[ユーザー事例]

総合メディカルはなぜ"アーリーアダプター"になったのか?─S/4HANA Financeを導入した理由と経緯を聞く

2017年7月18日(火)田口 潤(IT Leaders編集部)

医療機関向けサービス大手の総合メディカル(本社:福岡県福岡市)は2016年10月、「SAP S/4HANA Finance」を稼働させた。同製品は2014年12月にリリースされた「SAP Simple Finance」を名称変更したもので、同社が導入を決定したのは2015年初め。かなりのアーリーアダプター(初期導入企業)であり、その分、リスクも大きい。しかも以前に使っていたのはSAP ERPではなく、国産パッケージだった。なぜ同社はあえてリスクをテイクしたのか、費用はどう考えたのか?導入の経緯を聞いた。

 システム部門としてはこれで決まりだが、もう1つ、難題があった。保守費を含めた年間のIT費用が増えることだ。過去のIT投資を精査し、年間のIT投資が3倍強に増えること、それでも総合メディカルの規模では適正な水準であることを調べた上で、経営層にこう説明した。「導入すれば、きちんとした粒度で会計情報を正確に得られるようになる。今まではできなかった支店別や得意先別など必要な切り口で見ることができる。その対価として、3倍の費用を了承して欲しい」。

 経営サイドの了承を取り付けて、導入に着手したのは2015年春。同年秋口に要件定義を終え、2016年春にS/4HANA Financeの導入を完了した(図3)。そこから人事給与や経費精算、リースレンタル、薬局システムといった業務システムの作業を実施した。連携ツールにはASTRIA Warp(インフォテリア)を採用している。「以前に使った時はあまりいい印象ではなかった。改めて使うとかなり良くなっていた」。導入コンサルティングはアビームに委託した。

(図3)会計システム刷新プロジェクトのスケジュール。計画通りに進捗した
拡大画像表示

環境構築と移送は念入りに

 2016年6月には連携作業を終え、9月末までの4ヵ月をかけてテストを念入りに行った。「SAPの導入では開発、テスト、本番という3つの環境の移送にトラブルが出がちなこと。まだ導入実績が少ないので、環境構築と移送は念入りに行うべきという、アビームコンサルティングの推奨に従った。結果として大きなトラブルはなく、この点も含めてアビームには感謝している」。

 ちなみにアーリーアダプタだけに3つの環境はきっちり用意した。ただし小規模で済む開発環境はオンプレミスで用意し、テストと本番環境にはクラウドを使っている。「2015年の時点では、S/4 HANAを稼働させたことがあるクラウド事業者がほとんどなかった。IIJが何かあってもサポートすると言ってくれて、費用面も頑張ってくれたのでIIJ GIOを利用している」。

 SAP導入で問題になりがちなデータ移行については先回りして手を打っていた。顧客マスターや仕入れ先マスター、製品マスター、医療機器や物品のコードなどのデータはSAPを導入するか否かとは別に、何年もかけて整備し、必要なものは標準化していたのだ。「『何の役にも立たないコードに変える必要があるのか』といった声が現場にはあり、実際、なかなか会計システムを刷新できなかったので”オオカミ少年”の状態だったが、ようやく払拭できてホッとした」。

 2016年10月の稼働後はどうだったか?入念にテストしたおかげで開発に伴うトラブルはほぼゼロだったが、S/4 HANA Financeという新しい製品ゆえの問題がいくつか発覚した。「例えばリース物件に関わる変更登録。10月1日に登録しても、S/4 HANA Financeでは11月以降に反映される。聞いてみると『欧州の会計基準では正しい』という返事。しかし日本の会計基準には合わないし、HANA以前はできていた。日本ではらちが明かないので、ドイツに行って交渉した」。SAPジャパンによる交渉もあったはずだが、ドイツのSAP本社に出向いて交渉すると、1月には修正されたという。

 これ以外にも現場の操作ミスやシステム運用サイドの不慣れに起因するマイナートラブルはあったが、2017年に入ると落ち着いた。「安定するまでの時間は短かったと思うし、それ以上に新システムの効果は大きい。例えば過去、税務申告は鬼門でいろんなトラブルがあった。2017年は新システムで申告したのだが、まったく問題が発生しなかった」。

 なにより、事業の現況をくっきり数字で把握できるようになったことが大きいという。「事業別、プロジェクト案件別、顧客別採算などの経営情報をタイムリーに把握できるようになったので、事業責任を負う執行役員などから好評を得ている。サマリーデータを持たずに明細をリアルタイムで集計しているので、見たければ即座に明細にドリルダウンできるのも大きい」。投資額は小さくないにせよ、慎重な検討と思い切った決断によって、アーリーアダプタになった効果は十分にあったようだ。

関連キーワード

総合メディカル / S/4HANA / ERP / 医療 / SAP / 基幹システム / 福岡県 / 福岡市 / ASTERIA Warp

関連記事

トピックス

[Sponsored]

総合メディカルはなぜ"アーリーアダプター"になったのか?─S/4HANA Financeを導入した理由と経緯を聞く [ 2/2 ] 医療機関向けサービス大手の総合メディカル(本社:福岡県福岡市)は2016年10月、「SAP S/4HANA Finance」を稼働させた。同製品は2014年12月にリリースされた「SAP Simple Finance」を名称変更したもので、同社が導入を決定したのは2015年初め。かなりのアーリーアダプター(初期導入企業)であり、その分、リスクも大きい。しかも以前に使っていたのはSAP ERPではなく、国産パッケージだった。なぜ同社はあえてリスクをテイクしたのか、費用はどう考えたのか?導入の経緯を聞いた。

PAGE TOP