SAPシステムが担うビジネス環境は年々厳しさを増している。最先端のSAP ERPを導入、あるいは最新版にマイグレーションしたからといって、それで終わりではない。導入企業は環境の変化をとらえてシステムを進化させ、状況の変化に適応させる必要がある。Qlik(クリック)が提供する 「Qlik Gold Client」は、変化する日々のSAP運用を支えるソリューションだ。3月10日に開催された「データマネジメント2022」では、日々のビジネスシーンにおけるSAP ERPへの投資を最大化するQlik Gold Clientの特徴や機能が披露された。
SAP投資の最大化を阻む課題
SAPのような大きなシステムは、企業ニーズや事業内容ごとにチューニングが必要だが、自社向けに最適化しても、企業内部の部署変更、生産工程の刷新などで設定等を再検討しなくてはいけない場合がある。最適化のやり直しというわけだ。そんな時は運用前に新しい環境をシミュレーションしながら調整していくといい。クリックテック・ジャパン データインテグレーション事業 シニア・アカウント・マネージャーの木口亨氏は、こうした変化が発生した場合、適した解決方法とそのために役立つツールを紹介した。
木口氏は、SAP導入にまつわる課題を確認した。ここでは課題の取りこぼしがないように導入から本番稼働まですべて俯瞰。4つの段階にわけて、それぞれで発生しうる課題を提示した。
- プランニングフェーズ:導入前に、予算や期間、リソースを検討する。
- 要件定義フェーズ:経営者からの課題、ビジネス部門等を確認、検討する。ここでは事業再編や組織改変といった企業運営の変化も想定する。課題が少し見えてくる。
- 実装フェーズ:決定した要件定義に沿って実装する。本来なら、一度決めた定義は変えたくないが、ビジネスへのインパクトによっては変えざるを得ない場合もある。課題が顕在化していく。
- 本番稼働/保守フェーズ:SAPが動き出すと、ビジネス部門からは待ってましたとばかり新たな要求が発生する。新たな課題とどう付き合うかの日々が始まる。
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プランニングの段階では課題は見当たらないが、段階を踏むごとに課題が成長する様子が見える。また木口氏は、これとは別に法規制対応は当然のように発生するし、今後は新型コロナ対応やウクライナ情勢のような突発事項の対応も必要になるだろうと、変化による課題が如何に多いかを説明した。
プロジェクトチームに降りかかる課題とその解決方法
次に木口氏は、SAP導入・運営・保守のプロジェクトチームやIT担当者が向き合う課題を、3つのケースで業務シナリオ別にピックアップした。
ケース1・プロジェクトチーム担当「SAP ECC6.0からS/4 HANAへの移行の場合」
シナリオA:プロジェクト支援シナリオ
移行計画は単一ではなく複数用意し、それぞれを検証、評価し、確実な移行計画の立案を目指すのがベスト。移行シミュレーションを複数回評価するには、迅速な本番データを検証環境にコピーできるといい。そこで有用な機能はSAPのクライアントごとのデータコピー(クライアントコピー)。加えて移行計画ごとにコピー内容を切り分けられればより効率的である。
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シナリオB:マスター管理シナリオ
事業部ごとに保持する設定情報等のマスター管理は重要。緊急にマスターを変更する場合は、マスターが先祖帰りしたり、予期しない影響から改変されたりしないかのチェックは必須だ。このチェックはSAPの中に入っての調査が必要で、クライアントコピーを検証環境に行って、本番に影響が無いように確認することが有用だ。
ケース2:プロジェクトチーム担当「大きなビジネスインパクトが発生した場合」
シナリオC:ビジネス環境の継続的支援シナリオ<事業分割>
事業分割があっても、今のビジネス環境を継続的に支援する場合は、事業分割に関わるクライアントをまるまるコピーして、そこで分割によるシミュレーションを行うことが有用である。
シナリオD:ビジネス環境の継続的支援シナリオ<M&A>
企業活動が進行中のままM&Aで企業規模が拡大する場合は、シナリオCと同様に、M&Aに関わるクライアントをまるごとコピーして、そこで合体した形でシミュレーションを行い、最適解を探る。
ケース3:IT担当者が対応「各種の例外業務シナリオ」
シナリオE:決算業務支援シナリオ「月次処理を事前に確認したい」
経理財務部が、SAP内でのオペレーションの確かさを月次処理前に確認をしたいという要望がよく発生する。その場合は月次処理に関わるクライアント部をコピーして検証環境でシミュレーションを行えば効率よく確認できる。
シナリオF:原価改変シミュレーションシナリオ「原油価格や原価の変動のインパクトを知りたい」
原油価格の高騰などで、期初で設定したレートのままでは運営が厳しい場面が出てくる。ビジネスに対するインパクトが強い場合は、SAPの本番機の上でのシミュレーションが求められる。こういった場合もクライアントコピーで、必要分をコピーしてシミュレーションすれば良い。
シナリオG:業務インパクトシミュレーションシナリオ「取引先の倒産、買収等が発生」
取引先の倒産や買収は突然わかるケースが多い。この場合、今の本番環境にどう影響するかを知る必要がすぐに発生する。この場合も、クライアントコピーで同じ環境を複製し、そこで本番業務に影響が出ないようなオペレーションを探ることが有効になる。
木口氏は「クライアントコピー、クライアントコピーと念仏のように唱えていますが、タイムリーに今の環境を複製できて、その中で様々なトライアルができることは、その後に起こるインパクトや変化にきっちり対応でき、非常に有効だと思います」と説明した。
Qlik Gold Clientの秀逸なクライアントコピー機能
木口氏は、この利便性の高いクライアントコピー機能を容易に実行できる「Qlik Gold Client」を紹介した。簡単かつ正確にデータを切り分け、クライアントの中から必要なデータだけをターゲットのクライアントにコピーできるツールだ。
木口氏の説明を引き継いで、クリックテック・ジャパン データインテグレーション事業 シニア・データ・アーキテクト徐志遠氏はQlik Gold Clientの機能概要を紹介し、デモンストレーションを行なった。
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Qlik Gold ClientはSAPのテストデータを作成・管理できるツールで、SAPの本番環境からデータのサブセットを容易に取得でき、開発、検証、トレーニングなどの環境にインポートできる。データ取得時には圧縮して容量を減らすことができ、セキュリティ確保のために難読化もできる。欧州の個人情報保護規制であるGDPRにある「忘れられる権利」にも対応している。
徐氏は、「一部のお客様は、本ツールを使って、本番システムからデータをエクスポートしてPoC環境を作成して、S/4 HANAのPoCを行っています」と述べた。
実際の動作としては、本番SAP環境から指定したクライアントのデータを共有フォルダにエクスポートする。その後、ユーザーはその共有フォルダからデータをターゲットクライアントにインポートする。エクスポート時には、インポートできるターゲットに制限がかけられるなどセキュティ面での機能もある。
本ツールの利用には別途ハードウェアは不要で、クライアントのダウンタイムは無い、ECC/ERP、CRM、GTSといった、すべてのABAP(Advanced Business Application Programming)ベースのSAPコンポーネントをサポートしている。
徐氏は、壇上で実際にQlik Gold Clientを使ったクライアントコピーを実践した。ソースになるクライアントは800、ターゲットクライアントは200という環境でのデモだったが、説明しながらおよそ10分でデータのエクスポート、インポートを問題なく実施し、講演を終えた。
●お問い合わせ先
クリックテック・ジャパン株式会社
URL: https://www.qlik.com/ja-jp/
製品URL: https://www.qlik.com/ja-jp/products/qlik-gold-client
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