技術の進展により社会が大きく変化していくなか、企業は今後どのような観点から成長戦略を描いていけばよいのだろうか――。IT(Information Technology)とOT(Operational Technology)双方の技術を有する日立は、そのノウハウを生かしてさまざまな経営課題を解決すべく、IoTプラットフォーム「Lumada」を発表した。「データマネジメント2017」のセッションにおいて、この基盤のもとで人とモノの多様なデータをつなぎ、顧客との“協創”でかつてない価値を生み出していくビジョンについて解説した。
ITとOTの融合を推進する3つの技術によるアプローチ
データ利活用によってさまざまなビジネスの課題を解決し、新たな価値を創出する環境を作ることは、あらゆる企業にとって急務となっている。だが、そうした中で顕在化しているのが、例えば、「膨大なデータを分析しようにも処理負荷が重く、夜間バッチでデータマートを作成するしかない」「さまざまなデータを収集しても型や粒度がバラバラすぎて結合できない」「IT側のデータだけでも手を焼いており、さらに生産ライン制御システムなどOT(Operational Technology)側のデータまで統合して利活用するのはとても無理」といった“限界”だ(図1)。
日立製作所 サービスプラットフォーム事業本部 ビジネスプロデュース本部の担当部長を務める吉村誠氏は、「さまざまな壁に直面している企業の課題解決に向けて、日立はセンシングやアクチュエーションなどのIoT技術とともに、高速データアクセス基盤、ビッグデータ分析、AI(人工知能)を柱とするアプローチを展開している」と語る。
まず、高速データアクセス基盤とは、サーバーやストレージの能力を最大限に引き出すためのソフトウェア技術である。「非順序型実行原理と呼ばれる新方式を採用し、データベース検索(SQL)処理を並列実行単位に自動分割して高多重で実行することで、従来の100~1,000倍高速なデータ検索性能を実現した(*1)」と吉村氏は説明する。
(*1)内閣府の最先端研究開発支援プログラム「超巨大データベース時代に向けた最高速データベースエンジンの開発と当該エンジンを核とする戦略的社会サービスの実証・評価」(中心研究者:国立大学法人 東京大学 喜連川教授)の成果を利用。
・当社従来製品との比較。解析系データベースに関する標準的なベンチマークを元に作成した、各種のデータ解析要求の実行性能を計測。データ解析要求の種類によって高速化率には差が見られるが、データベースにおいて特定の条件を満たす一定量のデータを絞り込んで解析を行うデータ解析要求を対象とした結果。
・喜連川 東大教授/国立情報学研究所所長・合田 東大特任准教授が考案した原理。
次のビッグデータ分析はデータ統合・分析基盤「Pentahoソフトウェア」というソフトウェアで、分析データを作成する際の前処理を簡素化する。データの収集・加工・出力のための部品があらかじめ200種類以上用意されているため、従来のように個別にプログラムを作成する必要がなく、GUIで定義するだけでデータを統合できるのだ。また、統合したデータをインタラクティブに分析し、レポート出力することができる点も大きな特徴だ。
そして、日立のAIは、利益や生産性といった目標に対して人間が発見困難な現場データ変化との相関を自動分析し、効果・成果(アウトカム)を向上するための施策を生成する。吉村氏はこれを「仮説を出してくれる技術」と強調する。たとえば小売業における来店データ、従業員データ、店のレイアウトデータなどの現場データからアウトカムに影響を与える相関を自動分析し、店員配置など最適化施策を提示することが可能という。
日立グループ自身のユースケースを“協創の場”から惜しみなく公開
さらに日立では、顧客との“協創”を通じて、経営指標の見える化、製品販売(モノ)からサービス(コト)への転換、製品やサービスの自律化・自動化、QoL(Quality of Life)の向上、機器の予兆保守、社員の満足度向上、社会インフラの維持管理など、多岐にわたる経営課題を解決するIoTプラットフォームとして「Lumada」を展開している。
「お客さまの立場で課題を理解し、その解決のための仮説を共に立案し、プロトタイピングと価値検証を行い、具体化していく。さらに、この協創プロセスをより短期間で確実に実行するために、日立は独自に構築した顧客協創方法論のNEXPERIENCEをはじめ、コンサルティング・エンジニアリング、設計・環境構築、運用・保守サービスなどのベストプラクティスを提供する」と吉村氏は語る。
また、日立グループ内のユースケースについても惜しみなく公開していく考えだ。吉村氏によると、横浜事業所における「オフィス・ワークスタイル変革」、「設備センサー情報の見える化」、「ヒューマンデータの分析」、大みか事業所における「多品種少量生産に向けた工場の生産改革」、「8万個のRFID(Radio Frequency IDentification)を活用した人とモノの状態監視」、「IoTを活用した作業改善」、「工場シミュレータや3D作業ビューアによる生産工程の全体最適化」、神奈川事業所における「自動倉庫+自動部品搬送車による部品搬送」、「双腕ロボットを活用した組み立て作業自動化」など、本来であれば門外不出であってもおかしくないほどの高度な知見やノウハウが紹介されている(図2)。
「毎日のように多くのお客様にご来場いただいており、日立のユースケースからインスピレーションを得ていただくとともに、お客様からもアイデアをいただいて連鎖的に新たなアイデアを生み出していく“協創の場”となっている」(吉村氏)。
もっとも、イノベーションはテクノロジーがあれば成し遂げられるわけではない。吉村氏は、「新たなやり方を現場に定着させるためには、まず“人”にフォーカスを当てる必要がある。例えばAIからさまざまな仮説が提示されたとしても、それをどのように活用するのか、最終的な意思決定は人に依存するからだ」とした。また、そうした現場の人材を輝かせるためも客観的な判断を支える(嘘をつかない)データが重要であることをあらためて強調するとともに、「継続は力なり」と訴えて講演を締め括った。
●Lumadaに関するお問い合わせ先
http://www.hitachi.co.jp/lumada/