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[市場動向]

数字で見るテレワークの実態

いまだ黎明期にある日本のテレワーク、浸透にはIT環境と制度の整備に加え、意識改革が必要

2017年9月22日(金)森 英幸(IT Leaders編集部)

テレワークの導入は、働き方改革を進めるうえで中核となる施策の1つである。今年7月24日には、2020年の東京オリンピック開幕時の混雑緩和を見据えて「テレワーク・デイ」が実施され、927団体、約6.3万人(推定)が参加し、大いに耳目を集めた。盛り上がりを見せるテレワークだが、その実態はどうなのか。そこで本稿では、総務省がとりまとめた「平成29年版 情報通信白書」と「平成28年 通信利用動向調査」の結果を引用しつつ、日本のテレワークの現状をレポートしたい。

導入企業は全体の13.3%、なかなか進まない中小企業のテレワーク

 働き方改革の目的は、長時間労働の抑制やワークライフバランスの実現、ダイバーシティの推進など様々であるが、日本政府の狙いとしては、「少子高齢化による労働人口の減少」、「日本の低い労働生産性」(世界20位)といった大きな課題を抱える日本において、この先どうやってGDPを伸ばしていくかという点にある。

 すなわち、より多くの人が労働に従事できる環境づくりと、労働生産性を高める施策の両輪によって、日本経済を成長させていこうというのが、働き方改革の中心となる考え方だ。

 この考え方からすれば、今注目を集めるテレワークは、二重の意味で重要な施策と言える。テレワークを導入すれば、育児や介護、病気療養のために職場を離れた人が、在宅勤務で職場復帰を果たすことが可能になるし、営業職などオフィス外での活動の多い人が、出先であるいは移動中に業務を進めることができるようになるからだ。

 では、実際のテレワークの導入状況はどうなっているのかと言うと、平成29年版 情報通信白書(総務省)によれば、導入企業の割合は2016年時点で13.3%となっている(図1)。これは全体の7分の1に満たないわけで、昨今のテレワークブームからするといささか拍子抜けする数字だ。しかも、グラフを見ると2015年の16.2%から3ポイント近く後退してしまっている。もっとも、2015年の調査は回答企業数が例年に比べ1割以上少なく、サンプルに偏りがあった可能性が疑われる。つまり、2015年調査では実態以上によい数字が出てしまったのではないか、ということだ。

図1:企業におけるテレワーク導入率(出典「平成29年版 情報通信白書」総務省)図1:企業におけるテレワーク導入率(出典「平成29年版 情報通信白書」総務省)
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 それでは、もう少し詳しく見てみよう。図2はテレワーク導入状況を従業員規模別に集計した結果だ。これを見ると、従業員数が増えるにつれ、導入率が高くなっていることがわかる。従業員301人以上の企業では、導入済みが20.4%、検討中を含めると27.9%と、決して高いとは言えないもののそこそこの割合である。

図2:企業におけるテレワークの取組状況(従業員規模別)(出典「平成29年版 情報通信白書」総務省) 図2:企業におけるテレワークの取組状況(従業員規模別)(出典「平成29年版 情報通信白書」総務省)
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 規模が大きいほど導入率が高くなるのは、ある意味当然の結果だ。例えば、小規模な製造業の場合、従業員のほとんどが工場勤務でホワイトカラーはほんの一握り、しかも職場以外でできる業務はほとんどない、ということも多いだろう。そうした企業では、勤務制度としてテレワークを検討する意味がほとんどない。一方、同じ製造業でも、従業員規模が大きくなり、ホワイトカラーの従業員が一定数を超えれば、テレワークを検討する意義が生まれてくる。

 いずれにせよ、全体で10%台前半、301人以上の規模でも20%ほどという導入率を見ると、いまだ日本企業のテレワークは黎明期にあると言ってよい。

テレワークの推進は、IT環境・勤務制度・意識改革の三位一体で

 では、導入済み企業におけるテレワークの実態はどのようなものだろうか。図3は、テレワーク導入済み企業における、テレワーク利用者の割合を示したグラフだ。平成28年の調査では、利用者5%未満の企業が45.4%、利用者5~10%未満の企業が8.2%であり、過半数の企業でテレワーク利用者は従業員の10%未満という結果になっている。また、テレワークの形態で見ると、モバイルワークが圧倒的に多く(63.7%)、在宅勤務(22.2%)やサテライトオフィス勤務(13.8%)は少数派だ。

図3:テレワークを利用する従業員の割合(出典「平成28年 通信利用動向調査」総務省) 図3:テレワークを利用する従業員の割合(出典「平成28年 通信利用動向調査」総務省)
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図4:導入しているテレワークの形態(出典「平成28年 通信利用動向調査」総務省)図4:導入しているテレワークの形態(出典「平成28年 通信利用動向調査」総務省)
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 これらのことから推測されるのは、外回りの営業担当者が出先のカフェで見積書を作成する、といったような特定の職種・特定の利用シーンに限定されたテレワークの姿である。もっとも、テレワーク勤務制度がない企業がいきなり全社導入に踏み切るのは無謀である。まずは導入しやすい部署から試験導入して、知見をためて勤務制度の精緻化を図りつつ、段階的に規模を拡大するというのがテレワーク導入の王道であろう。導入済みの企業でも、その多くが自社に適したテレワークのあり方を模索している状態にあると言えるだろう。

 さて、ここまで見てきたのは、企業を対象とした調査の結果であるが、「平成28年 通信利用動向調査」には、従業員個人を対象にした調査結果も掲載されている。その中で注目したい項目が、「テレワーク実施希望の有無」だ(図5)。

