日本企業におけるデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みは、2018年11月に経済産業省が公開した「DXレポート」を機に始まったと言っていい。同レポートはレガシーシステム問題に着目し、データが活用できるようにしてDXに取り組まないと、2025年以降に毎年12兆円超の経済損失が生じると警鐘を鳴らした。「2025年の崖」はインパクトのあるキーワードになったが、その後7年が過ぎて、取り組みの実態はどうなったのか。年末を機会に検証してみたい。
「DX動向2025」に見る、日本企業の取り組みの今
経済産業省のDXレポートをきっかけに多くの企業がDXに取り組み始めた。しかし2019年の年末からの新型コロナ禍で足元をすくわれる。リモートワークやリモート会議は一気に進んで確実に定着したが、これら以外のデジタル化やDXはスローダウンを余儀なくされた。コロナ禍ではリアルでのコミュニケーションが大幅に減ったり、リモート会議が間断なく続いて疲弊してしまったりといったマイナス面も現れた。
情報処理推進機構(IPA)が2025年6月に公表した「DX動向2025」をレビューしながら、DXの現状を見てみたい。それによると取り組みは年々進み、24年度では米国やドイツと比べて遜色ない状況ではある(図1)。
「DX認定」を取得した企業も年々増えていて、2025年5月時点で1448社(大企業732社、中小企業716社)となっている。とはいえ、1448社という数が総法人会社数の1%にも満たない点には注意する必要がある。増えてはいても、全体から見ると微々たる数でしかない。
図1:DXの取り組み状況(出典:情報処理推進機構「DX動向2025」)拡大画像表示
それ以上に問題なのがDXの成果である。日本は米国やドイツに比べて成果評価が明らかに劣っている。両国は売上高や利益の増加、顧客満足度向上に明らかに効果が出ているのに対して、日本はコスト削減にしか成果が見られないのだ(図2)。私見を言えば、このコスト削減も怪しい。売上や利益の増加を言えないので、とりあえずコスト削減を選択した可能性がある。
図2:DXにおける経営面の成果内容(出典:情報処理推進機構「DX動向2025」)拡大画像表示
日本が米国やドイツと異なる成果になっているのは、最初の呼びかけに原因があったと考えられる。そもそもDXは企業価値の向上が目的であって、売上増、利益増、顧客価値向上、競争力効果などを明確に示さずに、レガシーシステムの刷新の必要性から指摘が入ってしまったところに問題があった。
しかも業務の効率化や生産性向上もよしとする曖昧なDXの定義もあった。本来の成果目標のKPI /KGIも設定されないまま、レガシーシステムの刷新をしても意味がない。これは大きなボタンのかけ違いである。
「2025年の崖」はどうなった?
では、「2025年の崖」はどうなったか? DXレポートは「年間最大12兆円の経済損失」が生じると指摘していた。ただし、確たる根拠はなく、「(2018年当時の)レガシーシステムの維持管理が年間4兆円くらい。放置されればシステム障害や機会損失などで将来3倍に増大して12兆円を超えるだろう」という程度だったようだ。
2025年も年末を迎える中、日中関係の緊張から生じている訪日客減少や水産物の輸出禁止などで見積もられている経済損失は2兆1900億円(訪日消費減で1兆7900億円、水産物禁輸で4000億円)。「2025年の崖」はそれを数倍上回る規模なので、もっと関心や話題を集めてもよいはずだが、完全にスルーされている。DX動向2025でも何も言及されていない。
●Next:2025年の崖を越えて─日本企業の7年間のDX推進はどうだったのか?
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