[2020年を見据えた「グローバル企業のIT戦略」]

IoTで活性化するロボットとAI─感情をデジタルで扱うために:第23回

2015年9月7日(月)入江 宏志(DACコンサルティング 代表)

2020年を見据えた「グローバル企業のIT戦略」を取り上げる本連載。IT戦略における日本と世界の差異を見極めるための観点としてこれまで、クラウド、GRC(Governance、Risk Management、Compliance)、ビッグデータの各テーマについて論じてきた。前回から、「IoT(Internet of Things:モノのインターネット)」をテーマに切り替え、IoTを取り巻くテクノロジーの背景について説明した。今回は、IoTによるシステム化により関連性が深くなるロボットや人工知能について見てみる。

第1次AIブームから30年を経て実用期に

 センサーとロボットの間にあって、人間の頭脳と同様の働きをするのが、人工知能である。日本では1982年に「第5世代コンピュータ」プロジェクトが立ち上がり、1985年頃には第1次AIブームが起こっている。そこでの多くの成果が現在の礎にはなっているものの、当時は本格的に使われるというよりも、実証実験レベルにとどまるものが多かった。

 それから30年が経ち、グローバルでは着実な成果が出始めている。特にIT業界では現在、M&A案件で活発なのは、AI/ロボット系、モビリティ、エネルギー、音楽、ソーシャル、アプリケーション開発系の6種である。例えばGoogleは、AI研究開発の英DeepMind、ロボットアームの米RedWood Robotics、ロボットメーカーの米Boston Dynamics、ヒューマノイドロボットのシャフトなどを買収している。

 国家プロジェクトも動き出している。米国では、2013年にオバマ大統領が「Brain Initiative」を立ち上げた。脳神経回路の全細胞の全活動を記録し解析することで、脳の情報処理や記憶などのメカニズムを知る計画である。当初の目的は、脳の難病の克服にあるが、将来的には強い人工知能を創造する戦略となる。EUは「Human Brain Project」で2022年までに人間の脳を再現する計画だ。

 こうした中、AIに関する特許件数は、日本からの出願数は米国や中国のそれを大きく下回っている。米国の約6分の1、中国の約2分の1だ。しかも日本は、米国同様に企業による特許出願が多いのに対し、中国では大学からの出願が目立つ。原因として、1980年代の期待感と実際の落差から、1990年代以降、大学での人材育成に遅れが出たことは否めない。

左脳的と右脳的の両アプローチが重要に

 ところでマーケティングの世界において特に日本では、KKD(勘と経験と度胸)という右脳的な方法が取られてきた(図2)。ITシステムは左脳的(論理的)な仕組みだから、右脳的なマーケティング手法が主体の日本では、ITを組み合わせることに多少無理があった。これまでマーケティング分野でITが本格的に利用されなかった遠因が、ここにあるかもしれない。

図2:マーケティングとITの組み合わせ図2:マーケティングとITの組み合わせ
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 これに対し米国では、左脳的なマーケティング手法に左脳的なITシステムを組み合わせるというスムーズな流れができている。ビッグデータを分析した結果を採り入れようというのも左脳的な方法が定着している現れだろう。

 しかしながらIoTが広がる今後は、左脳的だったITシステムがイベントドリブン型/エモーションドリブン型という右脳的に変化していく。そうなれば、日本的な右脳的マーケティング手法にも、右脳的なITシステムを組み合わせられるようになる。

 現在日本では、国立大学は理系を、私立大学は文系を強化する流れが垣間見られる。だが、IoT時代のシステム活用においては、感性的な右脳と論理的な左脳との両面からのアプローチが、理系/文系を問わず求められることだろう。

 次回は、IoT編の最終回として、IoTによる未来への可能性を見てみることにする。

著者プロフィール

入江宏志(いりえ ひろし)
プロティビティLLC Executive Principal。クラウド、ビッグデータ、GRC、次世代情報システムやデータセンターなど幅広い領域を対象に、新ビジネスモデル、アプリケーション、ITインフラの3つの観点からコンサルティング活動を実施。30年間のIT業界経験の中で、第4世代言語の開発者を経て、IBM、Oracle、NTTグループのDimension Dataで首尾一貫して最新技術エリアを担当してきた。現在は、戦略とリスクマネジメント・内部監査を中心とした外資ビジネスコンサル会社であるプロティビティに勤務する。

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