DX推進には組織内のデータ整理と活用が重要だが、組織的なデータ収集管理は容易ではない。ウイングアーク1stでは、データ活用に近い領域から整備を行うことに焦点を当てたソリューションを展開している。2023年3月9日に開催された「データマネジメント2023」のセッションに、同社の山本宏樹氏と地主哲平氏が登壇し、データ分析クラウドサービスの取り組みを導入事例を交えて紹介した。
経営と現場の両方を支援するデータ活用を目指す
ウイングアーク1stは、東京を拠点とする独立系のソフトウェア、クラウドサービスのベンダーだ。帳票の電子化などのドキュメント領域や、データ活用の領域を主力事業としている。山本氏が所属するData Empowerment事業部では、データ活用のプロダクトやクラウドサービスを提供しており、顧客のデータ活用を支援している。
山本氏は、ウイングアーク1stが目指すデータ活用について「データを経営と現場の目線でつなげて、分析・可視化していくことを推進しています」と述べた。組織内のデータはきれいに構造化されたものばかりでなく、現場に近い領域のデータは、紙の書類や映像ファイルなど、構造化されていないデータも発生する。同社では、これらを1つのデータソースとして扱えるデータウエアハウスや分析ツールを提供して、業務を高度化する支援をしている(図1)。
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ツールを用意しても組織から生まれるデータを集めなければ活用もできない。組織としてのガバナンスやルールの整備が必要だ。山本氏はデータ整理・活用を登山に例え「当社は登山でのシェルパ(案内人)のような存在でお客様と伴走する存在でありたい」と述べ、まずは組織内のデータ感度が高いメンバーから活用を促し、部門の中に広め、組織全体に浸透するという段階的な導入のアプローチを説明した。
このような配慮が支持され、ウイングアーク1stは、「日経コンピュータ 顧客満足度調査 2022-2023」データ分析・利活用支援ソフト/サービス部門で1位を獲得している。
ビジネスのニーズに応じたデータ活用基盤構築の成功事例
山本氏は続いて、ビジネスニーズに対し、適切なタイミングでデータを提供したいという課題を解消した事例を2つ紹介した。
課題解決事例① スプレッドシートによるデータ管理の合理化
1つめは組織の部門間で標準化したデータ基盤が整備されておらず、スプレッドシートのファイルをリレーしてデータを利用していた企業の事例だ。個々のファイルを集めて統合する時間もかかり、データを時系列で見ることもできない。経営層が統合されたデータを分析したくても解像度が低いため判断の精度を高められない。しかも、すでに運用しているファイル集約のプロセスを変更するのも困難だ。
そこでウイングアーク1stでは、スプレッドシートのファイルを集め、自動的にデータを抽出する仕組みを提供した。運用を変えずに効率アップに成功したのだ。山本氏は「データは自動的に蓄積されますので、集計・分析は省力化されます。データを時系列で管理できますので、予実分析のようなところも簡単にできるようになります」と効果を示した(図2)。
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スプレッドシートでのデータ管理は多くの企業で行っており、意思決定に必要な役割を持つものの、合理化ができていない領域であった。ウイングアーク1stでは、これらのファイルを整理できる新しいサービスを、2023年5月頃に提供する計画だ。
課題解決事例② サプライチェーンで発生するデータの一元管理
もう1つは、販売、出荷、在庫、財務などの実績や、現場の計画のデータなどを統合し、データ活用基盤ツール「Dr.Sum」でデータを整理し、需要予測のシステムを構築した事例だ。Dr.Sumは、組織で利用している業務アプリケーションに対してもデータを流通できるハブのような役割を持つ。データやシステムが多岐にわたるため、段階的な導入が展開された(図3)。
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この事例で得られたノウハウについて山本氏は「まず、1つのテーマから取り組みました。テーマごとの業務例外1つひとつに対応していくと、個別最適が進んでしまい、全体最適の視点が少し欠けてしまいます。横断的に活用できるよう、標準化、共通化をする目線が必要なことを学びました」と述べ、全体最適を目指すルール設定と、品質を高めていくメンバーの存在が欠かせないとした。
多様なデータソースを柔軟に活用できるプラットフォーム構築例
データ活用のユースケースは、企業内の意思決定や業務連携によるものだけではない。顧客接点やサービスの中でデジタルを駆使し、そこで必要となるデータマネジメントという側面もあり、ウイングアーク1stはそこでも実地経験を積んでいる。
続いて登壇した地主氏は、そうしたユースケースの一例として、同社が伊藤忠商事と、味香り戦略研究所とともに提供する食に関するデータプラットフォームサービス「FOODATA(フーデータ)」について説明した。FOODATAは、食品メーカーが商品を企画・開発するために活用できるデータサービスで、スーパーマーケットのPOSやコンビニエンスストアの購買情報、味覚センサーによる味分析、消費者調査分析、SNSなどでの口コミといったデータを提供する。
ウイングアーク1stでは、データウエアハウスとしてのDr.Sumに加え、非構造化データにメタデータを付与できる「invoiceAgent」、個々の顧客が分析に利用する「MotionBoard」と、同社のプロダクトを使ってFOODATAを構築した。多様なデータを扱いながら、持続可能な分析活動ができるアーキテクチャーとなっている(図4)。
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FOODATAで扱う情報は、基幹システムのデータベースとは異なり、情報間の関係を把握するような要件は少ない。お互いに整合性をとる必要がないからだ。そこで、ファイルがどのような手順や処理で出来上がっているかを把握するドキュメントを作り、データモデルを定義した。新規データはそれをもとに作成することにし、バッチ処理速度のボトルネックの洗い出しにも役立てた。
データ統合はDr.Sumのデータ準備のために実施するバッチ処理やデータ加工処理(前処理)のためのスクリプト言語「DS Script」を使った。各種データソースからDr.Sumに貯めたデータをDS Scriptによって整えるのだ。DS Scriptは可読性に優れ、処理の見直しが容易というメリットがある。個別の例外設計や処理速度の課題はDS Scriptの編集によって対処する。
データは、ユーザーが分析などで二次利用しやすいよう、JANコードをベースとした、統合されたコード体系となった。PDFなどの非構造化ファイルもinvoiceAgentによってメタデータを付与して管理できるようになっている。整理されたデータをユーザーが分析や参照するのがMotionBoardだ。
FOODATAの開始当初はデータ更新頻度が高く、夜間バッチの速度に問題があり、属人監視が課題となっていたという。今では、データの流れや更新処理を随時見直して改善をし続けている。データ分析の粒度はユーザーによって異なるため、毎月1回のペースで機能改善リリースを行なっている。地主氏は「スモールスタートで始まった基盤ですが、データアーキテクチャーが柔軟に設計されていたため、拡張性に特徴のあるデータマネジメントが実施された」と述べた。
ウイングアーク1stでは、利用者に近いデータ活用の領域からデータマネジメントを行うアプローチを採用し「Dataring」と呼んでいる。何のためのデータなのかをヒアリングして、アウトプットを見据えた上で最適なデータモデルを作り、サイロ化された各種データを活用できる状態を目指していくものだ。地主氏は最後に次のようにコメントした。
「製品ベンダーの価値は、データを蓄積する基盤やツールの提供ではなく顧客に使われる活用基盤の提供です。私たちは企業理念『The Data Empowerment Company』を掲げて活動しています。データの価値を最大化してビジネスにイノベーションを起こすことで世の中を変革し、新しい未来を作っていくことを実現するために、今後も製品やサービスを提供していきます」(地主氏)。
●お問い合わせ先
ウイングアーク1st株式会社
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