[インタビュー]

理想をありありと描く力とテクノロジーへの人並みならぬ好奇心が変革に結実する

VRJ出村社長が考えるイノベーションの方程式

2017年10月17日(火)川上 潤司(IT Leaders編集部)

ドローンのビジネス活用。ひところは、ちょっとした荷物の配送を目的とした実証実験で耳目を集めたが、その他にもいくつものチャレンジが進んでいる。この領域にフォーカスして事業を展開しているのがブイキューブロボティクス(VRJ)だ。同社の出村太晋社長にビジネスの概況と展望を聞いた。

全自動運行ドローンシステムの可能性

─DRONEBOXについて、もう少し詳しく教えていただけますか。

 当社とビジネス上で深いお付き合いのあるシンガポールのH3 Dynamics社が開発したもので、日本向けに我々と共同開発したものです。完成までの間には私どもとしても色々な意見やアイデアをぶつけました。ドローン機体に加えて、自動での離着陸や充電、データの一次処理や転送などに対応する基地が一体となったいる構成です。先に、太陽光発電所での応用構想の話がありましたが、まさにこのDRONEBOXの活用を前提にしたものです。当社は、全自動運用という最先端のテクノロジーをベースとした商用サービスを開始することをアナウンスさせていただきましたが、おそらくは世界初だと思います。

 分かりやすく表現するなら、お掃除ロボットの動きを3次元空間に拡げたようなイメージでしょうか。Mission Plannerのようなもので飛行ルートを設定しておけば、所定のタイミングで勝手に離陸し、A地点→B地点→C地点といった指定ルートを巡った後に基地に戻ってきて着陸する。そして、充電を始めるんです。

◆DRONEBOXのデモ動画(出典:ブイキューブロボティクス)

 これまでは「着陸」が厚い壁でした。ドローンが基地のポートの所定のポジションに戻るというのは、感覚的に言えば、車幅プラスアルファの狭小ガレージに自動車をバックでぴたりと駐車するような制御力が求められるのです。精緻なGPSや画像認識などのテクノロジーを駆使することで、難関をクリアしています。

─基地に戻ったら充電するだけでなく、ドローン経由で入手したデータを転送するといったこともできるんですね。

 データリンクと呼んでいる機能です。ドローンに搭載したカメラの映像をリアルタイムに見ることで得られる情報量は多く、例えば遠隔監視などの用途ではこれだけでも十分な場合もあります。しかし一方で、より詳細かつ大サイズのデータをじっくり分析したいというニーズも確実にあります。そこで、帯域の太いネットワークを通じて、自社のサーバーやクラウド環境などにデータを転送できる工夫が盛り込まれています。

 映像の解像度は増す一方で、4Kや8Kももはや身近になりました。さすがに4Kの映像をモバイル通信で飛ばすというのは現時点ではなかなか厳しいものがあります。重いデータの解析は、リアルタイムでなくてもいいから時間をかけてじっくりやろうというのが現実路線で、そうした声に応えることができます。

 加えて、DRONEBOXにはコンピュータが搭載されていて相応の処理能力を備えています。つまりエッジコンピューティングのノードとしても機能させられるわけです。一次的な処理をDRONEBOX側でまかない、その結果をネットワークに流してクラウドにためる、そんな使い方ができます。DRONEBOXは複数を連携させることもできるので、大量のデータを集約するようなシーンにおいて有効な解となることでしょう。

多種多彩なプロジェクトで実証実験が進む

─さまざまな実証実験も積み重ねていると聞いています。

 ドローン、センシング、モバイル通信、画像認識、人工知能…。ロボティクスに関わる、もっと広く言えば“デジタル”に関わるテクノロジーは広がり、深みも増しています。日々進化するものもあれば、成熟度を増しているものもある。一つひとつは点なんですが、それらをつなげ、組み合わせることで、面や立体として、新しい価値を創れることを肌身で感じています。だからこそ、脈がありそうな所へは積極的に歩を進め、いちはやく“形”にすることを心がけています。先の太陽光発電所のケースを含めて実証実験の数は確実に増えていますね。

全国各地で進めている実証実験の例
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 神戸市とは、法面(山間の道路脇などにあるコンクリートなどで造成した人工的傾斜面)の点検業務に応用する試みをしました。ドローンを飛ばして法面の状況をカメラで捉え、その映像を役所の会議室でリアルタイムで見ながら異常がないかチェックするのです。もう少し左に寄ってズームしてもらえるかな?──そんな指示を出しながら、ひび割れがないか、土砂の堆積がないか、防護ネットは固定されているか、といったことを専門家が点検します。結果としては、現場に赴いて目視で対処するのと同レベルのことができるとの評価を頂きました。

