[インタビュー]

「AIは基のデータこそが差別化要因だ」─米ワークデイCTOに聞く「Workday AI」戦略

米ワークデイ グローバルCTO デイブ・ソヒジャン氏

2023年10月26日(木)末岡 洋子(ITジャーナリスト)

クラウドHCM/財務管理の米ワークデイ(Workday)が、生成AIをはじめとするAI技術の自社製品への適用を加速させている。2023年9月末に開催したプライベートコンファレンス「Workday Rising 2023」で取り組みの一端を披露した。会期中に明らかにした日本市場へのフォーカスも含めて、グローバルCTO(最高技術責任者)を務めるデイブ・ソヒジャン(Dave Sohigian)氏に聞いた。

生成AIをWorkdayにどう組み込むか

──Workday Risingで、生成AIを含むAIやマシンラーニング(機械学習)への新たな取り組みを発表しました。グローバルCTOの立場から、最新のAIに対するワークデイのスタンスを教えてください。

デイブ・ソヒジャン(Dave Sohigian)氏写真1):生成AIを製品に取り入れ、ジョブディスクリプションの自動生成などの機能を、「Workday Human Capital Management(HCM)」や「Workday Financial Management(FM)」に組み込んで利用できるようにする。

写真1:米ワークデイ グローバルCTOのデイブ・ソヒジャン氏。ピープルソフトからオラクルを経てワークデイに参加したテクノロジーリーダーである

 なかでもアピールしたいのが、契約書を分析する「Contract Analysis」機能だ。生成AIを使って文書の要約などを生成することはそれほど難しいことではない。しかし、契約書が関連するルールを満たしているのかを精査し、以前の契約書と比較して、ミスを漏らさず知らせてくれるような機能は、Workday AIのアドバンテージとなるだろう(写真2)。

写真2:Contract Analysis機能では、システムに登録された情報と契約書の相違を発見してハイライト表示で知らせるほか、修正案を生成することもできる
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AIは基になるデータこそが差別化要因

ソヒジャン氏:近年は、ChatGPTが個々人の業務遂行を支援する生成AIとして話題の中心にある。一方、組織全体のビジネスでは、パブリックな生成AI/大規模言語モデル(LLM)より、専門分野に特化した基盤モデルのほうが重要になる。ワークデイは10年以上蓄積した膨大なデータ、専門性の高いナレッジを基に、顧客に価値ある便利な機能を提供していく。

 OpenAIやアンスロピック(Anthropic)、グーグルなどが取り組んでいるが、システムやアプリケーション開発の分野でAIやマシンラーニングの活用が進むことで、プログラミングスキルの重要性は低くなるだろう。マシンラーニングによるプログラミング支援は、プログラミングそのものというより、大規模なデータセットを分析し、結果を見てそれを試すことの反復から望むデータセットに近づける作業だと言える。

 だから、プログラミングでのAI活用は(作業の効率化は図れるが)、差別化要因にはならない。差別化を図れるのはデータだ。データの規模が大きくなれば、その中にエラーが含まれる可能性が高くなり、真実とは異なる結果が出てくることになる。また、業界・業種に特化した基盤モデルを得ても、そこに個社ごとの意思決定に必要なデータが揃っているわけではない。

 必要なのは、意思決定支援に活用できるレベルの、圧倒的な業務データ量になる。ワークデイはアジア太平洋地域に800社、世界中に1万社以上の顧客がいて、人事・人材管理や財務管理にまつわる膨大なデータを意思決定支援に役立てられるようにする。

──多数の顧客企業の膨大な情報・ノウハウが意思決定支援などの今後の新機能に活用されるということですか?

 そう。それを実現するうえでのワークデイのアドバンテージとして、すべてのデータが当社運営管理のデータセンター内にあるという点だ。Power of Oneコンセプトの下、すべての顧客が単一のデータモデル/アーキテクチャを用いており、6500万人のユーザーが同一バージョンのアプリケーションを使っている。

 もちろん、データセンター内は顧客ごとに区分けされているが、「Innovation Services Addendum(ISA)」と呼ぶ契約で、顧客からAI/マシンラーニングをWorkdayの機能拡張/改善に利用するためのデータ共有の許諾を得ている。現在、ISAに同意する顧客の比率は90%に達している。つまり、90%の顧客が当社への信頼の下、AIやマシンラーニングがもたらす高度な自動化などの先進機能を使いたいと考えていることになる。

 この仕組みは、ワークデイが創業時より単一のデータモデルというアーキテクチャを継承し続けてきたからできることだ。競合では今もオンプレミス、ハイブリッド/マルチクラウドなどの環境の上で異なるバージョンのアプリケーションが稼働している。顧客がデータの共有を許諾して高度な機能を得たいと思っても簡単にできないだろう。

AIに対して過大な期待は持たない

──今後5年間、AIやマシンラーニングによる変革はどのぐらい進むと予想していますか?

 それに関しては巷間予想されているよりも少ないと思っている。私はピープルソフトから25年間業務アプリケーションの世界に関わってきたが、これまで、何か新しいものが出てくると、必ず抵抗勢力が出てくるというのを繰り返してきた。インターネット、クラウドもそうだった。

 抵抗するのはセキュリティチームかもしれないし、開発者かもしれない。自分の仕事が脅かされると感じる人ということだ。そうした人たちはダイレクトに進展を遅らせたいわけではなく、安全を慎重に確かめたいのだ。もっとも、ブレーキをかけることは悪いことではない。業務アプリケーションでは安全性や信頼性が重要だからだ。

 変化を嫌うのは人間の本質だ。変化を好きになれるのは、変化に責任がある立場になったときだけだろう。コロナ禍でリモートワークが進んだが、技術的には以前からすべて可能だった。変化を嫌うあまり、受け入れに時間がかかっていた技術がとても多い。

 現在、生成AIの台頭で我々は再び変曲点にいるが、思うほどにAIの受け入れは進まないのではないだろうし、AIの進化だけで変化が進むと期待すべきではない。だからと言って、もう一度コロナ禍のようなものがやってくることは望まないが(笑)。

●Next:ワークデイ日本法人がアジア太平洋地域から独立へ、その意図は?

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