[インタビュー]
「今こそITインフラ&運用の能力を高める時!」ガートナーの専門家が断言する理由
2023年2月24日(金)田口 潤(IT Leaders編集部)
ITのビジネス活用の高度化、複雑化が進み、多くの企業のIT部門、とりわけ運用管理を担うチームが疲弊している。彼らにとって、クラウドサービスの充実は光明でもあるが、本当にクラウドに大半を委ねてよいのか──。その解を、米ガートナーでインフラストラクチャ&オペレーション(I&O)のリサーチを率いるディスティングイッシュト・バイスプレジデント/アナリストのネイサン・ヒル氏に聞いてみた。
逼迫するIT部門の人材/リソース
IT部門がカバーする領域は広い。定型/非定型を含めた情報システムの企画・開発・運用・保守──言葉にするとシンプルだが、一歩踏み込むと業務アプリケーション、データ、ネットワークを含めたITインフラ(IT基盤)といった各レイヤーがある。さらに、業務アプリケーションと言っても、会計や人事などのバックオフィス系から販売・生産などの中核業務系、メールやファイルサーバーなどフロントオフィス系、Webサイトやコールセンターのような顧客系がある。
今日では、これらにアナリティクスやAI、IoTが加わってくるし、B2Cの企業ならスマートフォンアプリ/サービスの開発や運用もあるだろう。当然、サイバーセキュリティの確保や何らかの災害に備えたBCP/DRは大前提だ。さらには、専門性の高い部門だけにIT人材の育成やIT予算管理も加わるし、社内他部署の社員に対するデジタルリテラシー教育を担うケースもある。限られた人員や予算でこなすのは楽ではない。
そんなIT部門、統括者のCIOやIT部長にとって助けになるのが、クラウドサービスだ。IaaS/PaaS/SaaS、あるいはパブリッククラウドかプライベートクラウドかによって異なるが、少なくともITの開発・実行基盤に関わる設計・調達・運用・更新といった仕事をオフロードし、携わっていた人材を他の仕事に充てることができるからである。とはいえ、そうした基盤をクラウドサービスに依存するのは得策なのか。ITインフラの構築・運用に関わる人材やノウハウを手放すことはできるのか。
IT部門はクラウドに大半を委ねて本当によいのか。米ガートナーで、インフラストラクチャ&オペレーション(I&O) のリサーチを率いる、ディスティングイッシュト・バイスプレジデント/アナリストのネイサン・ヒル(Nathan Hill、写真1)氏に取材する機会があったので聞いてみた。以下、一問一答でお伝えする。
──ガートナージャパンのコンファレンスで「I&O躍進の時(I&O Forward)─次なる成長をリードせよ」と題した基調講演を担当されました。クラウドファーストが浸透する中、I&O=ITインフラ&オペレーションの役割は縮小するという考えもありますが、なぜ、今が躍進の時なのでしょうか。
定義からお話しましょう。I&Oはさまざまなテクノロジー/サービスを提供するためのプラットフォームを構築し、管理・メンテナンスし、サポートする役割を担っています。IとOを分けて考える場合もありますが、プラットフォームを進化させる役割も含めて基本的なところは共通です。I&Oは多くの企業においてIT投資全体の50%程度を占めており、投資を考えるうえでは重要な要素です。
一方で、I&Oを巡る状況は大きく変わりつつあります。さまざまなテクノロジー分野で生じている破壊的な変化や、コロナ禍によるオフショアリングの環境変化などに対し、I&Oのチームはこれまで非常にうまく対処してきました。しかし、2022年以降はインフレや労働市場における人材不足、世界的な半導体の供給不足が顕在化し今もなお進行中です。そうしたことに対処するために、I&Oはより多くの仕事を限られたリソースで担わなければならない状況になってきています。
具体的には、事業部門に在籍し、例えばローコード/ノーコードツールを活用してビジネスを進化させる役割を担うビジネステクノロジストなどとフュージョン(融合)する。つまり緊密に連携する必要があります。言い換えれば、事業部門のビジネステクノロジストにガバナンス、そしてコンサルティングを提供するのが、I&Oの新たな役割と考えられるようになっているという認識です。今日の企業にとって重要であり、だからこそ「I&O Forward」なのです(図1)。
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なぜ今、インフラ&運用チームが重要なのか
──日本でI&Oと言うと、ITインフラや運用を担うチームのことですね。多くの企業では、I&Oとは別にシステム企画やアプリケーション開発を担うチームがあります。ご指摘の事業部門のビジネステクノロジストと融合するのは、どちらかというと企画・開発のチームではないかと思います。なぜ、I&Oなのでしょう。
確かに伝統的な企業では、I&Oチームはアプリケーションのオーナーや開発者に対して、さまざまなサービスを提供してきました。つまりI&Oのカスタマーは、アプリケーション開発部門でした。でも、現在のトレンドではそれが多様化しています。アプリケーションの企画や開発に加えて、LOB(事業部門)に直接、サービスを提供する状況が増えてきているのです。
そこには部門を問わず、ローコード/ノーコードツールをはじめとするツールを使うようになっている現実があります(図2)。これは世界的に共通で、組織全体であらゆる従業員が何らかのツールを使うようになっていくトレンドがあります。もちろん企業全体に影響するERPやCRMなどは専門家が担う必要があるので、アプリケーションチームは引き続き重要な役割をはたしますし、はたさなければなりません。
しかし同時に、LOBがみずから行うちょっとしたアプリケーション開発も増えており、それがバリューチェーンの中で重要になっています。ですからI&Oは、ビジネスのエクゼクティブやリーダーの人たちと直接、もっと多く話をする必要があります。アプリケーション開発に関わる技術は、どんどん成熟化していますし、サービスを提供する時にテクノロジーが組み込まれます。さまざまな分野において、すべてのビジネスの基礎となっているのがテクノロジー、デジタルであるというのが今日の状況であり、I&Oの仕事も拡大しています。
──だからI&Oの役割は広がるわけですね。一方でITインフラに関わることは、すべてクラウドに任せればよいという考え方もあります。それによりI&Oの組織や人材は最小限にできる、と。この点についてはいかがでしょう。
ITインフラの調達方法が変化しているのは確かです。以前はITインフラ専業のサービス事業者がいて、その力を借りながらテクノロジースタックを組んでいくやり方がありました。クラウド化が進む中でその必要は小さくなり、スケーラブルでエラスティック(Elastic:弾力性のある)なサービスを享受できるようになったのは事実でしょう。
しかし、クラウドのIaaSやPaaSを利用する場合、ITインフラのプロビジョニングやコンフィギュレーション、そしてセキュリティといった点は、利用者が責任を負わなければなりません。ある程度はサービス事業者に任せられるとしても、企業の各部署が目標を達成するには何がベストなのかを考える上では、I&Oチームが関わっていく必要があります。
それにクラウドがインフラへのニーズのすべてを代替できるわけではありません。例えば、“エニウェアビジネス(Anywhere Business)”という言葉があります。このためにはエニウェアインフラが必要です。実際、調査で「インフラのどこに一番たくさん投資を行っていますか」「支出が行われていますか」を尋ねたところ、最多の回答はパブリッククラウドの35%でした。残りの65%は、昔からのデータセンターやITインフラ、リモートにあるサーバーやIoTの基盤だったりします。これらのサポートには継続的な投資が必要で、その責任を担うのはI&Oチームです。
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