[市場動向]

米IBMのサービス事業分離は、ユーザー企業に吉か凶か?

売上げ2兆円のインフラサービス事業会社の分離でIBMが目指すもの

2020年10月13日(火)田口 潤(IT Leaders編集部)

米IBMは2020年10月8日(米国現地時間)、マネージドインフラストラクチャサービス部門を分離し、ハイブリッドクラウドとAIに集中する新たな事業戦略を発表した。分離する部門はIBM全体の売上げの4分の1、利益面では過半を占める。その背景や意図には何があり、IBMの顧客企業にとってどんな影響があるのだろうか。

 IBMが大規模な組織再編を行う。本体から分離するマネージドインフラストラクチャサービス(MIS)部門は、簡単に言えば、アウトソーシングやホスティングを担う事業である(図1・2)。

 例えば、大手顧客のメインフレーム上で稼働するSAP ERPに関わる運用・保守サービスをMIS部門が担っており、米IBMのプレスリリースによると、115カ国・4600社顧客企業を9万人以上のスタッフがサポートしている。フォーチュン100(世界の大企業100社)の75%以上が顧客であり、少なくない日本企業も含まれる。

図1:IBMからマネージドインフラストラクチャーサービス部門が分離され、新会社NewCo(仮称)が設立される(出典:米IBM)
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図2:分離して設立する新会社の概要(出典:米IBM)
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 MIS部門の2019年7月~2020年6月の収入は190億米ドル(約2兆円)。「600億ドルの受注残を有し、2番手の競合に対し倍以上の規模」(IBM)という。2番手の競合の社名は示されていないが、米アクセンチュア(Accenture)や日本の富士通などと見られる。IBMは2021年末までにMIS部門を独立させ、新会社を設立する計画だ。社名やCEOは未定であり、発表資料ではNewCo(企業分割などで用いられる新会社の仮称)と記されている。

インフラサービス事業分社の背景

 背景には何があるのか。1つは顧客ニーズだ。経営を主導する米IBM CEOのアービンド・クリシュナ(Arvind Krishna)氏は、「ハイブリッドクラウド市場が拡大する一方で、顧客のアプリケーションやインフラに対するニーズは多様化している。MIS部門を分離するのは適切なタイミングだ」と説明する。IBMは1990年代にはネットワーク機器、2000年代にはPC事業、最近では半導体事業を分離し、結果として自社製品に縛られずに社外のネットワーク機器やPCを調達できるようにした。

 これと同様に分離・独立により、NewCo(MIS部門)はIBMの製品やサービスにこだわることなく、アウトソーシングやホスティングを提供しやすくなる。それらサービスの顧客企業にとっては歓迎すべきことだろう。逆にIBM本体に残る事業は、アクセンチュアなど外部のサービスプロバイダーをパートナーとして獲得しやすくなるメリットがある。そんなにきれいに分離できるのか疑問も残るが、IBMの株主には新会社の株式を配分する形で完全に独立させるという。

 もう1つの背景はクラウド、特にハイブリッドクラウドだ。クリシュナ氏は「ハイブリッドクラウドとAIは急速に、コマースやトランザクションの、そしてコンピューティングそのものの中心になりつつある。分離は1兆ドル(約105兆円)規模のハイブリッドクラウド市場における機会を追求するうえで論理的な次のステップだ」と述べている。ハイブリッドクラウド市場における手応えや実績もある(図3)。

図3:IBMのハイブリッドクラウド市場における実績(出典:米IBM)
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●Next:始まりは2018年10月、IBMが目指したものは

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