[市場動向]

4銀行によるプライバシー保護連合学習で不正口座の検知精度が向上─NICT

データ項目のバラつきの問題を解消する「アンサンブル学習」を併用

2025年6月11日(水)IT Leaders編集部

情報通信研究機構(NICT)は2025年6月10日、プライバシー保護連合学習技術「DeepProtect」を活用した不正口座検知の実証実験をりそな銀行など4行と共同で実施し、従来手法と比べて検知精度が向上することを確認したと発表した。これまで検知が困難だった潜在的な不正口座を特定できる可能性を示したとしている。

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は、同組織が開発したプライバシー保護連合学習技術「DeepProtect」を活用した不正口座検知の実証実験をりそな銀行など4行と共同で実施し、従来手法と比べて検知精度が向上することを確認した。これまで検知が困難だった潜在的な不正口座を特定できる可能性を示したとしている。

 「金融機関は、金融犯罪対策として、AIを用いて不正取引を監視しているが、単独の金融機関ではAIに学習させるデータの確保が難しい。顧客の個人情報やプライバシーを保護したうえで、複数の金融機関が組織横断的に協調してAIを開発していく仕組みが求められている」(NICT)

 DeepProtectは、データを外部に開示せず機密性を保ったまま深層学習を行うプライバシー保護連合学習技術。NICTは同技術を用いて、不正取引を自動検知するシステムの開発に取り組んできた。2023年には実用性の高い監視AIの研究開発と実証実験を神戸大学とEAGLYS(イーグリス)に委託している。

 NICTは、りそな銀行など4行から、正常口座と不正口座の両方について、顧客情報が特定されない形で一定期間のデータ提供を受けて、銀行ごとの個別学習モデルを作成。その後、DeepProtectを用いて4銀行で連合学習を実施し、検知精度を評価した。しかし、連合学習の検知精度は、個別学習と比べて全体的に低かったという。

連合学習にアンサンブル学習を組み合わせる

 プライバシー保護連合学習の検知精度が低くなった理由に、各行のデータフォーマットや定義がカラムレベルで異なり、4行で共通して使えるデータ項目が極端に少ないことがあるという。そこで、今回の実証実験では、連合学習にアンサンブル学習を組み合わせて、データ項目にバラつきがあっても情報を余すことなく利用するアプローチを取った。各行の個別学習モデル(4個)、4行での連合学習モデル(1個)、3行ずつの連合学習モデル(4個)と、計9個のモデルを使ってデータ項目を実質的に標準化した(図1)。

図1:アンサンブル学習の実施イメージ(出典:情報通信研究機構、神戸大学、EAGLYS)
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 その結果、アンサンブル学習を組み合わせた連合学習モデルは、個別学習モデルと比較して適合率(モデルが不正口座と予測したうち、不正口座の割合)が最大で約10ポイント向上。再現率(実際に不正口座であるもののうち、モデルが正しく不正口座と判定した割合)は95%を超えるケースがあったという。また、再現率が高い箇所では、連合学習モデルの方が検知精度が高いことを確認している(図2)。

図2:個別学習と連合学習モデルのシミュレーション結果(出典:情報通信研究機構、神戸大学、EAGLYS)
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 実証実験後に行った各行とのワークショップでは、「個別学習では不正口座として検知されず、連合学習では不正口座として検知された取引口座」の一部は「グレーな口座」と評価され、既存のルールベースでの監視ではすり抜けていたことが判明したという。「従来のルールベースの監視やAIを用いた個別学習では検知が困難だった、潜在的な不正口座を特定できる可能性を示している」(NICT)。

 NICTは、実証実験の成果を踏まえて連合学習技術の高度化を目指す。神戸大学とEAGLYSは、検知精度の向上を図りながら、不正取引検知業務への実装に向けた取り組みを進める。まずは、現行のAML(マネーロンダリング対策)システムと並行運用する簡易的なシステムとして、金融機関での実用化の可能性を検討する。

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