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[市場動向]

ビジネスアナリシスの知識体系、“経営価値”へ照準合わせた「BABOK V3」が始動

2015年4月28日(火)志度 昌宏(DIGITAL X編集長)

「BABOK(Business Analysis Body of Knowledge):ビジネスアナリシスのための知識体系、バボックまたはビーエーボク」が2015年4月、最新版の「BABOK V3」に改編された。ITプロジェクトの推進主体から、経営が求める価値の実現へと対象範囲を拡大すると同時に、アジャイル開発やビッグデータ活用などの最新技術も取り入れた。ITの経営貢献価値がますます求められる中、利用企業においてはBABOK改編の意味を知り、体系的なアプローチを実践すべきだろう。

 「BABOK(Business Analysis Body of Knowledge):ビジネスアナリシスのための知識体系、バボックまたはビーエーボク」という知識体系の存在をご存じだろうか。2009年に現行の「BABOK V2」が公開され、日本でも要求分析への問題意識の高まりとともに注目を集めたため、実際に取り組んだ読者もいることだろう。

 BABOKは、ビジネス要件をITプロジェクトに落とし込み、システムとして完成させるまでの過程で必要になる知識を、7つのエリア32のタスクに体系化づけたものである。ただし、成功のための方法論でもなく、実行順序も規定していない。必要な知識を抽出し、活用すれば良いとのスタンスだ。ただ残念ながら、BABOKが定着し、人材層が広がっているとは言い難い。

 理由はいくつか考えられる。1つは、方法論ではないこと。「この方法で取り組めばゴールに到達できる」わけではなく、BABOKを見ただけでは、一般的なコンサルティング手法などとの違いが分かりづらい。

 もう1つは、BABOKの主眼がITプロジェクトの推進だったこと。結果、“赤字プロジェクト”撲滅に注力するITサービス会社のツールのイメージが強かった。リーマンショックなどに伴うIT投資の縮小もBABOKへの関心を削いだといえそうだ。IT投資案件がなければプロジェクト推進のニーズも下がるからだ。クラウドコンピューティングの台頭で、ITの最適化が基盤のコスト削減に目が向いたこともある。

ITプロジェクトと成功は必ずしも経営ニーズに合致しない

 そのBABOKが最新バージョンの「V3」になり、2015年4月に正式公開された。2009年公開のV2との最大の変更点は、対象範囲がITプロジェクトから経営ニーズに対する価値創造にまで拡大されたこと(図1)。BABOKの啓蒙団体「IIBA(International Institute of Business Analysis)」日本支部の清水千博BABOK担当理事は、「ITプロジェクトの成功とビジネスの成功は必ずしも同義ではないということの現れだ」と説明する。

図1:BABOKのV2からV3へのバージョンアップに伴う対象の変化図1:BABOKのV2からV3へのバージョンアップに伴う対象の変化
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 この点は、日本企業も同じはず。経営スピードの向上やグローバル展開、あるいは顧客接点を拡大するためのモバイル対応など、これまで先送りせざるを得なかった案件が一気に吹き出している。優先順位を付けるのさえ、難しくなってきているのではないだろうか。

 詳細は後述するが、BABOK V3の変更点を見れば、欧米では経営とITの関係がより密接になり、ビジネスゴールにリンクしないITプロジェクトには、そもそも価値を見いだせなくなっている、あるいは、単にシステムを構築して終わりではなく、現場教育による定着やフィードバックを受けての継続的な改善によりビジネスゴールに近づくための施策も重視したいと考えていることが分かる。

 IIBA日本支部が東京・秋葉原で2015年4月25日に開いたV3公開記念セミナーの基調講演に登壇した米カリフォルニア州立大学ポモナ校の一色浩一郎教授は、欧米の実状を次のように説明する。同教授は、BA(ビジネスアナリスト)を含め、企業がビジネス戦略に沿ったITシステムを立案し実現するために必要な人材教育などを手がけている。

 「売上高に対するIT投資率が、日本の1.2%程度に対し米国が4%を超えるのは、収益率が3倍以上と高いため。IT投資は戦略であり、次のビジネスにつながらない情報システムには投資しない。運用保守にIT投資の8割が振り向けられるという構図はあり得ない」。

 同教授によれば、海外では、BABOKのスキルを持つ人材は、主に利用企業側に所属する。「ビジネスアナリストは欧米では、PMO(Project Management Office)に属する職種の1つとして認知されており、利用企業からの求人も多い。利用企業としてBAやPMOを雇用・育成していない日本は、情報システムに対する責任を放棄していることになる」と指摘する。

 一色教授の講座には、日本企業からの留学生もいるという。それでも卒業生は、「過去23年間を掛けて総計500人程度」(一色教授)。日本企業の競争力を高めるには、「世界はどんどん変わっている。例えば米Wal-Mart Storesのような老舗企業も、12年前からアジャイル開発にシフトしている。日本企業も、BABAOKをテコに、システム構築、システム投資の考え方を改める必要がある」(同)とする。

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