トヨタ自動車は、Mixed Reality(MR:複合現実)デバイス「HoloLens 2」を、自動車点検整備の効率化やトレーニング、顧客への新型車紹介などで活用できるように、全国の「GR Garage」57店舗(2020年12月時点)に、2020年10月から順次導入を始めている。HoloLens 2を提供する日本マイクロソフトが同年12月22日に発表した。
トヨタ自動車が2017年から全国で展開するGR Garageは、クルマのプロである「GRコンサルタント」が顧客とともに語り合ったり、楽しむ場やイベントを提供したり、GRシリーズの試乗車を常設したりするなど、クルマファンが集まる場所になっている。そうした中で、GR Garage 富山新庄(富山県富山市)は、2020年10月下旬、日本マイクロソフトの「HoloLens 2」を導入し、さまざまな利用方法の検証を始めた。
GR Garage 富山新庄では、自動車の部品やコネクターの配置などを3Dで実車に重ね合わせて表示できる「MRを用いた配線図・艤装図」を利用している(写真1)。従来の2Dのマニュアルではわかりにくかった部品の位置などを正確に把握しながら点検したり、作業のトレーニングなどに活用したりしている。
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ネッツトヨタ富山によると、以前は紙のマニュアルを見ながら点検をしていたが、手順の少ないものでもマニュアルを5ページほどめくっていく必要があり、何かを調べたいときにその項目を探し出すだけでも時間や手間もかかっていた。マニュアルが入ったノートPCを持ち込んで調べながら作業する場合でも、両手がオイルなどで汚れた状態ではPCを触りにくく、手を洗ってから調べ物をするなど効率が悪かった。HoloLens 2の導入により、空間をタッチすることで、マニュアルの適切な情報を探し、それを見ながら作業できるようになった。
調べる作業を含めて整備作業時間を20~30%短縮
最近のクルマは、センサーなど部品点数が増える傾向にあり、整備士にとって、調べる作業や知識を得ることが非常に重要になっている。「HoloLens 2では、直感的な操作で効率的に必要な情報にアクセスできるため、そうした知識の習得に役立つ。作業中に実車を見ながら、部品にかぶさる形で配線図・擬装図を表示できるため、非常に効率が良い。調べる作業を含めると、全体で作業時間を20%~30%ほど短縮できる」(ネッツトヨタ富山)。
また、他店舗の研修などで紹介すると、「やってみたい」、「映画の世界みたいだ」と驚かれるという。リクルート活動においても、整備士の仕事により興味を持ってもらったり、就職後の不安をやわらげたりなど、同社を選んでもらうきっかけにもなるのではと、教育やリクルート面でも期待しているという。
自動車業界の働き方改革にもつながると、期待する声もある。ネッツトヨタ富山は、「これまでは、一部の整備士は理解しているのに、ほかの整備士やスタッフが理解しきれていないという状況があった。HoloLens 2を使うことで、技術の標準化、品質の担保ができるようになる。また、今まで散在していた情報や資料を統合し、HoloLens 2ですぐに確認できるようにすることで、働き方も変わる。自動車業界では残業が課題の1つで、現場の生産性向上など自己努力や工夫で減らしてきてはいるものの、さらにもう1段階進めていくためには、今回のようなソリューションが必要になると考えている」と期待を述べている。
●Next:GR Garageを来訪するファン向けの“MR新車紹介”
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