「進研ゼミ」「こどもちゃれんじ」などの通信教育講座で知られるベネッセコーポレーションは、教育サービスのデジタル化と事業のスピードアップ、グローバル展開の拡大などを目指してIT基盤の刷新に乗り出した。自社データセンターで運用してきた約2,500の仮想サーバーを、推奨パブリッククラウドとして選定した「Microsoft Azure」へ段階的に移行するもので、2020年度までに既存の仮想サーバーの70%の移行を完了する計画だ。PaaSを積極的に活用した自動化のアプローチが利用部門のマインドセットを変えることにもつながり、グループ全体のデジタル変革を加速させている。
利用料チャージやガバナンス担保の運用モデルを一緒に作る
さらに、「単に既存の仮想サーバーをクラウドに移行するだけなら、それほど悩みはありません。本当の意味の問題はその後の運用です」と言葉を続けるのは大橋氏である。
先に述べたように同社はプライベートクラウドを通じて、ベネッセグループの各カンパニーにITサービスを提供している。パブリッククラウドに移行したからといって、その後のITサービスの利用責任を各カンパニーに丸投げするわけにはいかない。現状のプライベートクラウドのレギュレーションをしっかり守りながら、さらにITサービスの利便性を向上していく必要があるのだ。「例えば、ITサービスの利用分に応じた対価を各カンパニーに対してチャージする仕組みを実装しなければなりません。また、各アプリケーションやデータに対するアクセス権限を設定したり、遵守すべきセキュリティポリシーを適用したり、ベネッセグループとして一貫したガバナンスを担保するための仕組みも欠かせません。こうした運用モデルを、私たちと一緒になって作っていくという姿勢を示してくれたマイクロソフトに大きな信頼を感じました」と大橋氏は強調する。
そして大橋氏がもう一つ、Microsoft Azureを選定した大きな理由として加えるのが、世界全域50カ所以上に展開するリージョンおよび、それらのリージョン間を結ぶバックボーンネットワークの帯域の太さである。
「長期的に見ればやはり国内の教育市場の先細りは避けることができず、その意味で当社にとってグローバル化は至上命題です。すでに『こどもちゃれんじ』の海外展開では会員数を127万人(2019年4月現在)に伸ばすなど着実に事業を成長させていますが、今後さらなる拡大を図っていくためには、デジタルサービスをSaaS化した展開が必須になると考えています。そうした中で全世界140カ国から利用可能なMicrosoft Azureのリージョンと高速なバックボーン回線を利用できることは、非常に強力な武器となります」(大橋氏)。
一人ひとりの意識や時間が「デジタル変革」にシフトする
現在、同社のクラウド移行はどこまで進んでいるのだろうか。「これまではOSやミドルウェアのEOLを迎えたシステムから順次移行する方針をとっていたこともあり、現時点での台数ベースの移行実績は25%にとどまっていますが、今後はEOLに関わらず移行を進め、2019年度中に50%を達成します。そして2020年度までに70%の移行を終える計画です」と松本氏は説明する。
この過程で注目すべきは、移行のあり方そのものに大きな変化があらわれてきたことだ。移行に着手した当時、ほとんどの仮想サーバーで行われていたのが、Microsoft AzureのIaaS上に用意されたインスタンスへのLift & Shiftである。既存の仮想サーバーをほぼそのままパブリッククラウドに持っていくもので、本質的にはRe-Hostであり新たな価値がそこから生み出されるわけではない。
実はその一方で同社がマイクロソフトと共に取り組んできたのが、PaaS の利用を推奨するアーキテクチャ設計の標準化である。各カンパニーのすべて事業部門が最適な形でサービス基盤のパブリッククラウド移行を進められることを目的としたものだ。具体的には複数の構成テンプレートを用意し、「クラウド適用条件」「Web/AP層PaaS適用条件」「DB層PaaS適用条件」といったメニューを選択すれば、Webアプリケーションサーバーの「Azure Web Apps」やデータベースサーバーの「Azure SQL Database」など、Microsoft AzureのPaaS機能を組み込んだ推奨構成が示される。また、この構成テンプレートに沿ったサーバーのプロビジョニングをPowerShell のスクリプト処理によって自動化する。この仕組みをベネッセグループ全社に展開した結果、「現在の仮想サーバー移行や新規構築は、ほとんど標準の構成テンプレートで行われるようになりました」と松本氏は語る。
また、この流れの中でPaaSを利用することで得られるメリットへの理解が深まり、利用部門側のマインドセットも大きく変化してきているという。「従来からパブリッククラウドの活用に深く関与してきたメンバーから起こり始めた変化ですが、クラウドをできる限り自動化することで事業スピードを向上し、お客様目線に立ったより良いサービスを展開していかなければならないと考えるようになりました。よりイノベーティブなデジタル変革を実現することに、一人ひとりの意識や時間が振り向けられるようになってきたのです」と大橋氏は語る。
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この革新をさらに加速させていくために、カンパニーの中にデジタル開発部門が設立された。より現場に近いところで事業部門と連携しながら新たな商品やサービスの開発を進め、より迅速に市場に展開していくための組織である。そしてそこではAI技術をベースに顔認識や画像認識、言語理解、音声認識などを実現する「Azure Cognitive Services」のさまざまなAPIも活用すべく、準備を進めている。
成功事例ができたなら、そのノウハウをロールモデルとして標準化してテンプレートに組み込みこんで公開・共有するなど、グループ全体でのパブリッククラウド活用の底上げを図っていくことが、今後に向けた同社の基本方針である。Azureを礎とする機動力を備えたベネッセが、この先どのような事業モデルや顧客サービスを創り上げていくのかに一層の注目が集まりそうだ。
●ユーザー企業プロフィール
- 企業名 株式会社ベネッセコーポレーション
- 本社 岡山県岡山市北区南方 3−7−17
- 事業内容 通信教育「進研ゼミ」、模擬試験、雑誌など教育・生活事業
- 創業 1955年1月28日
- 資本金 30億円
●お問い合わせ先
日本マイクロソフト株式会社
〒108-0075 東京都港区港南2-16-3 品川グランドセントラルタワー
https://www.microsoft.com/ja-jp
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