インターネット・イニシアティブ(IIJ)は2019年8月21日、IIoT(Industry Internet of Things:産業IoT)分野で台湾のアドバンテックと協業すると発表した。アドバンテックは産業用コンピュータで世界シェア約3割のトップメーカーであり、別段驚く発表ではない。だが、産業用IT機器分野ではオムロン、京セラ、キーエンスなど国内の有力メーカーがいて、アドバンテックは「これから」なのが実態だ。なぜ、IIJは日本のメーカーでなく、アドバンテックをIIoT事業強化のパートナーに選んだのか。
協業での当面の目標は200ユーザー獲得
まず、共同説明会(写真1)の発表内容を確認しよう。IIJとアドバンテックは、アドバンテックがグローバルに提供している産業分野向けIoTプラットフォーム「WISE-PaaS(ワイズパース)」の日本でのビジネス展開で協業する。IIJはこれにより、国内のIIoT事業を加速したい考えだ。
具体的には、アドバンテックのWISE-PaaSとエッジデバイス、IIJのクラウド/LTE/M2M/フルMVNO(Mobile Virtual Network Operator)技術・サービスを組み合わせる。ユーザーが必要と判断したとき、必要な機能をすばやく、同時に負担を軽減できるワンストップ型の「WISE-PaaS JP」を共同で立ち上げる。サービス開始は2020年1月の予定となっている。
説明会のQ&Aで明らかになったのは、今回の提携はアドバンテックからIIJにアプローチしたこと、日本の製造業はアドバンテックにとって「どうしても押さえておきたい重要なマーケット」(同社)ということだった。
提携の説明にあたった、アドバンテックCTO(最高技術責任者)のアラン・ヤン(Allan Yang)氏は、「IIJとパートナーシップを組むことで、IIoT市場におけるWISE-PaaSの普及に弾みがつく。日本市場で当面、200ユーザーを獲得したい」と意気込みを見せた。
また、IIJの常務執行役員・立久井正和氏は、「ユーザーの負担を軽減し、必要なときに必要な機能を迅速に提供する『IIoT Readyクラウドサービスを実現する』という。カスタマイズを最小にとどめ、稼働までの期間を短縮する。結果として利用料金は低く抑えることができる。クラウドで「早い・安い・うまい」のIIoTを目指すという。
以下は余談に属するが、SaaS/ASPが話題になって10数年が経ち、ここ数年で目につくのは、KDDIをはじめアプリケーション型のクラウドサービスが登場してきたことだ。グローバルな規模でのクラウド・プラットフォームはMicrosoft Azure、AWS(Amazon Web Services)、GCP(Google Cloud Platform)の3強に絞られてきた。第2集団のクラウドベンダーは、かつてのオフコンやワークステーション、PCと同じように、アプリケーションとセットでユーザーを獲得するようになっている。
アプリケーション型クラウドサービスが、ユーザーに近いところで提案型ビジネスを展開するリセラーやカスタマイズSIerを求めるのも、これまでのITの歴史からすれば自然で当然の流れだ。今回のIIJ・アドバンテックの提携は、そうした動きの1つと見てよい。
次世代IIoTを視野に入れた戦略
ところで、単純なIoT、例えばデジタルサイネージでは、非接触型で携帯機器が発する特定の信号をリアルタイムで拾い、その属性に応じてコンテンツを表示したり、それがトリガーとなったりして別の機器が動作する。一方、IIoTは、M2M(Machine to Machine)の別称、ないしは進化形としてひと括りに語られるものの、その実態はなかなかつかみにくい。
分かりやすい例は、部材搬送ロボットと組み立てロボットが連動して、人が介入することなく製品が生産されていく仕組み、あるいは化学プラントのパイプの中を動き回るインテリジェントピグ(Intelligent Pig)による無人保守システムなどということになるだろうか。自動化、無人化がキーワードだ。
その適用領域は工場の機械設備にかぎらない。ビルや施設、エネルギー関連施設、農業、病院、高齢者ホーム、物流、船舶、自動運転など広範に及ぶ。重機や農機の位置情報を把握し、遠隔操作するシステムは実用化されて久しい。専従者の高齢化、昨今の人手不足で産業界がIIoTを強く求めているのは、IIJのIoT事業におけるモバイル回線の法人契約に端的に示されている。「累積171万回線のうち6割がIoT用途、IoT案件は2016年から年200%以上のペースで伸びている」と、IIJのIoT事業部長、岡田晋介氏(写真2)は言う。
ところが今回の発表に照らし合わせると、それはIIoTの第1段階にすぎない。IIJとアドバンテックが協業で想定するのは、第2段階のIIoTだ。リアルタイムに収集された大量のデータの遷移を、属性で整理し、時系列で見たり分析したりする。そのためには、さまざまなデータ(信号を含む)を可視化するツール、分析する仕掛けを用意して、現場の管理者や計画立案者が理解できるようにしなければならない。WISE-PaaSはそのプラットフォームというわけだ(図1)。
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