情報サービス企業か一般企業かを問わず、重要な経営課題の1つとなったIT/デジタル人材の確保と処遇。この点に関して米国の状況を知ることは有意義だろう。そこで情報サービス産業協会(JISA)の会報誌「JISA Quarterly No.139」(2020年11月発行)に、IT Leadersの編集委員で米国特派員だった山谷正己氏が投稿したレポートを転載する。なお山谷氏は2020年11月18日に急逝した。米国在住ながら、常に日本に目を向け、情報発信してきた同氏に、謹んで哀悼の意を表します。
米国にはリクルート会社が存在しない
世界的にIT人材が不足しており、いずれの会社もその発掘と採用に知恵を絞っている。日本の多くの会社では、人事部が一手に求人・採用審査を行って人材を雇用して、実務部門に配属している。これに対し米国では、実務部門(例えばシステム開発部門)が必要とする人材の資格とスキルを明確に定義する。図1に初級SEの例を示す。
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人事・採用担当者はこれを受けて、求人活動を行う。米国ではもはやリクルート会社なるものは存在しない。求人募集している会社と求職者を会場に集めて、お見合いさせるようなジョブフェアーも存在しない(日本では今年はコロナ禍のため、オンラインで開催されているとのことであるが)。求人と求職のマッチングはほとんどがWeb方式であり、Dice.com、Indeed.com、Glassdoor.com、Zip Recruiter.comなどが代表例である。それぞれのマッチングサイトで、求人側は前述の必要とする資格とスキルを書込み、求職側は自分の資格とスキルを書き込んで応募する。両者が合致すれば、相互に話を進めていく。
職業人のためのソーシャルネットワークLinkedIn.comも、求人に一役買っている。そこにはビジネスパーソンが自分のスキル、実務経験、出身校、所属業界組織などを細かく書き込んでいるので、まさに履歴書のソーシャルサイトである。米国ではLinkedInに書込みをしていない人は一人前とは見なされない。LinkedInの有料サービスを使うと、会社が求めるスキルに合致した人材を検索して、直接コンタクトすることができるので、求人側にとって大変役に立つ。
面接は半日から丸1日に及ぶことも
候補者を審査・厳選して、可能性がある候補者に絞り込んで、面接試験を設定する。面接の前に、電話でインタビューを行って、さらに絞り込む場合もある。
面接試験と言っても、一般常識、適性検査などのペーパーテストは行わない。面接には、実務部門の部門長と担当者(2~3名)が当たる。1人の候補者の面接は、半日あるいは丸1日に及ぶこともある。また、数回に渡って面接を受ける場合もある。筆者が知るところでは、某大手クラウド企業に応募して、面接を6回受けた後、採用に至ったという人もいた。
面接の内容は、部門長の仕事の概要説明に始まって、入社したら一緒に仕事をすることになるであろう先輩SEから、技術的な知識・スキルに関して矢継ぎ早の質問を受ける。場合によっては、その場で小さな問題が提示されて、それを実装するためのコーディング(Java あるいはPythonなど)することが求められることもある。そして、最後に人事担当者が自社の福利厚生などについて説明をする。その数日後に採否の通知が来る。
Googleは1500人のインターンを受け入れ
米国の大学の夏休みは6月中旬から9月中旬まで丸3カ月にわたる。学生は夏休みを使って実務経験を積むべく、インターンの仕事探しをする。多くの会社が大学へインターンの募集をかける。また、前述のマッチングサイトを利用して、インターンを募集する会社も多い。
しかるべく選考を行って、学生をインターンとして採用する。例えばGoogleの場合、シリコンバレー本社のほかにも、サンフランシスコ、ロサンゼルス、ニューヨークなどの主要都市に加え、海外にある事業所でもインターンを受け入れる。2019年には、同社のインターンシップには、12万5000人の応募があり、その中から1500人を厳選してインターンとして受け入れた。Amazon.comでは2000人を受け入れた。IT会社に限らず、Walmart、Bank of America、Nikeなど非IT企業でも積極的にインターンの採用を行っている。
インターンには仕事の一部を割り当てたり、新規開発のブレインストーミングに参加させたりする。学生の柔軟かつ斬新な感覚が役立つからである。
インターンを受け入れた企業は当然、給与を支払う。Googleの場合、月額7000ドル~7500ドルが支給される。インターンシップ期間における業績が優れた者は、卒業後、本採用にすることが多い。夏休みのインターン経験は、大学生にとって、学費稼ぎと就活の一石二鳥である。
日本でもインターンシップを行っている会社が増えつつある。しかし、その期間は1~2週間、長くて3週間程度である。手当については「当社規定により優遇」とか、体験型のものであれば「交通費と食事代を支給。日当は支給しません」といった会社もある。こんなことでは、学生はまともな仕事ができないし、採用側も表面的な人物評価しかできないであろう。もっと本格的なインターンシップを実施して、人材採用に役立てるべきである。そうすれば、人材紹介会社への広告や就職フェアの出展といった出費の削減と、時間の節約になる。学生も就活に奔走して無駄な時間を費やさないで済む。そして何よりも、確実に相応しい人材を発掘できる。実務を通した人物評価は、旧式なペーパーテストや短時間の面接による選別よりも、はるかに確信度が高い。
手順化された従業員の業績評価
米国の会社では、従業員の業績評価は手順化されている。先ず、本人が自分の仕事の目標を記述して、それを上司に見せる。上司はそれを基に助言を与えて、両者で合意したものが本人の目標になる(図2)。目標は具体的かつ定量的に記述することが肝要である。このとき上司は、目標達成の評価基準とそれに連携して昇進、昇給がどうなるかを本人に提示する。それを知ることは本人にとって大きな動機付けになる。
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そして半期ごとに、目標に照らして本人の業績を評価する。なかには4半期ごとに評価する会社もある。評価値は学業成績と同じようにA、B、C…で定量的に記述される。A、Bの数が多ければ、次の昇給額に反映される。
このとき本人は良い評価が得られるように、自分の業績を巧みに表現することに努める。それは、自己表現とネゴシエーションのスキルを発揮する場面でもある。
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