エンジニアリングシミュレーション製品ベンダーの米アンシス(Ansys)日本法人、アンシス・ジャパンは2024年10月23日、年次イベント「Ansys SimulationWorld 2024 Japan」の開催に合わせて説明会を開いた。米アンシス Distinguished Engineerのラリー・ウィリアムズ氏が登壇し、火星探査、倉庫ロボット、製造業エンジニアリングなどの事例を挙げながら、AIをはじめとする最新技術を駆使したエンジニアリングシミュレーションの最前線を紹介した。
火星探査を支えるシミュレーション技術
米アンシス(Ansys)は、米ペンシルベニア州に本社を置くエンジニアリングシミュレーション分野のグローバルベンダーである。1970年にSwanson Analysis Systemsとして創業以来、航空宇宙、自動車、電機、機械、電子、医療工学など広範な産業において製品開発に携わるエンジニアや設計者に向けて、CAD/CAEなどのソフトウェアを開発・提供してきた。
同社でDistinguished Engineerを務めるラリー・ウィリアムズ(Larry Williams)氏(写真1)は発表会の冒頭、NASAの火星探査機「パーサヴィアランス(Perseverance)」と、小型のロボットヘリコプター「インジェニュイティ(Ingenuity)」を紹介した(写真2)。
バーサヴィアランスは火星の地表を走行し、より詳細な洞察を得て地形をナビゲートする任務にあたっている。インジェニュイティは、上空からさらに深い洞察を得るためのロボットだ。
アンシスはNASAと協力し、インジェニュイティのモデリングを開発した。「火星の空気密度は地球のわずか2%で地球上でのテストは非常に難しい。アンシスのシミュレーションはモデリングにおいて非常に重要な役割を果たした」(ウィリアムズ氏)という。
ペースが加速する設計・開発に応えるテクノロジーに注力
ウィリアムズ氏は、製品の設計と開発は根本的な変革を遂げているとし、「製品はより複雑になり、高度な素材が含まれるようになった。今日のペースの速い研究開発に追いつくシミュレーション環境が必要だ」と説明した。
加速する開発のペースに対応するために、アンシスは、「数値計算」「ハイパフォーマンスコンピューティング」「AIと機械学習」「全世界に分散しているエンジニアが協働するためのクラウド」「デジタルエンジニアリング技術革新」の5つの柱を軸に価値提供に取り組んでいる(図1)。
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同社の強みの1つに、NVIDIAとの長年にわたるパートナーシップがある。ウィリアムズ氏は、このパートナーシップは他社と真の違いを生み出す要因であるとした。例えば、NVIDIAが2024年3月に発表したGPUアーキテクチャ「Blackwell」は非常に高速な通信接続を可能にする。これがアンシスのシミュレーションの進化を加速させたという。
また、NVIDIAのシミュレーション基盤「Omniverse」とアンシスのツールを組み合わせた倉庫のシミュレーションシステム「Omniverse Warehouse」も協業の成果だ。両技術の協調により、シミュレーションデータを用いてAIやディープラーニング(深層学習)アルゴリズムをトレーニングする。ロボットは搭載レーダーで倉庫内の周辺環境を調べながら自律走行が可能になる(図2)。
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より複雑・高度な応用として、都市上空を飛ぶクアッドコプターの事例を紹介した。レーダーは障害物や目標までの距離と速度を計算しながら飛行する(図3)。「このケースでは、Omniverseでシミュレートされた非常に複雑な環境におけるクアッドコプターの動きが示されている。これらを組み合わせることで、新しいアプリケーションに活用できる可能性もある」(ウィリアムズ氏)。
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●Next:シミュレーションを支援するAI「Ansys GPT」「Ansys SimAI」を開発
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