[市場動向]

ポストコロナに向け、DXを先導するユーザーの着眼点は─「DX銘柄2020」選定企業の顔ぶれ

経産省と東証、DXへのフォーカスを強めて「攻めのIT経営銘柄」をリニューアル

2020年9月8日(火)奥平 等(ITジャーナリスト/コンセプト・プランナー)

経済産業省と東京証券取引所は2020年8月25日、「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄)」の選定企業35社と「DX注目企業2020」21社を発表した。DX銘柄選定企業の中から、「デジタル時代を先導する企業」として、小松製作所とトラスコ中山が「DXグランプリ2020」に選ばれた。本稿では、前回までの「攻めのIT経営銘柄」からのリニューアルの意図、選定企業の顔ぶれ、DXグランプリ2020受賞2社の取り組みの詳細をお伝えする。

 コロナ禍が長期化する中で、内閣府が日本の実質GNP年率27.8%減と記録的な落ち込みを発表するなど、我が国の経済は依然として先行きが案じられない状況にある。

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックに伴い、株式市場においても日経平均株価が2万円のボーダーを割り込み、3年4カ月ぶりに1万7000円台割れまで急落下するなど、一時はリーマンショック以来の暴落相場も経験した。その後は2万円台に回復したものの、当初の下落は工場の生産能力の低下、サプライチェーンや交通網の遮断などの「供給ショック」に起因していると言われており、今後は個人消費や企業の設備投資の抑制に伴う「需要ショック」、不良債権などによる金融機関への経営圧迫を踏まえた資金調達環境の悪化に伴う「金融ショック」へのリスクも内包されている。

 そのような中、2020年8月25日に「DX銘柄2020」(旧称:「攻めのIT経営銘柄」)選定企業の発表がなされた。評価委員長を務めた一橋大学名誉教授の伊藤邦雄氏(写真1)は、「DX銘柄選定企業はその他の上場企業と比較して高いROE(自己資本利益率)を維持しており、株価においても日経平均よりも下落幅が小さく、戻りも早い」と指摘している。本稿では、DX銘柄2020を俯瞰しながら、改めて企業にとってのデジタルトランスフォーメーション(DX)の意義を探っていく。

写真1:DX銘柄2020評価委員長を務めた一橋大学名誉教授の伊藤邦雄氏。コロナ禍を受け、今回の選定企業の発表は経済産業省のWebページ上で行われた

「攻めのIT経営銘柄」から「DX銘柄」へ

 「DX銘柄」は、経済産業省と東京証券取引所が共同で運営するプログラムだ。中長期的な企業価値の向上や競争力の強化を目的に、日本企業の戦略的IT活用の促進に向けた取り組みの一環として、2015年より5回にわたって共同で実施してきた「攻めのIT経営銘柄」の延長線上にある(関連記事2025年の崖目前、レガシーから脱却しDXに舵を切る─「攻めのIT経営銘柄2019」選定企業が発表ANAホールディングス、JFEホールディングス、丸井グループ─「攻めのIT経営銘柄2019」3社がDXで実践したこと)。

 名称のとおり、今回より「DXの実践」にフォーカスして、体系の整理と見直しを図ってプログラムを改定した。経産省と東証は、DXを「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義している。

 前回までの攻めのIT経営銘柄では、経営革新、収益水準・生産性の向上をもたらす積極的なIT活用に取り組んでいる企業が選定されてきた。これに対して、DX銘柄では、デジタル技術を前提にビジネスモデルなどを抜本的に変革し、新たな成長・競争力強化につなげていくことを目的に、積極的に「DXに取り組む企業」を選定するとしている。図1は、攻めのIT経営銘柄との違いを表した評価フレームワークの、図2は評価軸で、これまで以上の変革が、より戦略的観点から求められていることがかいま見える。

図1:DX銘柄2020評価フレームワーク「攻めのIT経営銘柄2019」との比較(出典:経済産業省、東京証券取引所「DX銘柄2020」選定企業レポート)
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図2:DX銘柄2020評価(出典:経済産業省、東京証券取引所「DX銘柄2020」選定企業レポート)
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 経済産業省 商務情報政策局 情報技術利用促進課 課長の田辺雄史氏は、今回よりプログラムをDX銘柄に改めた理由と選定のポイントについて、次のように説明している。

 「経産省では、2018年9月に『2025年の崖』というキーワードを踏まえた『DXレポート』を発表し、レガシーシステムからの脱却へ向けて警鐘を鳴らしてきました。そして、実際にデジタル化というものがビジネスの根幹になりつつある中で、DXはもはや強制的に進めなくてはならない時代に入っている──この認識の下で今回の改訂を行いました」

 また伊藤氏は、DXの意義について次のように指摘している。「すでにDXは経営にとって、ベターではなくマスト、手段ではなく前提になっています。"Online Merges with Offline(OMO)"やAfter Digital、"Direct to Consumer(D2C)などといった言葉に象徴されるように、リアルがデジタルに包含され、主従逆転の時代となりつつあるのです」

 なお、経産省ではDXの推進に向けて、2019年7月に「DX推進指標」、同年10月に「情報処理促進に関する法律」を一部改正するなど、DXを法律的に位置づける施策も進めてきた。これらは、新たなデジタル技術や多様なデータを活用して経済発展と社会的課題の解決を両立していくという政府の「Society 5.0」ビジョンに呼応している。

 さらに、2020年1月には有識者による「Society 5.0時代のデジタル・ガバナンス検討会」を立ち上げ、経営における戦略的なシステムの利用の在り方を提示する指針、およびその達成度を測る評価基準「デジタルガバナンス・コード」の策定に向けた検討を進め、この秋を目途に方針を固めたいとしている(関連記事経産省が「2025年の崖」対策の第2弾を発表─「DX銘柄」と「デジタルガバナンス・コード」を読み解く)。

 すでに同検討会は3回の審議を重ね、2020年5月18日に発表された中間とりまとめでは、「デジタルガバナンス・コードの全体構造」を示している(図3)。なお、検討会ではDX銘柄評価基準検討のワーキンググループも発足しており、今回のDX銘柄2020においても図1の「望ましい方向性」を示している企業が、デジタルガバナンス・コードとの整合性を踏まえて選定されている。

図3:デジタルガバナンス・コードの全体構造(出典:経済産業省「Society5.0時代におけるデジタル・ガバナンス検討会 中間とりまとめ」)
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●Next:DX銘柄選定35社リストと、DXグランプリ受賞2社の取り組み詳細

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