富士通は2024年2月19日、量子シミュレータの量子回路計算を分散処理によって200倍高速化する技術を開発したと発表した。1024の計算ノードを8グループに分割して分散処理することで、従来方式で200日かかる32量子ビット問題の実行時間が1日で完了することを確認した。同技術を応用することで、大規模な量子計算のシミュレーションを現実的な時間で完了できるようになるとしている。
富士通は、量子シミュレータの量子回路計算を分散処理によって200倍高速化する技術を開発したと発表した。1024の計算ノードを8グループに分割して分散処理することで、従来方式で200日かかる32量子ビット問題の実行時間が1日で完了することを確認した。同技術を応用することで、大規模な量子計算のシミュレーションを現実的な時間で完了できるようになるという。
従来、量子と古典を組み合わせたハイブリッド型アルゴリズムを用いた量子回路計算では、問題の規模に応じて量子回路計算の回数が増大するという課題があった。「特に、材料や創薬分野のシミュレーションのように多くの量子ビットを必要とする大規模な問題では計算に数百日も要していた」(富士通)という。
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同社は2つの技術を開発して上記の課題に対処した。1つは、繰り返し実行する量子回路計算を複数のグループに分散して同時に処理する技術である。古典コンピュータを利用して量子回路のパラメータを最適化する処理は、問題の規模が大きくなると計算量も膨大になるという。
開発した技術では、パラメータを微小変更した量子回路それぞれが互いに影響を及ぼすことなく実行できることに着目。パラメータが異なる複数の量子回路を同時に分散実行することで、計算時間を70分の1に短縮した(図1)。
もう1つは、精度の劣化を抑えつつ問題を単純化して計算量を減らす手法である。同社によると、量子・古典ハイブリッドアルゴリズムの計算量は、解きたい問題における式の項数に比例し、その項数は量子化学計算に用いる一般的なVQEアルゴリズムでは量子ビット数の4乗になる。規模が大きくなるにつれて計算量が増え、現実的な時間で結果を得られなくなるという。
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同社は、分子のシミュレーションを通じて、規模が大きくなるほど項の総数に対する係数の小さい項の割合が多くなること、かつ係数の小さい項が計算の最終結果に与える影響も微小であることを発見。この特性を利用して、式の項数の削減と計算精度の劣化防止を両立させ、量子回路計算時間を約80%削減したとしている(図2)。
今後、富士通は開発した技術をハイブリット量子コンピュータシステム「Fujitsu Hybrid Quantum Computing Platform」に実装する計画である。さらに、量子シミュレータだけでなく、量子コンピュータを使った量子回路計算も高速化できることを検証していく(関連記事:富士通と理研、超伝導量子コンピュータと量子シミュレータを組み合わせたハイブリッドシステムを提供開始)。