企業が「マスターデータマネジメント(MDM)」を導入していくにあたって、短期間に、かつ着実に実現するためには、どのような方策を取っていけばよいのか。MDMソリューションの提供で数多くの実績を積み上げてきたJSOLは、その最善手として「顧客主導によるアプローチ」を挙げる。3月10日に開催された「データマネジメント2022」のセッションに、JSOLの有澤太氏と前田洋氏が登壇し、MDM導入の阻害要因と解決法、顧客主導型による顧客マスター構築プロジェクトの成功事例を解説した。
マスター統合を阻害する3つの要因とは
JSOLは企業・組織のマスター統合を支援するため、マスターデータマネジメント(MDM)ソリューション「J-MDM」を提供し、数多くの導入実績を積んできた。さらに、パッケージやツールの提供のみならず、マスター統合に向けた構想策定やアセスメント、さらにクレンジング等によるデータ品質の向上なども提供、「製品」「導入ノウハウ」「テンプレート&サービス」の3つを軸に据え、“顧客主導型”のMDMプロジェクトを展開している。
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JSOLの有澤太氏は、「これらのメニューは、MDM実現を支援するためのサービスに過ぎません。MDMプロジェクトを成功させるために最も重要なのは、お客様が自ら主導権を握ってプロジェクトを進めることです」と訴える。
続いて、JSOLの前田洋氏は、「統合マスター構築にあたってのポイントは、大きく『スコープ』『業務』『システム』の3点です」と強調する。スコープでは「対象とするマスターやシステムの範囲をどう定めるか」が、業務では「マスターに対してどのような業務を描くのか」が、そしてシステムでは「スコープを当てたシステムに対してどのような全体図を描いてくのか」が重要なポイントになるという。
「開発前」「開発中」「開発後」それぞれの阻害要因
前項のポイントを踏まえたうえで、マスター統合の推進を阻害する要因は、「開発前」「開発中」「開発後」のフェーズごとに存在する。
はじめに、開発前の阻害要因が「求める効果と費用が釣り合わない」ことだ。「マスター統合を行う目的やスコープが明確でないと、要件定義の際に枝葉の部分が膨れ上がってしまい、見積金額が膨大なものになってしまいます。結果、社内から承認されず、プロジェクト開始前に頓挫してしまうケースは少なくありません」(前田氏)。
続いて、プロジェクトはスタートしたものの進行がうまくいかないという開発中の阻害要因は、「構想策定」「要件定義」「開発/移行」の3フェーズにそれぞれ存在している。
まず、構想策定フェーズでは、理想を追い求めるばかりに現行システムへの影響を無視してしまったり、実現不可能なレベルにまでスコープが広がってしまったりするケースが少なくない。結果、実現不可能となってしまう。
続く、要件定義における阻害要因には、業務ユーザーの理解が得られなかったり、必要なマスター項目が決まらなかったりするケースがある。さらに、開発/移行フェーズでは品質不良や移行データを抽出できないなどの問題が出てきてしまう。
そして開発後は、開発が進むにつれSIer任せになることが増え、途中経過が見えなくなってしまった結果、成果物が出て来た時点で認識の相違が発生してしまうというケースが往々にして存在する。
「これらの阻害要因を解決する方法が、顧客主導型によるプロジェクト推進なのです。その実現には、プロジェクト状況に応じた適切なサービスとツールの利用がカギになります」と前田氏は強調する。
マスター統合プロジェクトを成功させるためのポイント
セッションでは、MDM導入の成功事例とそのポイントが紹介された。清水建設における、「取引先マスター」の統合事例である。この事例では、JSOLのJ-MDMを導入するとともに、外部の企業情報データベースを活用、さらに新マスターの管理について運用体制の改善を行ったことで、プロジェクトを成功に導いている。
前田氏によれば、プロジェクト成功のポイントは大きく3つあったという。
1つ目が、取引先マスターという全社で利用可能なマスターを構築するにあたり、現場のユーザーが手作業を行うのではなく、既存の外部の企業情報データベースを利用したことだ。そこに登録されている企業名、住所、電話番号等の基本情報をマスター側に格納する仕組みを整備し、データの精度を高めるとともに、ユーザーの負担も軽減させた。
2つ目が、全社統一マスター以外に存在する周辺システムのサブマスターについて、ユーザーが勝手に登録できない仕組みを構築したことだ。周辺システム側から取引先マスターの内容を検索し、もし登録データがない場合には、周辺システム側から取引先マスターへの登録申請を行う仕組みを構築。これにより、データの重複や表記の不統一を回避した。
そして、3つ目のポイントが、取引先マスターの精度向上とメンテナンス負荷の抑制である。取引先マスターは一度登録した後で情報変更が発生することも少なくない。そこで、先述の企業情報データベースと取引先マスターを定期的に突合、手作業による更新をなくすとともに、マスターを常に最新状態に保持する仕組みを構築した。
(清水建設株式会社様導入事例:https://www.jsol.co.jp/casestudy/66_shimizu.html)
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また、プロジェクトの進行過程においても、3つの成功要因があったことが紹介された。
1つ目が「パッケージの活用」である。外部パッケージの活用により、コストと工期を削減できたほか、開発前に実際の画面を見ながら、システムの機能やイメージ、「できること」と「できないこと」をユーザーと共有することができたという。
2つ目が、先にも述べた「顧客主導」でプロジェクトを進めたことだ。顧客の情報システム担当者がSIerとの1本化された窓口となり、業務部門からの改善要望を取りまとめたり、コンセンサスを得たりするというシンプルな要件確認フローを構築。スピーディーなプロジェクト運営を行うことができた。
3つ目が「マイルストーンの共有」である。「システムをサービスインするにあたって、社内においてどのような承認プロセスが必要になるのか、顧客だけでなくSIer側も把握した上で、都度、必要な情報を提示した。また、最終的なゴールはどこを目指すのか、常に顧客と共有しながら進めていった」と前田氏は説明する。
このほかにもセッションでは、マスター統合に際して、「業務要件に基づきマスターを定義する」という従来型の方策ではなく、「マスターを定義してから、業務要件を定める」ことで、プロジェクトを成功に導いた事例も紹介された。
最後に前田氏は、「これまで解説してきたポイントを考慮し、ぜひ、顧客主導型を可能にするMDMソリューションの導入を検討いただきたい」と述べ、セッションの幕を閉じた。
●お問い合わせ先
株式会社JSOL
URL:https://www.jsol.co.jp/
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