 従来、実地での点検にはクレーンのような重機を使ったり、ロッククライミングのような装備で臨んだりしなければならなかったのです。時間もかかるし危険も伴います。大規模な点検で現地に足場を組むとなると、それだけで数百万円のコストがかかることもあります。ドローンを応用すれば、そうした“痛み”を解消でき、業務は大きく変わります。目下、導入を具体的に検討いただいている状況です。

 そのほか、送電線の点検、雪山遭難者の早期救助、緊急時の医薬品搬送、大規模災害時の被災状況把握、広大な造船エリアにおける工程や安全の管理、イノシシやシカなど農作物被害対策…。挙げればきりがありませんが、実に多彩な内容です。サーマルカメラなどを応用した害獣侵入の監視においては、蓄積したデータを解析することによって“獣道”が浮き彫りになるなど興味深い洞察も得られました。今も、多方面からお声がけされる機会が増えているのは嬉しい限りです。

テクノロジーありきの発想ではいけない

─現実的なビジネスとしては、どのような構想をお持ちですか。

 企業である以上、安定して成長することが欠かせませんから、最初から欲張るわけにはいきません。実証実験の延長線上で、ドローンベースのソリューションの完成度に磨きをかけ、そこでまず一定のポジションを築くことに最優先で取り組みます。

 先に触れた設備点検の分野を一つの足がかりにして、業界別や用途別のソリューションを取り揃えていくことになります。サービスとしてのインテグレーションだけに偏ることなく、業務プロセスの改善も含めて上流からのコンサルティングも受け持てるような存在を目指します。

 こうして展開するビジネスの“フォーマット”はドローンに限らず、他のロボティクス関連技術にも適用できるはず。例えば、スマートホームと呼ばれるような「家」を中心とした周辺領域には、より安全で豊かな暮らしに結び付けられそうなイノベーションの芽がたくさんあると感じています。

ドローンを基軸に進めるビジネスの概要
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 もちろん、海外市場にも関心があります。まだ緒に就いたばかりで、これから本格的活用期に向かうのがロボティクスですから、私どもも対等に勝負していける世界です。一歩でも先んじて、業界をリードしていきたいですね。夢は広がりますが、まずは足元を見て、ここ1~2年でしっかりとした地歩を固めたいと思います。

 もちろん、当社だけでできることは限られますから、力ある他社と積極的にコラボレーションしていくつもりです。H3 Dynamics社との関係はその典型例ですし、映像解析の分野ではデータセクションさんと手を組んだ実績があります。

 どこの会社がどんなポテンシャルを持っているかということに関しては、常にアンテナを張っていて、情報収集にはかなりの力を費やしていますよ。新しい技術を活用した取り組みを進める際には、10数社とコンタクトがあって、そのうちの3~4社と具体的な話を進めている。そんな状況が常に続いています。

─他にあまり例がないビジネスに携わるのは刺激的であると同時に難しさもあると推察します。何か心がけていることはありますか。

 数々のテクノロジーが目を見張る進化を遂げ、しかも、ぐっと身近な存在になってきた。この状況は、我々のようなベンダーだけでなく、一般の企業にとっても大きなチャンスに映ります。効率の悪さに思いあぐねていた業務を抜本から変えられるかもしれない。これまで不可能とされた事業モデルを具現化できるかもしれない。誰しもが“新しい絵”を描ける環境が急速に整ったのです。

 自戒を込めて言うなら、この時に最初からテクノロジーばかりに目が向いてはいけないと思います。そもそも、何を変えたいのか。どんな世界を実現したいのか。その想いが最初にないと、イノベーションには結実しない。せいぜい改善どまりです。

 まず、理想とする世界感をありありとイメージする。次のステップとして、そこに必要となるテクノロジーをプロットして結び付けていくのが正攻法でしょう。ミッシングピースがあるのは珍しいことではありません。そこは、本当に現存しないテクノロジーかもしれないし、探し回れば何か近いものがあるかもしれない。アイデアがあれば、自分で、あるいは他の力を借りて作り出すことも不可能ではありません。

 “テクノロジーありき”で考えてはならないが、テクノロジーへの好奇心は人一倍旺盛でなければならない──。これは、デジタル変革期を見据えた次の一手を考える上で、常に念頭に置いておかなければならないことだと気を引き締めています。

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ブイキューブ / ドローン / ロボティクス / Web会議システム / センサーネットワーク / 常石造船

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