「○○○人材を△△△人育成する」──富士通がこういう発表をするのは何度目だろうか。2017年には「AI人材を2018年度末までに3500人にする」と発表し、その後、「デジタルイノベーターという職種を3年間で1200人に増やす」とも発表。記憶に新しいところでは、2021年初めに「国内の営業職約8000人をビジネスプロデューサー(BP)に転換させる」と表明している。今回は、「2025年度までにコンサルタント1万人」である。前編・後編の2回にわたって、その理を突き詰めて考えてみたい。
富士通は2024年2月下旬に説明会を開き、2023年5月に発表した新中期経営計画に基づいて、2025年度までに「コンサルティングスキルを持つ人材」を1万人以上に増やすなど、コンサルティング事業を強化するための具体策を明らかにした(関連記事:富士通、2025年度までにコンサル人材を現状の2000人から1万人へと拡充)。
説明会に登壇した執行役員 SEVP CRO 兼 グローバルカスタマーサクセスビジネスグループ長の大西俊介氏は、「本格的に、本気を出してコンサルティング事業に取り組む。そのケーパビリティとキャパシティに関して規模にこだわっていきたい。社会的インパクトを創造するためだ」と語った。加えて、「(本気度を示す意味を含めて)“Uvance Wayfinders”というコンサルティング事業のブランドを立ち上げた」という。
人数を強調する意味や是非はさておき、今、なぜ富士通がみずからコンサルタントを増やし、コンサルティング事業を拡充するのか? 今から4年前の2020年に、100%出資でRidgelinez(リッジラインズ)というコンサルティング会社を設立したのに、である。
大西氏は3つの理由を挙げている(図1)。1つは産業構造が変わり、業種や業界の垣根が消えつつあること。「既存のコンサルティング会社のコンサルタントは業種や業界ごとに専門が分かれている。これに対し当社はFujitsu Uvance(ユーバンス)でクロスインダストリー、クロスバーティカルを2年以上追求してきた」(同氏)。垣根が消えつつあるのでチャンスがあるというわけだ(Uvanceについては後編で詳述)。
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第2は、AIや量子コンピューティングなどのテクノロジーの影響が拡大し、経済や働き方を大きく変えること。変化の度合いは想像を超えるので、社会がどう変わるかを想定し、ガイドする役割が必要になる。世界各地に研究拠点を持つ富士通ならそれができるという。
最後は、富士通自身の変革だ。顧客の要件を聞いて何かを構築・提供するのではなく、対等な立場で事業やビジネスを作っていくのが目指す姿。顧客とのイコールフィッティングの関係が欠かせず、だからコンサルティングスキルが必要というものだ。
説明会には大西氏のほかに、富士通が力を入れるUvance事業の責任者である高橋美波氏、Ridgelinez社長の今井俊哉氏が登壇した。このうち大西氏と高橋氏は、ともに4月1日付けで副社長COOに就任すると発表されている。それもあってか、力のこもった説明がなされたが、意気込み先行というか、疑問も少なくない説明会だった。
例えば、上記の3つの理由のうち最初の2つは、コンサルティング会社やコンサルタントなら当然、認識していること。そうでなければコンサル失格だろう。2つ目の富士通が自社の技術やソリューションを持つことは、コンサルティング事業にとって逆に作用する可能性もある。納得感があるのは、3つ目の富士通自身の変革だが、2025年度にコンサルタント1万人という目標は本当に可能なのだろうか?
M&Aによるコンサルタント増は海外中心
改めて今回の説明会の疑問を整理すると、こんなところだ。
①1万人ものコンサルタントをどうやって揃えるのか?
②揃えたとして顧客から見た価値を提供できるのか?(他のビジネス/ITコンサルティング会社と互せるか?)
③旗印とする「Uvance Wayfinders」にはどんな意味があるのか?
④そもそも2000年に設立したRidgelinezがあるのに、なぜ本体でコンサル事業なのか?
