[市場動向]

富士通と安川情報のIoTビジネス、実用性に優れる一方で将来戦略に疑問符も

2016年1月25日(月)田口 潤(IT Leaders編集部)

2016年、最もホットなITキーワードの1つである「Internet of Things:モノのインターネット」。しかし工場や設備系のITは生産部門や施設管理部門が管轄するケースが多い。製品自体のIoT化や、モバイルデバイスによる人のIoT化になるとなおさらで、情報システム部門やCIOは管轄外となりがちだ。当然、それでいいわけではないし、それで済むわけでもない。

 MMLinkは、イーサネットに加えてRS-232Cという古くからのインタフェースにも対応する箱形の装置。なぜ規格上の最高速度は20kビット/秒と低速なRS-232Cが今も必要なのか。「日本の工場や現場では20年以上前の機械が現役で動いており、RS-232Cでしか接続できない制御装置も数多くある」と同社は説明する。IoT=インターネット技術とは限らないわけである。一方でSIMカードは海外のものに対応するので、海外に設置された機器も監視できる。

 回線サービスは、NTTドコモなどの携帯回線を仕入れ、小口にして安価な料金で提供する、いわゆるMVNO(仮想移動体通信事業者)である。もう1つのMMCloudは、機械に直結するプログラマブル表示器の画面をパソコン上に再現したり、集めたデータを蓄積・分析したりするためのソフトウェア。SaaSとして提供することから、MMCloudという名前になっている。

 これらをYSKは単独、あるいは組み合わせてソリューションとして提供する。顧客である機器や設備メーカーから見れば、ほぼワンストップで遠隔監視や制御の仕組みを構築できる点が評価され、すでに実績を積み上げつつある。小規模な工場で使う機械や設備の遠隔監視はもとより、厳重な温度管理が必要な医薬品の配送用保冷車の温度監視、家庭や事業所に設置した蓄電システムやソーラーパネルの遠隔監視などだ(図5)。

図5:YISの蓄電システムの遠隔監視の仕組み図5:YSKの蓄電システムの遠隔監視の仕組み
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 今後を睨んだ強化も計画している。「MMCloudにはすでに機械学習機能も実装した。これを生かして異常発生や交換時期なとを把握する予防保全をやっていきたい」。YSK自身がMVNOであるにも関わらず、IoTに特化したMVNOベンチャーであるソラコムなどとも提携した。「強みはMMLinkとソリューション力。優れた製品やサービスは、どんどん取り込みたい。MMCloudのITインフラも自社ではなく外部のIaaSを使っている」。

将来に向けた戦略は存在するか?

 さて2社のIoTソリューションを、読者はどう思っただろうか?それぞれ実用性は高く、ユニークな特徴や機能を備えるが、筆者は何かが足りない気がした。例えば、富士通のセンサーアルゴリズムとYSKのMMCloudは連携動作するか、YSKのMMLinkは富士通のユビキタスウェアで利用できるか、あるいは業務システムとの連携はそれぞれどうか、といったオープンな連携である。

 IoTがステージ(1)から(2)、(3)、(4)へと広がり、ユーザーが増加する今後、ハードウェアではアジア諸国の安価な製品が、ソフトウェアでは米国の商用ソフトやオープンソースソフトウェアなどが競合になるはずだ。その時、富士通のセンサーアルゴリズムやコアモジュール、YSKのMMlinkやMMCloudは競争力を担保できるのか、その戦略はあるのか、といったことでもある。

 あまり先のことを心配するのは意味がないかも知れない。だが過去、PCやモバイル端末で、あるいはソフトウェアでも、同様なことが繰り返されてきた。両社には同じ轍を踏むことを避けてほしい。この点では、ユーザー企業側、特にCIOや情報システム部門からのベンダーへの働きかけも期待される。

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