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[技術解説]

「これが生成AI時代の開発/実行環境だ」─SAP BTP/Buildシリーズの刷新に込めた意図

SAP TechEdでプロコードツールとベクトルDBのネイティブサポートを発表

2023年12月14日(木)冨永 裕子(ITアナリスト/コンサルタント)

ローコード/ノーコード開発ツールが、ユーザー企業におけるアプリケーション/システムの開発内製化や市民開発を促す一方、プロ開発者には、基幹システムの安定稼働や競争優位につながる高度なシステムの開発といったミッションがある。加えて、生成AIの大きな潮流の中で、その戦略的活用をどう実現していくかという課題も浮上している。独SAPは2023年11月2日・3日にインド・バンガロールで開催した開発者向け年次コンファレンス「SAP TechEd 2023」で、「SAP Business Technology Platform(BTP)」傘下にある開発製品群のアップデートを発表した。なかでも注目は、2024年第1四半期に一般提供開始を予定する「SAP Build Code」と「Vector Engine」の2つで、幹部からの説明を基に解説する。

プロコードツール「SAP Build Code」の役割

 SAPは、顧客が運用するSAPアプリケーション(ERP、HCM、SCM、CRMなど)の開発・実行プラットフォームして「SAP Business Technology Platform(BTP)」を提供している。アプリケーション開発から自動化・統合、データマネジメント、アナリティクス、AIに至る広範な領域をカバーしており、アプリケーション単体では困難なユースケースへの対応、アドオンプログラムの開発によるアプリケーションの拡張、SAP以外のアプリケーションとの統合をサポートしている。

 今回、アプリケーション開発領域の新製品として紹介されたのが「SAP Build Code」(画面1)だ。2022年のTechEdで発表されたノーコード/ローコード開発ツールの「SAP Build」とは異なり、Java/JavaScript開発者/プログラマー向けのプロコード開発ツールになる。

画面1:プロコードツール「SAP Build Code」の開発画面例(出典:独SAP)
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 企業が生成AIの積極的な活用を始める中で、SAPは、プロ開発者と市民開発者とのコラボレーションの強化が必要になると見ている。そこで、混成チームの生産性向上のために提供するのがSAP Build Codeということになる。SAPは、SAP Build CodeのUIはSAP Buildとの統一感を持たせ、コーディングスキルの程度に関わらず、混成チームのメンバー全員が協力してアプリケーション開発ができる環境としてSAP Buildシリーズ全体の刷新を図っている。

写真1:独SAP シニアバイスプレジデント インテリジェントエンタープライズ/BTP基盤統括のマイケル・アメリング氏(写真左)、シニアバイスプレジデント データベース/SAP HANA データベース&アナリティクス統括のステファン・ボイアーレ氏

 「ノーコード/ローコードツールが必要になるのは、人手不足の問題があるからだ」と独SAP シニアバイスプレジデント インテリジェントエンタープライズ/BTP基盤統括のマイケル・アメリング(Michael Ameling)氏は指摘する。アプリケーション開発スキルを持つ人材は日本だけでなく世界中で不足している。生成AIの活用が進めばなおのこと、優秀なエンジニアの奪い合いになるだろう。

 一方、優秀なエンジニアであっても、ビジネス部門が実現したいことに必要な業務知識を兼ね備えているかはまた別の話だ。プログラミング知識が若干欠けていたとしても、人材スキルギャップを補う手段になりうるのがSAP Buildのようなツールである。

 もう1つ、ノーコード/ローコードツールが必要になる理由として、アメリング氏が挙げたのが「アプリケーションライフサイクルは、そもそも非常に単純なシナリオの実装から始まる傾向がある」ことだ。最初のシナリオ実装がうまく行って運用に入ったとする。すると今度は小さな問題が発生しての対応、追加要件への対応など、徐々に複雑なシナリオへの対応が要求されるようになる。ノーコード/ローコードツールですべての要求に対応できるとはかぎらない。SAP Build Codeの投入には、ローコードからプロコードへの移行を円滑に促す狙いがある。

ツール選択を見極る「BTP Developer's Guide」

 SAPの提供するプロコードツールには、SAP Build Codeのほか、SAP Buildと同時に発表した「ABAP Cloud」もある。長所の1つは、「クリーンコア」の方針に従い、クラウドERPの「SAP S/4HANA Cloud」を拡張できることだ。クリーンコア(Clean Core)とは、ERP本体(S/4HANA Cloud)はクリーンな状態に保ち、ERPへの変更やカスタマイズはBTP側で行うアプローチのことで、SAPが提供する最新機能を迅速に利用できるメリットがある(図1)。だが一方で、日本のSAPユーザーの多くは、フィット&ギャップ(Fit & Gap)分析を行い、標準プロセスに合わない自社の業務プロセスのギャップはアドオン開発で補ってきた。

図1:「クリーンコア」の方針の下、アドオン開発はS/4HANA Cloud本体には行わず、水色の外周で示すBTPで行う(出典:SAPジャパン)
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 今後はこのアプローチをFit to Standardに改め、標準に自社のプロセスを合わせることを前提に、ギャップの解消はERPの外側のBTP上の拡張で行う必要が出てくる。使いやすいシステムに満足していたユーザーにとって、標準に合わせることは痛みを伴う変化になる。とはいえ、長い目で見ると、生成AIのような今後取り組まねばならないユースケースの実装を迅速に行うことができるようになるはずだ。

 今回のTechEdでは、Build、Build Code、ABAP Cloudのいずれを利用する場合でも、プロ開発者と市民開発者が、混成チームとして同じ環境でアプリケーションを開発できるようになったことが強調された。「Build CodeとABAP Cloudのどちらを使うかは、ユースケース次第」(アメリング氏)であり、どちらが適切かを判断できるよう、プロ開発者向けにSAPが提供する情報源として「SAP BTP Developer's Guide」を用意している。基調講演で発表したこのガイドラインは、Build CodeあるいはABAP Cloudを利用するプロ開発者に向けて、アプリケーション開発と拡張方法を具体的に示している。

HANA Cloudがベクトルデータベースをネイティブサポート

 Build Codeと並んで今回のTechEdの発表の柱となったのが、インメモリー型クラウドデータベース「SAP HANA Cloud」における「Vector Engine」サポートである。データベースとしてのHANAは、データをメモリー上で処理するインメモリーアーキテクチャを最大の特徴とし、2010年代に登場して以来、SAPアプリケーションだけでなく、非SAPアプリケーションのデータ基盤としても提供してきた。

●Next:ベクトルデータベースが生成AIの活用にもたらす利点は?

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