説明会の内容から手がかりとなるポイントが2つある。1つは、コンサルタントを増やす方法だ(図2)。1万人の内訳はビジネス系3000人、テクノロジー系7000人で、「総勢10万人弱在籍するシステムエンジニア(SE)のリスキリング」のほか、「経験者採用」「コンサル会社のM&A」を想定している。1万人にはRidgelinezのコンサルタントも含んでおり、それもあって、現在すでに約2000人のコンサルタントがいるという。
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上記3つの手段のうち、M&Aは今のところ海外主体で、オーストラリアの企業が目立つが、規模は大きいとは言えない(表1)。約1200人と相対的に大きい独GK SoftwareはSaaS事業者なのでコンサルではないし、国内ではここ数年、コンサル会社のM&Aを行っていない。また、経験者採用は条件にもよるが容易ではない。となるとSEやプロジェクトマネジャー(PM)のリスキリングが主な手段になる。
買収時期 | 買収企業 | 概要 | 社員数 |
2021年4月 | Versor Proprietary Limited(オーストラリア) | AI/マシンラーニングによるデータ分析/データサイエンスのコンサルティングを提供 | 110名強(2021年時点) |
2022年7月 | Enable Professional Services(オーストラリア) | アジア太平洋地域でServiceNowのコンサルティングを提供 | 約350名(2022年時点) |
2023年3月 | GK Software SE(ドイツ) | 小売業向けのSaaSを提供 | 約1200名(2023年3月時点) |
2023年9月 | Innovation Consulting Services(タイ) | アジアでSAPのコンサルティングを提供 | 61~200名 |
2023年9月 | MF & Associates(オーストラリア) | 政府・公共機関向けのDXコンサルティングを提供 | 60名強 |
表1:富士通による海外企業の主なM&A
もう1つのポイントは、図3にある重点領域である。この図にあるプラクティスは実践の意味だが、提供するサービス項目と考えるとよさそうだ。ビジネス系ではカスタマーエクスペリエンスやマネジメントエクセレンスなど6項目、テクノロジー系はアプリケーションやデータ&AI、アジャイルなど7項目のコンサルティングを、必要に応じて組み合わせて提供する。
13項目それぞれの詳細は分からない部分もあるが、一部を除けばユニークとも独創的とも言いがたい。同様のコンサルティングを提供する企業は少なからずある。これが「経験者採用は容易ではない」と指摘した理由だ。現役のコンサルタントから見れば、他の会社でもできるなら、コンサル実績のない富士通に移籍する意味がない。
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話は横道にそれるが、図3のサービス項目はなぜ英字表記なのか、それぞれの意味は何かなど、分かりにくさを感じるのは筆者にかぎらないと思う。例えば「Sustainability & Verticals」。特定の業界や市場向けの持続可能性に関するコンサルティングのようだが、正しいか否かは判然としない。Technology Excellence(TX)やIT Value Transformation、Key Focus Technologiesなども同様だ。「コンサルティング強化はグローバル戦略」とはいえ、対象の多くは日本企業のはず。改善を期待したい。
リスキリングでコンサルタントを増やせるか?
話を戻すと、これらのポイントを見たとき、リスキリングという方法でコンサルタントを輩出できるかという疑問が生じる。リスキリング/リスキルは一般に、「技術革新やビジネスモデルの変化に対応するために新しい知識やスキルを学ぶこと」とされる。事務系の人材がプログラミングやデータ分析のスキルを身につける、システム開発に携わるエンジニアがセキュリティに関するスキルや知見を習得する、といったことがその例だ。
しかし、コンサルタントは何らかの目的達成をサポートしたり課題の解決策をアドバイスしたりする、言わば“指南役”“先生”のような存在である。だからこそ顧客は高い金を払うわけで、当然、一朝一夕になれるものではない。通常、コンサルティング会社の新人はアソシエイトやリサーチャー、アナリストといった職務に就き、ベテランが率いる実際の案件に従事。さまざまな仕事をこなしながら経験を積み、知識を獲得し能力を磨いていく。本人の素養にもよるが、自ら案件を担えるまでに最低でも数年はかかるとされる。
つまり、リスキリングによる職務や職種の転換(異動)とはニュアンスが異なるのだ。説明会ではリスキリングの内容にはほとんど言及されなかったが、発表文には「リスキリングの実施による人材拡充──Ridgelinezのコンサルティングサービスに関するナレッジやノウハウを活用した教育プログラムとOJTを展開し、社員のコンサルタントへのキャリア転身を支援していきます」とある。教育プログラムとOJTが主体になるわけだ。
しかし、教育プログラムでは実務経験は積めないし、OJTにしても富士通はコンサルティング会社ではないので自ずと限界があると考えられる。「Management Excellence」や「Operational Excellence」などビジネス系は特にそうだし、「Applications」や「Hybrid Infrastructure」といったテクノロジー系はRidgelinezのカバー範囲とは異なるので、そもそもナレッジやノウハウは少ないだろう。
それ以前に富士通社員の多くは、コンサル志望ではなかったはずだ。会社側が「コンサルタントが必要」と考えたとしても、本人に強い動機づけがなければ、知識やスキルを学んでも身につきにくいのは自明である。だからこそ4年前にRidgelinezを設立したはずだ。いずれにせよ、リスキリングで他のビジネス/ITコンサルティング会社と互せるほどの人材を輩出できるとは考えにくい。
ただし、コンサルタントを増やすシステムベンダーは富士通に限らない。NTTデータやNECも取り組んでいる。NECは現在500名のコンサルタントを2025年度に1000人に増やす計画を打ち出しているが、富士通に比べると10分の1と絶対的に少人数である。加えて、子会社に合計7500人超のコンサルを擁するアビームコンサルティングがあり、協力を得て実務経験を積める場がある点も異なる。
●Next:一般的なコンサルタントの定義・解釈とは違う?
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