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肥大化したシステムのムダ、4カ月で約半分のスリム化にめど─トヨタシステムズがレガシーシステムをカイゼンできた理由

2021年6月1日(火)Darsana

「トヨタ生産方式」「カイゼン」で広く知られるように、トヨタ自動車はプロセスの徹底的な合理化と無駄の排除によって高い生産性と収益を達成してきた。しかし製品の設計・製造プロセスにおいて徹底されてきた「ムダ取り」も、システム開発においてはまだ取り組む余地があったという。日本データマネジメント・コンソーシアム(JDMC)主催の第54回定例セミナーで、トヨタシステムズと富士通が共同で臨んだ、トヨタの基幹システム刷新プロジェクトの詳細が紹介された。
※本記事は、AnityAが運営するWebメディア「Darsana」が2021年2月24日に掲載した記事を転載したものです。

 2020年11月6日、一般社団法人日本データマネジメント・コンソーシアム(JDMC)主催の第54回定例セミナー「データ駆動型カイゼンによる既存システムの大幅なスリム化とDXへの道筋」が開催された。

 同セミナーに、トヨタシステムズ 製品情報管理本部 設計管理IT部 工程・用品G GMの小野里樹氏と、富士通 サービステクノロジー本部 システム技術統括部の鈴木庸介氏の両名が登壇。両社が共同で行ったトヨタの基幹システム刷新プロジェクトについて紹介した。

システムの無駄な機能をいかにそぎ落としてスリム化するか?

 小野氏はトヨタにおいて、組み立て型製造業にとって要とも言える基幹システム「部品表(BOM)」の構築・メンテナンスを長年担当してきた。そんな同氏は以前から、トヨタにおける業務システムの再構築に課題を感じていたという。

写真:トヨタシステムズ 製品情報管理本部 設計管理IT部 工程・用品G GMの小野里樹氏(写真提供:トヨタシステムズ)

 「トヨタ社内では数百ものシステムが稼働していると言われており、それらの老朽化に伴う更改作業に膨大なコストと手間を費やしてきました。仮に1つのシステムのライフサイクルを10年、更改コストを10億円とすると、年間で数百億円ものコストを費やしている計算になり、これを少しでも削減できる方法はないかと模索してきました」(小野氏)

 そこで同氏が辿り着いた結論が、システム開発における「造り過ぎのムダ」の解消だった。トヨタは「トヨタ生産方式」「カイゼン(改善)」で広く知られるように、プロセスの徹底的な合理化と無駄の排除によって高い生産性と収益を達成してきた。しかし製品の設計・製造プロセスにおいて徹底されてきた「ムダ取り」も、システム開発においてはまだ取り組む余地があったという。

 「そこで、業務システムの無駄な機能を排除し、全体の規模をスリム化することによって、『システム更改にかかるコスト』や『更新後の保守費』を削減できるのではないかと考えました。まずはシステムのアクセスログなどを調査して、使用頻度の低い機能を洗い出した上でそれらを削除する方法を検討しました。しかし残念ながら、このやり方はうまくいきませんでした」(小野氏)

 IT部門側で削除候補となる機能を洗い出した上で、ユーザー部門に対して機能削除による業務への影響度合いを確認する。ここで合意を取った上で、最終的に削除する機能を確定する──。

 こうした手順を思い描いていたが、実際に試してみたところ、機能の削除によって生じるインパクトをユーザー側では正確に予見できず、「トラブルが怖いので、やっぱり念のため残しておいてほしい」という反応が大勢を占めた。結果的にシステムのスリム化自体もほとんど進まず、構想自体が頓挫しかかってしまったという。

機能ベースではなく「データ起点」によるスリム化にチャレンジ

 こうして一度は暗礁に乗り上げてしまいそうになったシステムのスリム化プロジェクトだが、小野氏は決してあきらめることはなかった。

 「システム保守費の高騰は社内で以前から問題視されていましたし、業務の変化スピードも年々早くなっていましたから、それに応じてシステムの改善リードタイムも短縮する必要がありました。システムのスリム化がこうした課題の解決に有効であることは明白でしたし、何より私自身の諦めがつかなかったので、一度は頓挫しかかった後も粘り強くスリム化の構想を練り続けていました」(小野氏)

 ここで大きな転機が訪れる。これまでは、システムの機能やプロセスに着目してスリム化を検討していたが、思い切って発想を転換し、システムの「データ」に着目してみることにしたのだ(図1)。

図1:データを起点としたスリム化に着目(出典:トヨタシステムズ)
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 業務の証跡である「データ」を起点にシステムを捉え直すことによって、より確実かつ安全にスリム化を実現できるのではないか……。小野氏は早速、データ起点によるスリム化の可能性について調査を始めた。そしてほどなくして、自分たちだけでこの新たな発想を実行に移すことの難しさも実感するようになったという。

 「データ起点の方法論の知見や実経験が不足していたため、独力で進めるのはかなりハードルが高いことが分かってきました。そこで、既に高い知見を持っているパートナーと組むことによって、よりスピード感を持ってプロジェクトを進められるのではないかと判断しました」(小野氏)

写真:富士通 サービステクノロジー本部 システム技術統括部の鈴木庸介氏(写真提供:一般社団法人日本データマネジメント・コンソーシアム)

 ここで白羽の矢が立ったのが、「データの見える化アプローチ」という独自のメソドロジーを持ち、これまで数多くのデータ駆動型開発プロジェクトを成功に導いてきた、富士通だった(図2)。同社の鈴木氏は、今回の共同プロジェクトの意義について次のように述べる。

 「当社が提唱する『データの見える化アプローチ』は、システムのデータ領域の問題にフォーカスすることによって、データを利用するアプリケーション、さらには業務が抱える問題もまとめて可視化しようという方法論です。これを、トヨタ様がもともとお持ちの『トヨタ生産方式』『カイゼン』と組み合わせることによって、『データ駆動型のカイゼン』とも言うべき課題解決の道が拓けるのではないかと考えました」(鈴木氏)

図2:データの見える化アプローチ(出典:富士通)
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データモデリングとデータプロファイリングによるスリム化

 まずは4カ月間のトライアル期間を設け、システムの一部の範囲を対象に、両社共同でデータ起点のシステムスリム化を行い、その成果を評価してみることにした。ここで取り入れたのが、データモデリングとデータプロファイリングという2つのデータマネジメント手法だった(図3)。

図3:2つのデータアプローチ(出典:トヨタシステムズ)
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●Next:データモデリングとデータプロファイリングをどのように進めたのか?

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