[市場動向]
富士通、次世代エネルギー研究で量子化学シミュレーションを高速化する技術を開発
2023年2月24日(金)IT Leaders編集部
富士通は2023年2月22日、次世代エネルギーと目されるアンモニアの効率的な合成のための触媒材料に関する共同研究の成果を発表した。アイスランドのベンチャー企業アトモニア(Atmonia)と共同で行った研究において、量子化学シミュレーションを高速化する技術を開発し、触媒材料の候補を探索する時間を従来の半分以下に短縮した。
富士通は、燃焼してもCO2を排出しない次世代エネルギーとして注目を集めているアンモニアの効率的な合成のための触媒材料に関する共同研究の成果を発表した。
同社は2022年4月から、アンモニアの合成手法について、アイスランドのアトモニア(Atmonia)と共同で研究している。アトモニアは、アイスランドの首都レイキャビクに本社を置く2016年設立のベンチャー企業で、アンモニア生成のための触媒をコンピュータシミュレーションを用いて開発している。
研究では、合成の過程でCO2を排出せず、常温常圧で水・空気・電気から安定的に合成可能な触媒材料について、これを効率的に発見する新たな合成手法の確立を目指してきた。「触媒材料の発見は難しい。原子配置の構造や化学元素の種類と比率など、膨大な組成の組み合わせがあり、これまでの量子化学シミュレーションでは十分な探索が行えない」(富士通)という課題がある。
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研究の過程で両社は、触媒探索の効率を大幅に高める技術を開発した(図1)。HPC(High Performance Computing)によって得られた量子化学シミュレーションデータの入出力の関係を教師データとして、対象の材料探索に特化した学習を効率的に行うことで、新たなAIシミュレーションモデルを構築する。このうえで、求めたい触媒の構造データなどを同モデルに入力する。これにより、従来の量子化学シミュレーションと比べて100倍以上高速に新たな触媒材料候補を予測可能になった。
また、アンモニア合成触媒候補のシミュレーションデータに、富士通の因果発見技術を適用した。これにより、多くの時間と労力を要していた触媒材料候補の探索範囲の絞り込みを自動化し、触媒候補の探索期間を半分以下に短縮した。
研究を通じて、触媒原子の種類や位置関係、反応エネルギー量などの項目間の因果関係から「触媒候補の合金のベースとなる金属は、族番号が小さいものが適している」など、触媒に適した材料の性質の傾向を発見した。こうした傾向を用いて、効率的に材料候補の絞り込みの方向性を決定できたという。
富士通とアトモニアは今後、今回開発した技術を用いて、アンモニア合成触媒候補の選定と有効性を実験で検証する予定である。触媒物質を早期に発見し、クリーンなアンモニア合成を実現するとしている。