図5:テレワーク実施希望の有無(出典「平成28年 通信利用動向調査」総務省)図5:テレワーク実施希望の有無(出典「平成28年 通信利用動向調査」総務省)
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 これを見ると、テレワークに意欲的な人は22.4%しかおらず、否定的な意見が78.2%と大勢を占めている。調査対象者に、テレワークが現実的ではない業務に従事する人が含まれることを勘案しても、ここまでネガティブなイメージが強いと驚かされる。無駄な時間を減らし、柔軟な働き方を可能にするテレワークは、本来、従業員に歓迎される制度であるはずだ。それが逆の結果になっているのは、テレワークに対する理解不足があるのではないかと思われる。「どこででも仕事ができるようになると、今より多くの仕事が振られるようになるのではないか」といった不安があるのかもしれない。人の心理には多かれ少なかれ、変化を嫌う「現状維持バイアス」があるものだが、変化についての知識が乏しいと、その傾向はいっそう強くなる。

 実際、テレワークの導入においては、「IT環境の整備」、「制度面の整備」、「社員の意識改革」の3つを足並みをそろえて進める必要がある。IT環境の整備だけが先行して制度が追いつかないと、「会社でも家庭でも仕事漬け」という事態が発生しかねないからだ。

 情報通信白書では、IT環境と制度面の下地は出来ているものの、何らかの理由でテレワークを導入していない企業を「テレワーク導入可能群」としており、ここに分類される企業へのテレワーク導入が、全体の底上げに不可欠だとしている。図6は、テレワークに対する企業課題を、テレワーク導入企業とテレワーク導入可能群で比較したものだ。

図6:テレワークの導入にあたっての課題、導入するとした場合の課題(複数回答)(出典「平成29年版 情報通信白書」総務省) 図6:テレワークの導入にあたっての課題、導入するとした場合の課題(複数回答)(出典「平成29年版 情報通信白書」総務省)
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 このグラフでは、導入企業と導入可能群(未導入企業)で大きな乖離を見せている項目に注目したい。

 「テレワークの導入・運用コスト」の項目は、導入企業が13.1%、未導入企業が28.6%とダブルスコア以上の開きがあるが、これは無視してよい。コストに目処が立った企業は導入し、目処が立たない企業は導入を見送っているという単純な話である。

 そこで他に大きな乖離がある項目は、と見てみると割合自体は低いものの、「理解」に分類されている3つの項目が目に付く。すなわち、「社員」、「管理職」、「経営層」のテレワークに対する理解が課題だと答える企業の割合が、導入・未導入で大きく開いている。これは、IT環境も制度面もほぼ整備されているのに、理解不足で導入に踏み切れないという企業があることを示唆している。社員の理解不足については先に触れたが、例えば、管理職には「部下をコントロールできなくなるのではないか」という不安があり、経営層には「テレワークを認めると社員がサボるのではないか」という不安があるだろう。

 社員や管理職にはトップダウンで命令を下し、社内教育で理解を促進することができよう。一方、経営層の理解不足を解消するのはなかなかに困難だ。

テレワークの導入で労働生産性が1.6倍に

 経営層の説得に最も有効な手段は、「テレワークを導入すれば儲かる」ことを数字で示すことだろう。

 図7は、テレワーク導入企業と未導入企業で、1社あたりの労働生産性を比較したグラフである。調査年によってバラツキはあるものの、導入企業のほうが労働生産性が明らかに高いことは明白だ。2016年(平成28年)調査では、導入企業の労働生産性は未導入企業の1.6倍となっている。

図7:テレワーク導入と一社当たりの労働生産性の推移(出典「平成28年 通信利用動向調査」総務省) 図7:テレワーク導入と一社当たりの労働生産性の推移(出典「平成28年 通信利用動向調査」総務省)
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 もう1つ別角度から比較した数字もお見せしよう。図8は、直近3年間の売上高、経常利益が増加傾向にある企業の割合を、テレワーク導入企業と未導入企業で比較したグラフだ。

図8:テレワーク導入状況と直近3年間の売上高、経常利益が増加傾向の企業の比率(出典「平成28年 通信利用動向調査」総務省)図8:テレワーク導入状況と直近3年間の売上高、経常利益が増加傾向の企業の比率(出典「平成28年 通信利用動向調査」総務省)
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 売上高のほうは、導入企業と未導入企業の差は3ポイント程度しかないものの、経常利益のほうは約14ポイントの差があり、経常利益が増大した企業の割合は、導入企業のほうが未導入企業よりも約1.6倍も多い。つまり、テレワークの導入は、事業規模拡大には大きな効果は期待できないが、利益率の改善には一定の効果が期待できるということだ。

 もちろん、1.6倍の労働生産性や経常利益の増大化傾向という数字は、テレワークだけで成し遂げられたものではないだろう。テレワーク導入企業は、未導入企業よりも先進性があり、その先進性が時代のニーズに即した製品やサービスの開発にも発揮され、結果として利益の拡大に繋がっているという見方もできるかもしれない。

 ともあれ、労働生産性の向上を目指すうえで、テレワークが欠かすことのできないピースであることは間違いない。さらに、人手不足が深刻化するなか、企業は人材を確保し、繋ぎ留めるために、よりよい労働環境を提供する必要もある。上述したように、テレワークの導入には、IT環境・制度整備・意識改革を並行してかつ段階的に進める必要があり、大きな負荷がかかるプロジェクトになることは間違いない。だが、それを覚悟のうえで推進する価値がテレワークにはあるはずである。

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