[木内里美の是正勧告]

着実に進む病院のデジタル化、患者の不便と医療従事者不足を共に解決へ

2025年6月25日(水)木内 里美(オラン 代表取締役社長)

自身の体験として、血糖値管理が自動測定器や飲み薬で楽になり、医療技術の進歩を実感している。また、通院先の病院では、アプリでの順番確認や後払い会計などのデジタル化が進み、患者の負担が大幅に軽減されている。一方で、こうした取り組みは全病院に共通するわけではなく、病院間のデジタル格差が生まれている。国も医療DXを推進しており、医療従事者不足などの課題解決のためにも、病院のデジタル化は待ったなしである。

 筆者は2021年の3月から4月にかけて東京・御茶ノ水の順天堂大学附属医院に入院し、手術支援ロボット「ダヴィンチ(da Vinci)」による手術を受けた。さらに遡ること数年前の人間ドックで膵臓に嚢胞があることが見つかった。それ自体は観察しながら放置しても良いとのことだったが、5~10%が悪化して膵癌などになるリスクがあるので、手術を勧められたからである。

 その時の顛末や病院の内外から見たデジタル化については当時、コラムを2編書いている(関連記事医療のデジタル化の歴史と現状病棟管理のデジタル化を観察して見えてきた現実と展望

入院・手術から4年、医療の改善と進化

 手術後、一時的に低下した体調はすぐ元に戻った。しかし膵臓のボリュームが減ってしまったことから十分なインシュリンが分泌できず、糖尿病患者のように血糖の管理とインシュリンの投与が必要になった。血糖の管理は毎日2回、指先に針を刺してグルコース測定器で血糖値を測って記録する。加えて毎食事の前と就寝前に、インシュリンを指示に従って投与するのが日課になった。慣れてしまえば気にならないが、健常者からみれば面倒なことである。

 2年くらい経った頃、計測端末を腕に貼り付けると血糖値を2週間、自動的に連続計測できる「FreeStyle LibreLink」(画面1)が保険適用されて使えるようになり、血糖値管理は劇的に変化した。

 LibreLinkは、米国の製薬会社であるアボット・ラボラトリーズ(Abbott Laboratories)が開発・提供する血糖管理支援サービスだ。自分のスマートフォンが血糖測定器のリーダーとなって、容易に血糖管理の指標となるグルコース値を測定・管理できる。計測したデータはアプリで一覧でき、食との相関がすぐにわかり、コントロールがしやすい。過去1~2カ月の平均的な血糖値の状態を示す「HbA1c」も推定できる。

画面1:血糖管理支援サービス「FreeStyle LibreLink」のiOS画面例(出典:Abbott Labs、Apple Japan)
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 この頃からインシュリンの投与も注射から飲み薬に変わった。インシュリンは消化酵素で分解されるので経口摂取できないのだが、この飲み薬は残されている膵臓から出てくるインシュリンの分泌促進を行う薬剤である。食前に1錠飲むだけでよく、血糖値測定も血糖値コントロールも極めて楽になった。医療は常に改善され進化している。

4年間の変化に感じる病院のデジタル化

 血糖管理はさておき、通院を通じて順天堂病院のデジタル化や業務改革を観察していると、この4年間で明らかな変化が感じられる。病院は電子カルテを刷新するなど多大な投資をしながらデジタル化に取り組んでいる。更新初期には不慣れによるトラブルもあったが、すぐに落ち着いた。そこには職員はもちろん、待ち時間をはじめとする患者の負担をできるだけ減らしたいという思いがあるようだ。

 受付は以前から診察券のバーコードで自動受付だった。診察前の検体検査受付も同様で早い。採血の待ち時間も短縮されている。採血時のトラブル予防に、動画が撮影されるようになった。検体にもバーコードが貼られて自動化が進んでいる。保険証の提示はマイナンバーカードの読み取りだけでよい。

 診察は事前予約制で予約時間が決められていて、プラスメディが開発・提供する通院支援アプリ「MyHospital」(画面2)が導入されてさらに便利になった。予約診療日はカレンダーに表示され、前日にはリマインドが届く。何より便利なのは待合順番がリアルタイムにわかることだ。順番が来るまで近くのレストランで飲食していてもいいし、中庭のベンチで読書していてもいい。中待合に入るように指示が来るまで院内で待つ必要がなく自由に過ごせる。最近は予約の変更もMyHospitalからできるようになった。

画面2:通院支援アプリ「MyHospital」のiOS画面例(出典:プラスメディ、Apple Japan)
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 それでも以前なら、診察後の会計と薬局の待ちを覚悟しなければならなかった。順天堂医院は早くから「あとクレ」という制度を取り入れて、クレジットの後払い登録することによって会計に寄る必要がなくなった。領収書は後日、病院の端末で受け取るか、メールの案内に従ってダウンロードできる。院内薬局の薬の提供も確実に早くなったし、MyHospitalで順番を確認できるのでストレスもない。診察から薬の受け取りまで30分で済むこともある。

 さらに筆者にとってありがたいのは、先に紹介した血糖値測定のLibreLinkが病院のカルテとデータ連携するようになったことである。データをプリントアウトして持っていく必要がなくなるなど、病院のデジタル化は着実に進んでいる。

●Next:病院間のデジタル格差が生まれている

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