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[インタビュー]

プロダクトアナリティクスの効果と事例─顧客体験分析が示す改善のヒント

米Amplitude 共同創業者兼CEO スペンサー・スケーツ氏

2024年9月11日(水)末岡 洋子(ITジャーナリスト)

ここにきて、欧米のITベンダーが相次いで日本への投資拡大を表明している。プロダクトアナリティクスを専業とする米Amplitude(アンプリチュード)もその1社。グローバルですでに2700社以上の顧客を擁する、この分野の大手にして草分け的存在である。共同創業者/CEOとして同社を率いるスペンサー・スケーツ(Spenser Skates)氏に、プロダクトアナリティクスとは何か、企業にどんな効果をもたらすのか、効果を生むための分析のしかたなどを聞いた。

プロダクトアナリティクスとは

──まず、プロダクトアナリティクス(Product Analytics)とはどのような製品・テクノロジー分野で、その活用によって何が可能になるのかを教えてください。

スペンサー・スケーツ(Spenser Skates)氏写真1プロダクトアナリティクスは、コーポレートサイトやECサイト、アプリケーションなど、企業がデジタルで提供する製品・サービスについて、顧客/エンドユーザーがたどる購買・利用のプロセス(カスタマージャーニー)をエンドツーエンドで理解することを目的としています。

写真1:米Amplitude 共同創業者兼CEO スペンサー・スケーツ氏

 「せっかく資金を投じてWebサイトやアプリを構築しても、ユーザーがどのように利用しているのかがよくわからない」──そんな企業は多いと思います。意図したように使ってくれているのか、なぜ特定の機能が使われないのかなど、実際の利用状況を可視化することで、どこでつまずいているのか、どこで離脱してしまったのか、逆に何が受け入れられてリピートしてくれているのか、などが把握できるようになります(画面1)。

画面1:プロダクトアナリティクスにおける担当者向けダッシュボードのイメージ。対象製品において顧客をどのように購買に導いているのかをファネル分析チャートなどを用いて可視化している(出典:Amplitude)
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 仕組みとしては、対象となるサービスやアプリのユーザーの利用状況を示すデータをAmplitudeが収集し、 担当者が視覚的に理解できるように表示します。例えば、自社のECサイトにおいて、新規ユーザーに3ステップで会員登録をしてもらうケースでは、ステップ1からステップ2、ステップ2からステップ3へと進む中で、どこで離脱したのかが重要です。これを明らかにしてくれます。

デジタルプロダクトを成功させる“マジックナンバー”を発見する

──Amplitudeはこの分野の草分け的存在ですが、なぜプロダクトアナリティクスを提供しようと考えたのでしょうか。

 Amplitudeを設立するまでにも、いくつかのサービスやアプリを開発していました。その1つが音声認識アプリの「Sonalight」です。当時、アプリを開発した側としては、ユーザーがなぜSonalightを使いたいと思ったか、一旦使わなくなっても、なぜまた戻ってきてくれるのかということを知りたかった。そして、同様のことを思っている人が周囲にたくさんいることに気がつきました。

 そのようなニーズの発見に加えて、Meta/Facebookの有名な調査があります。「Facebookを使い始めて10日以内に7人の友達を作った人は85%の確率で長期ユーザーになり、そうでない場合はその確率は50%に下がる」というもので、この洞察を得たことでFacebookは成功しました。すべてのデジタルプロダクトに、このような“マジックナンバー”があるのではないか──それを知ることができるサービスの提供を志したのがAmplitudeの始まりです。

 従来、自社のデジタルプロダクトがどのように使われているのかを知るためには、SQLやBIツールを用いてダッシュボードを自前で構築するしかありませんでした。それには相応の専門知識・スキルが必要です。Amplitudeは、担当者のスキルにかかわらず、セルフサービス型で活用することができます。

──Webサイトの測定には「Google Analytics」があります。最近では、デジタルアダプションプラットフォーム(DAP)がエンドユーザーの操作を分析できるサービスとして注目されているようです。それらとの違いはどこにありますか。

 そうですね、AmplitudeとGoogle Analyticsは同じような目的を持つサービスですが、ツールを必要とする担当者層は異なります。Google AnalyticsはWebサイトの管理者やマーケティング担当者に特化していますが、Amplitudeはあらゆるデジタルプロダクトの担当者を対象にしています。両者を併用している企業が多いです。

 DAPはある意味競合とも言えますが、Amplitudeの場合、アナリティクスの面でより深い洞察を得ることができるということを強調させてください。

企業がプロダクトアナリティクスから得られるもの

──実際、Amplitudeのユーザー企業はこのサービスをどのように使って、どんな成果を出しているのでしょうか。

スケーツ氏:いくつか事例を紹介しましょう。B2C領域では、フードデリバリーサービス事業者の米DoorDash(画面2)が、一度離れた顧客が再びサービスを使ってくれるようにするにはどうすればよいのかを探るためにAmplitudeを導入しました。プロダクトアナリティクスの結果、最も重要なのは配達時間が短いことではなく、時間どおりに配達されること、という結論に至りました。

 つまり、速く届くかどうかより、予定していた時間に届くのであれば、ユーザーは待ち時間を厭わないという洞察を得たのです。この業界は競争が激しく、競合他社は配達時間を短くすることに力を注いでいました。DoorDashはプロダクトアナリティクスから導出された洞察に従い、時間どおりの配達に徹することで、業界ナンバーワンとなりました。

画面2:フードデリバリー大手の米DoorDashは、プロダクトアナリティクスから導出されたインサイトに従い、時間どおりの配達に徹することで収益を大幅に向上させた
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 同じような課題でAmplitudeを活用しているのがメディア・エンターテインメント会社の米NBCUniversal Mediaです。映像ストリーミングサービスも競争が激しい業界ですが、同社は無料体験から有料会員にコンバージョンする──つまりトライアル期間が終わっても利用を継続してもらうためにはどうすればよいのかをテーマに、プロダクトアナリティクスに取り組みました。

 結果、顧客は映像コンテンツの最初の3つのエピソードにおいては広告を忌避することが判明し、広告の表示タイミングを変更しました。また、2つの違うコンテンツを視聴するとコンバージョンにつながることもわかりました。そこで、 1つ目を見終わった顧客に、2つ目としてどのコンテンツをレコメンドすれば効果が高いかを検証し、効果を挙げています。

 このようにB2Cが多いのですが、オーストラリアのアトラシアン(Atlassian)や米HubSpotなどB2B領域でビジネスを展開する企業でも、Amplitudeの採用が増えています。アトラシアンの場合、顧客のモバイルでの利用実態を、Amplitudeを使って可視化し、Webサイトにも拡大して訪問者のナビゲーションの改善に取り組んでいます。

 あとは米IBMも、エンドユーザーの増加を目的に、Amplitudeを使ってプロダクトアナリティクスに取り組んでいます。IT企業が多いですが、それ以外のB2B企業の利用も増えてきていて、プロダクトアナリティクスの重要性が浸透してきたと考えています。

●Next:顧客体験向上の極意は「ノーススターメトリック」

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