医療機関向けサービス大手の総合メディカル(本社:福岡県福岡市)は2016年10月、「SAP S/4HANA Finance」を稼働させた。同製品は2014年12月にリリースされた「SAP Simple Finance」を名称変更したもので、同社が導入を決定したのは2015年初め。かなりのアーリーアダプター(初期導入企業)であり、その分、リスクも大きい。しかも以前に使っていたのはSAP ERPではなく、国産パッケージだった。なぜ同社はあえてリスクをテイクしたのか、費用はどう考えたのか?導入の経緯を聞いた。
まずは総合メディカルの概要を紹介しよう。同社は1978年に創業し、医療機関向けの経営コンサルティングや医業承継の支援、医療機器のレンタルやリースなどを幅広く展開する。1988年からは調剤薬局の展開を開始し、600弱の店舗網を持つ。現在は有料老人ホームや、メディカルモールと呼ぶ複数のクリニックと調剤薬局を1つの建物や敷地に集積した医療施設も運営する。社名の通り、医療に関わる様々なサービスを総合的に担っており、成長率も高い(図1)。
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同社では、こうした事業展開に合わせて事業ごとにシステムを整備してきた。コンサルティング関連、医療機器のレンタルやリース業、調剤薬局などの業務システムである。それらのデータを集約して税務報告や経営状況を管理する財務会計や管理会計システムには、10数年前からキャム(本社:福岡県福岡市)が提供する「CAM MACS」というパッケージ(現在はSaaS)を使ってきた。「MACSは財務会計システムとして導入しており、その点では問題なかった」(経営戦略本部IT戦略部の永野義昭部長)。
管理会計強化のためSAP ERPを検討
しかし管理会計の面では、いくつか不都合があった。個別の伝票(データ)をサマライズしてMACSに入力しており、例えば支店別の売上げは分かるが、得意先別の明細データを見ることができなかったのだ。「セグメントもリースか、レンタルか、割賦販売かなど厳密に把握するべきだが、そうはなっていなかった」。
といっても実務上の話ではない。リースを利用する医療機関とレンタルを利用する医療機関は異なるし、同じ取引先でも口座は別なので問題はなかった。中堅・中小向けのMACSに生データを送るわけにはいかなかったこともあり、基幹システムの段階でデータをサマライズするように構築していたのだ。
そうはいっても明細データが見えないのは、管理会計の上では不便がある。そこで2007年から、まず明細情報を出力できるよう業務システムの刷新に着手。期中にリースのオンバランス化などの法改正があったため時間がかかったが、2010年には一通り、終えることができた。続いて本丸である会計システムの刷新である。
SAP ERPを候補に検討したが、各業務システムが管理する伝票にアクセスし、見やすく加工するには中間テーブルを管理するサーバーが数多く必要になるという問題があったという。加えて2014年には消費税が5%から8%に上がることも決定しており、しばらく延期してタイミングを探ることにした。
S/4 HANAのIBPf(総合財務計画)
再び検討を本格化したのは2015年。消費税対応が落ち着き、SAPがゼロからコードを書き換えた「SAP S/4 HANA Simple Finance」を2014年末にリリースしたタイミングである。永野氏は「リリース直後の製品のアーリーアダプタになるのは正直、躊躇した。しかしコードを書き換えることによって中間テーブルを不要にするなど、シンプルになったのは大きな魅力だった」と話す。
もう一つ、決め手になった要因があった。多くの企業と同様、総合メディカルでも業務遂行のために予算・実績管理を行っている。そのための専用システムを開発して運用していたが、財務会計や管理会計システムとは別なので数字が合わない問題が生じていたのだ。「3つのシステムで組織や勘定科目が別々。メンテナンスはしていたが完全にはいかなかった」。
SAPジャパンに予実管理の仕組みの有無を聞いたところ、IBPf(Integrated Business Planning for finance(総合財務計画)」というモジュールがあることが分かった。分かりにくい名称だが、SAP S/4HANA Financeとの間でマスターデータやトランザクションデータを共有。Excelを使って予算を入力することで、予実を管理できる。時間をおかずにデモを見たところ、「これが求めていたものだと確信した」(同、図2)。
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