インドといえば、“カレー”“タージマハール”“ガンジス川”などをイメージする日本人が多いだろう。あるいは、数字の“0”の発祥、“数学”が得意というイメージを持っているかもしれない。ITに携わっている人間であれば、欧米の多くの大手ITベンダーが研究開発拠点を設け、いくつもの大手ITベンダーの経営者を輩出しているのは良く知られたことだ。そして、インドを代表するITベンダーは、世界でも確固たる地位を確立している。その1社が、ここに紹介するインフォシスだ。日本での知名度はまだ低いものの、国内ビジネスに精通した日本人の新代表を2017年1月に迎え入れ、ビジネス基盤の構築に乗り出している。
現実問題として、転職希望者が率先してインド企業を選ぶことはあまりない。「だいたい5本の指にも入らないというのが現状」だという。ネガティブイメージを払拭するために、「マーケティング、プロモーションは中長期的視点で行っていく」考えだ。「ブランドアウェアネス(認知度)を上げて日本人比率を上げていく」ことが長期的な目標となっている。それでも、2017年度の採用は50人弱で、そのほとんどを日本人が占めた。戦略的採用はすでに始まっている。
肝心かなめの売上基盤はどう構築していくのか。そこでのインフォシスの最大の武器となるのが、やはり技術力だろう。欧米の大手IT企業の研究開発拠点がインドにあることから、最先端技術への感度は日本よりはるかに高く、インド人技術者のレベルの高さは世界的に知られるところとなっている。
SAPビジネスに自信
特に大西氏が「日本での成長エンジンになる」と期待しているのがERP。もともとインフォシス日本法人はオラクルERPがメインだったが、国内シェアの高いSAPを前面に押し出していく戦略を取る。
SAP ERPは、シェアが高い分ライバルも多いが、「勝ち目はある」と踏んでいる。例えば、製品の最新バージョンがローンチされたばかりだと、国内のITベンダーはリスクが高いので、しり込みする。大西氏が「降りることを知らないITベンダー」と評するインフォシスは、そのような案件でも平気で取りに行くという。実際、国内でS/4 HANAがローンチされた際には、その作戦が功を奏して、開発案件を獲得している。
なぜインフォシスは、そのような冒険が許されるのか。それは、技術的な裏付けがあるからにほかならない。というのも、インフォシスはインドに研究開発拠点を持つSAPの開発パートナー。最新ERPである「S/4 HANA ERP」の開発でも協力している。そのためインド本社には「世界最強クラスのSAP HANAのエバンジェリスト集団を抱えている」のだという。こういった人材を日本に連れてきて、開発案件に参加させることができるので、国内事例の無い最新バージョンの案件でも自信を持って臨めるのだという。
ただし、このように数の限られたSAP ERP案件だけを拾っていったのでは、日本マーケットでの成長は限られている。インドにおけるライバル企業であるTCSは、三菱商事系のITベンダーであったITフロンティアを事実上吸収合併して規模を拡大、メジャーアカウントも獲得している。
大西氏は、インフォシスの日本法人は、TCSとは異なる方法でマーケットを拡大していく考えだ。「地道に顧客を増やしていく」というのだが、その方法がなんとも日本的だ。目指すのは「パトロンを作る」こと。ひとつの顧客に様々な提案を行い、親密な関係を築いていく。時間はかかるが、長い目で見てその方が売り上げの基盤が堅牢になり、成長しやすいのは、ITに限らず幾多の日本企業の歴史が証明している。
幸いなことに、インフォシスはSAP、オラクル、マイクロソフト、AWSなどそうそうたる企業と緊密なパートナー関係を築いており、製造系のPLMも持っている。センサー系にもデータ系にも強いので、今後需要が増えるであろうIoTにもうってつけとの自負がある。特定のサービスラインに頼らない提案が行えるのも強みだ。
また、インドはグローバルなBPO拠点としても知られ、そのためのリソースも豊富だ。このBPOとコンサルティング、SI力、デジタルビジネスなどを複合的に組み合わせた提案で、競合との差別化を図っていくという。
インフォシスが日本企業の、真のビジネスパートナーとなり得るのか、今後の展開を注視していく必要がある。