デジタルビジネスに限らず、新事業やサービスを生み出す手法として定着した感があるハッカソン(Hackathon)。日本でも毎日のように開催されているが、読者は世界最大のハッカソンをご存じだろうか? サウジアラビアで開催された「ハッジハッカソン(The Hajj Hackathon)」がそれで、ギネス世界記録に登録されている。CIOやITリーダーの教養としても知っておいてほしいと考え、サウジアラビア出身で現在は日本企業に勤務するITエンジニア、アムル・アル・シャワン(Amr Al-Shawan)氏によるレポートをお届けする。
ハッジハッカソン=巡礼のためのハッカソン
サウジアラビア・マッカ州の州都、メッカ(Makkah)市には毎年、イスラム暦12月に200万人以上のイスラム教徒がハッジ(Hajj:巡礼)のために集まります。メッカ市にあるカアバ神殿が目的地であり、入国には航空機を使ったとしても市内の移動は徒歩が基本です。毎年のこととは言え、巡礼の時期には交通や雑踏警備、食料、旅行宿泊、廃棄物管理などに関する課題が多くあります。200万人以上が集中するわけですから、将棋倒しや火災による死亡事故も起こっています。
しかし、人生のうちに少なくとも1回、メッカ巡礼が義務づけられているイスラム教徒にとって、ハッジはとても大事な宗教行事です。人数を制限するようなことはできません。では、巡礼における課題をいかに緩和・解決すればよいのか。政府機関の1つであるSaudi Federation for Cyber Security and Programming (SAFCSP)は、ITで巡礼をサポートするためにハッカソンを開催することにしました。名づけて「ハッジハッカソン(The Hajj Hackathon:巡礼のためのハッカソン)」です。
ここで、SAFCSPについて簡単な説明をしておきましょう。油価低迷に起因する巨額の財政赤字に直面したサウジアラビアは、石油依存から脱却して経済の多様化を目指すため、2016年4月、ムハンマド・ビン=サルマン副皇太子(兼 経済・発展事項評議会議長)の主導により、長期社会経済計画「サウジビジョン2030」を発表しました。
SAFCSPは、このビジョンに基づき新設された、名前のとおりにサイバーセキュリティやプログラミング、さらにドローン技術などの専門能力を有する専門家を育成する、サウジアラビアオリンピック委員会傘下の国家機関です。人口の50%以上が30歳以下と言われるサウジアラビアの若者に成長の機会を提供し続けることをミッションとしています。
ハッジハッカソンは、2018年8月1日から3日にかけてマッカ州ジェッダ(Jeddah)市で開催されました。参加者数は2950人と、それまで最大だったインドのソフトウェア開発ジャム(2577人)を抜き、ギネス記録に認定されました(画面1)。ではそんなSAFCSPが開催したハッジハッカソンがどんなものだったか、日本ではあまり知られていませんのでレポートします。
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