[2020年を見据えた「グローバル企業のIT戦略」]

IoTで活性化するロボットとAI─感情をデジタルで扱うために:第23回

2015年9月7日(月)入江 宏志(DACコンサルティング 代表)

2020年を見据えた「グローバル企業のIT戦略」を取り上げる本連載。IT戦略における日本と世界の差異を見極めるための観点としてこれまで、クラウド、GRC(Governance、Risk Management、Compliance)、ビッグデータの各テーマについて論じてきた。前回から、「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」をテーマに切り替え、IoTを取り巻くテクノロジーの背景について説明した。今回は、IoTによるシステム化により関連性が深くなるロボットや人工知能について見てみる。

 デマンドドリブン型、イベントドリブン型に続く第3のシステムが、人の感情を起点に動く「エモーションドリブン型」であると、第21回で指摘した(『IoTが導く第3のドリブンは“エモーション(感情)”)。

図1:左脳と右脳の役割図1:左脳と右脳の役割
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 これまでのITは、PDCA(Plan、Do、Check、Act)に基づくデマンドドリブン型で左脳的なシステムを作ってきた。明確な要求(デマンド)を文字や言葉という入力として受け取り、論理的に分析し合理的に処理する(図1)。

 イベントドリブン型になると、あいまいなイベントをIoTデバイスから読み取り、OODA(Observe、Orient、Decide、Act)に基づき、感性的・直観的な右脳的な処理を繰り返すことで創造的に答えを得ていく。このあいまいな入力が人の感情に変わればエモーションドリブン型になる。

センサーが感情をデジタルデータに変える

 そこでの課題は、感情をどうとらえるかである。そのための手段の最有力候補が、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)だ。IoTデバイスをウェアアラブルにし身体に身に付ければ、脈拍や心拍数の変化から感情を察知できるからだ。米Googleが開発するコンタクトレンズは血糖値を、米Proteus Digital Healthが開発中のデジタル錠剤は心臓を含む体内のデータをも収集できる。

 ウェアラブルでなくても、動画像などからも人の感情は読み取れる。既に表情からは感情がある程度認識できる。さらに、東京農工大学などによる研究では、歩き方からも感情が分かることが証明されている(発表文『ロボットが「歩き方」によって人の感情を認識可能と証明』)。

 こうした期待から、センサーの市場が有識者の予想を超えるスピードで広がっている(【第22回】IoTでデータを再集中させるセンサーの課題が未解決)。センサーは、光や、電磁波、音波、熱、化学反応、生体情報、加速度、角速度、流量といったアナログな変化をデジタルなデータとしての利用を可能にする。

 これらのセンサーを使ったIoTデバイスをシステム化する際に、関連性が深くなるのがロボットや人工知能(AI:Artificial Intelligence)だ。

 まずは最近、話題になったロボットの例をいくつか見てみよう。

パナソニックの「アシストスーツ」:重いものを持ち上げる装着ロボット。腰と太ももに取り付け、身体への負担を軽減する。医療や介護分野での使用が期待されている。決められた仕組みに沿って動作するデマンドドリブン型である。

東京大学の「アキレス」:二足歩行ロボット。遠隔カメラで歩く場所を撮影し姿勢を解析する。撮影結果に基づくイベントドリブン型と言える。

英ダイソンの「ダイソン 360 Eye ロボット掃除機」:周囲360°をカメラで監視し、障害物に当たらずに自動で掃除するイベントドリブン型である。従来機種は障害物にぶつかると方向を変えるデマンドドリブン型だった。

村田製作所の「村田製作所チアリーディング部」:傾きを検知するロボットで、ボールの上でバランスを取りながら踊る。超音波と赤外線で位置情報を互いに交換することで複数のロボットがチームとして行動するイベントドリブン型である。交通システムへの適用が期待されている。

ホンダの「歩行アシスト」:高齢者らの歩行を補助する。デマンドドリブン型だが、内蔵したセンサーが動く足の角度をとらえて、モーターが力を強めたり弱めたりして歩行を誘導するイベントドリブン型とも言える。

ネスレのコーヒーメーカーを家電量販店で売り込む「Pepper」:ソフトバンク製の感情認識ロボPepperを使って製品を販売する。エモーションドリブン型の活用例である。

B2C分野での開発が進み始めたロボット

 従来、日本のロボットはB2B(Business to Business:企業間)用途が中心だった。自動車など製造業の工場で稼働する産業用ロボットあるいは寿司めしやおにぎりを握るロボットなどだ。主にデマンドドリブン型のロボットである。

 しかし2020年に向けて、日本でもロボット新戦略が動き始めている。介護や医療、サービス業、インフラ点検、農業が注視分野である。例えば、病院や介護施設で患者の世話をしたり、家庭で掃除や家事をしたり、人の話し相手になったり荷物を届けたりと、B2C(Business to Consumer:企業対個人)領域での開発が進む。

 海外ではこれまで、見た目よりも実用性を重視したロボットが開発されてきた。しかし最近は、子供を対象に、恐竜型のおもちゃと米IBMが提供するコグニティブコンピューティングサービス「Watson」をつなぐCognitive Toyなども開発されるようになっている。

 こうしたB2C分野のロボットは今後、3極化が考えられる。1つはロボットに明確な指示命令があるデマンドドリブン型で、決められたことを確実に実行する。2つ目は、相手の動きやイベントを察知して動くロボット。そして最後がエモーションドリブン型システムを搭載し、人の感情を判断して動くロボットだ。

 一方のB2B分野は、IoTデバイスを使ったイベントドリブン型システムへ進化するだろう。例えば、深海の海底熱水鉱床に眠る金・銀・レアアースを発掘するロボットによる次世代海洋資源調査技術も脚光を浴びている。

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