのスイート製品は、買収した蘭Codsyの製品を元に開発する「Process Suite」、IXの中核に位置するTradingGridも買収したGXSのEDIネットワークや、EDIに付随するBPO(Business Process Outsourcing)サービスなどから構成されている(関連記事『基礎から分かる『EDI再入門』〜グローバル企業のビジネス情報連携方法〜』)。
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つまり、ERPシステムなど「Systems of Record」と呼ばれる既存システムと、モバイルやIoTなど「Systems of Engagement」と呼ばれる新しいシステムとの間でやり取りするデータをTradingGridで交換。両者をつないで生まれる新しい業務プロセスをProcess Suiteで管理することで、企業情報システム全体の自動化や最適化を図るというシナリオだ(写真2)。
BPMツール上にフレームワークやアプリケーションを用意
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BPMを容易に適用できるよう、Process Suiteは大きく2つの層からなっている。基本機能を提供する「Process Platform」と、その使い勝手を高める「Process Component Library(PCL)」である(写真3)。
PCLは、ケースマネジメントなど汎用的な機能を集めたサービス部品群だ。「Framework Components」と「Functional Components」「Interface Components」の3つに分かれている。
例えばInterface Componentsは、事業部門の担当者などが、よりビジネスに近い視点でプロセスマネジメントを設定/変更できるようにする。具体的は、ロールベースやビジネスベースでのプロセスマネジメント機能や、ナビゲーション機能である。
PlatformとPCLを使い、SCM(Supply Chain Management)やCloud連携のためのアプリケーション群も用意する。
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