米IBMは2025年4月8日(米国現地時間)、メインフレーム新製品「IBM z17」を発表した。特徴の1つはAI推論能力の強化で、オンチップのAIアクセラレータを持つ新プロセッサ「IBM Telum II」を搭載し、前世代から50%高速化を図ると共に、拡張カード型のAIアクセラレータを追加することでさらに性能を向上できる。また、耐量子暗号によるデータ保護機能も拡充している。日本IBMが同年4月9日に説明会を開き、新製品の特徴や提供価値、メインフレーム事業の戦略を明らかにした。
米IBMの「IBM z17」(写真1)は、IBM Zメインフレームシリーズの新製品である。2022年4月発表の「z16」の後継モデルとなる。
z17では、AI推論用アクセラレータをオンチップで搭載した新世代のプロセッサと、追加可能な拡張カード型のアクセラレータにより、AIワークロードの実行能力、特に推論性能を強化。ユーザー企業の基幹業務やIT運用管理へのAIの適用を後押しする。2025年6月18日(米国時間)より出荷開始する。

拡大画像表示
日本IBM 執行役員 テクノロジー事業本部 メインフレーム事業部長の渡辺卓也氏(写真2)は、z17を「AI時代に向けて完全に設計された初のメインフレーム」と紹介。後述する処理能力やセキュリティ性能の強化に加え、250以上のAIユースケースに対応する。

z17が搭載するプロセッサ「IBM Telum II」(図1)は、5.5GHzの動作周波数のCPUコアを8個備える。z16と比較してCPUの処理性能が11%向上し、消費電力が15%削減、コア当たりのキャッシュ容量も40%増加した。また、I/O DPU(データ処理ユニット)を再設計してチップに統合し、省電力や簡素化を実現している。
z16と同様にオンチップで搭載するAIアクセラレータは第2世代となり、50%の高速化を実現。1日あたり最大で4500億回のAI推論を、1ミリ秒の応答時間で実行できるという。新たに大規模言語モデル(LLM)用の命令セットも追加されている。CPUやメモリとの直接接続による遅延の少なさを特徴とする。

拡大画像表示
オプションで用意されるPCIeカード型のAIアクセラレータ「IBM Spyreアクセラレータ」(写真3)を追加することで、プロセッサの推論能力を補完できる。1枚あたり32個のCPUコアを搭載し、システムあたり最大で48枚追加できる。2025年第4四半期から提供開始を予定する。
同社 テクノロジー事業本部 メインフレーム事業部 アドバイザリー・テクニカル・スペシャリストの竹吉俊輔氏(写真4)は、「AI需要が高まる中、データセンターの消費電力の大きさが問題となっている。Spyreアクセラレータは非常に少ない電力で動くため、環境フットプリント削減を目指す企業にも最適だ」と説明した。

拡大画像表示

z16から実装した、耐量子暗号(PQC:Post-Quantum Cryptography)アルゴリズムによるデータ保護機能も強化した。z17では新たに、2024年8月に米国立標準技術研究所(NIST)が定めた耐量子暗号アルゴリズムの標準仕様に準拠している(関連記事:NIST、耐量子暗号アルゴリズム3種類をFIPS標準として最終決定、格子暗号で鍵交換/電子署名)。
●Next:基幹業務やIT運用管理をAIで高度化