NTTは2024年3月21日、データを暗号化したまま元に戻さずに計算する秘密計算技術において、同社が提案したアルゴリズムがISO標準に採択されたと発表した。これにより、具体的にISO標準に基づく秘密計算を実装できるようになる。今回、加算や乗算、乱数生成などの基礎部分が標準化され、高速化の難易度が高かった乗算方式は4方式が標準化されているが、NTTが提案した方式が最も高速という。
秘密計算技術は、データを暗号化したまま元に戻さずに計算する技術である。国際標準化機構(ISO)が2024年3月6日に発行した、秘密分散技術を利用した秘密計算を規定する「ISO/IEC 4922-2:2024」の中でNTTの持つ独自技術が採用された。具体的な秘密計算の方式を規格化した初めてのISO標準で、これにより具体的に標準に基づく秘密計算を実装できるようになる。
「組織や分野を横断してデータを活用する需要が高まる一方、扱うデータに個人情報や機密情報が含まれる場合は情報漏洩のリスクからデータの共有が進んでいない。こうした中で、データの内容を漏洩させずに活用を推進する技術として秘密計算技術が注目されている」(NTT)
秘密計算の実用化にあたっての課題として、暗号化したまま処理を行うことが原因で、通常よりも処理速度が遅くなることを挙げる。そこでNTTは、世に知られる方法のうち最も高速に動作する仕組みとして、秘密分散技術を利用した秘密計算に着目して開発を続けてきた。開発した技術は、NTTコミュニケーションズ(NTT Com)の秘密計算サービス「析秘(せきひ)」などで利用されている。なお、秘密分散技術もISO標準化済みである(関連記事:ISOが秘密分散技術の標準規格を発行、全5方式の1つはNTTの独自技術)。
今回ISO標準に採択された秘密計算技術では、基礎的な演算方式である、暗号化したままでの加算、減算、乗算、これらに補助的な役割を果たす乱数生成を規定している(図1)。
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「なかでも、乗算は複雑な処理を必要とする演算であり、分散したデータを持つサーバーノード間で通信も発生する。乗算は、統計分析やAIモデルの作成などでも大量に用いられているため、暗号化したままこれらの分析を行う際に高速に処理できることの需要は大きい」(NTT)
今回の標準化では4つの乗算方式を規定しているが、NTTが提案した方式は、サーバーノードを最小構成の3台に限定する一方で、他方式よりも高速に動作するとしている。同社によると、分散先のサーバーが3台という構成は実用的なユースケースであり、3台で十分だという(図2)。
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