[イベントレポート]
デジタルとリアルの融合―3D CADの可能性を“拡張”するAR/VRテクノロジー
2017年2月17日(金)鈴木 恭子(ITジャーナリスト)
AR(Augmented Reality:拡張現実)やVR(Virtual Reality:仮想現実)テクノロジーが3D CAD(Computer Aided Design)の分野をも拡張しようとしている。仏ダッソー・システムズ(Dassault Systèmes)傘下のソリッドワークス(Dassault Systèmes SolidWorks)は、2017年2月5日~8日、年次プライベートイベント「SOLIDWORKS WORLD 2017」を開催した。本稿では、展示会場を埋め尽くした100を超える出展から、特に印象深かった製品や試作品を一挙紹介する。
ミッションクリティカルな救助ロボット「RoboSimian」
3D CADは、ロボティクス分野においても開発期間を大幅に削減できるソリューションとして活用が始まっている。3D CADでロボットの設計検証や構造解析、動作解析を行うことで、コンピュータ上で挙動検証とシミュレーションが可能になるからだ。これにより、実機試作に要する時間とコストが大幅に削減できると期待されている。
米モティブ・スペースシステムズ(Motiv Space Systems)とJPL(Jet Propulsion Laboratory:ジェット推進研究所)が共同で展示した多脚ロボット「RoboSimian」は、こうした手法で作成された、ミッションクリティカルな救援活動ロボットだ(写真6)。もともとは、米国国防総省の機関であるDARPA(Defense Advanced Research Projects Agency:国防高等研究計画局)が主催するコンテスト「Robotics Challenge」に出場するために開発されたものだ。
RoboSimianでは、すべてのメカニカル・エンジニアリング設計とエレクトロニクス・パッケージング設計にSOLIDWORKSを用いている。また、運動解析や空間分析、操作のシミュレーションなど、開発全般にわたって同ソフトを活用しているという。
RoboSimianの中央には高性能アクチュエータ(駆動装置)が備わっており、4本のアームを操作する。アームには3組の関節があり、複雑な地形やがれきの上も移動が可能な設計になっている。基本的に4足(アーム)歩行だが、2アームで“直立”することもできる。アームの先端は道具を取り付けられ、レバーをひねったりハンドルを回したりといった操作も行えるようになる。
動画1:YouTubeでRoboSimianの動画が公開されている
モティブのブース説明員に活用シーンを聞くと、「用途が(災害救助に)限定されているので、基本的にカスタム案件となる。想定するのは、東京電力福島第一原子力発電所の事故クラスの災害だ」との答えが返ってきた。カスタマイズ案件なので価格は個別対応となるが、「目安は日産自動車のEV(電気自動車)リーフ1台程度の値段」(説明員)になるという。
輸送用コンテナ内で野菜を安定栽培「The Leafy Green Machine」
2010年設立の米フレイトファームズ(Freight Farms)は、輸送用コンテナを再利用した自動水耕栽培システム「The Leafy Green Machine」の開発を行うベンチャー企業だ。展示会場には4畳半ほどのサイズのコンテナが展示されていた(写真7)。コンテナ内部には光合成を促進するためのLEDライトが備わっている。湿度、温度、ライト、二酸化炭素量などをスマートフォンから制御が可能で、栽培する野菜に合わせて適切な環境を自動調節できるという。
収穫までの栽培時間は屋外環境の約半分程度。例えば、屋外では収穫までに10週間かかっていたリーフレタスが、LGMなら5週間で収穫できるようになる。同社マーケティング担当のキャロライン・カットシロバス(Caroline Katsiroubas)氏(写真8)は、「水の使用も屋外栽培の10分の1しか利用しない。太陽発電から電力を供給できるようになれば、砂漠などでも野菜が安定供給できる」とアピールする。
フレイトファームズの場合、コンテナ内部の環境構築にSOLIDWORKSを利用している。3Dプリンティング、シートメタル(板金)、レーザーカッターを用いて短時間で試作品を製造し、コンテナ内の効率的かつ最適な空間利用を設計/テスト/検証しているという。さらに、SOLIDWORKSから製造に必要なドキュメントを生成したり、最終モデルをレンダリング処理したりすることで、サポート用資料やマーケティングツールの製作時間の短縮を図っている。