[技術解説]

グローバルで勝ち抜く攻めのSCM─情報連携を強化する「見える化」に着眼─大手コンサルティング4社がSCMを語る

半歩先ゆくサプライチェーンマネジメント(SCM)Part2

2008年12月25日(木)IT Leaders編集部

企業のSCM構築を支援するITコンサルタント。彼らによると、日本企業におけるSCMの取り組みで目立つのは、計画をいかに確実に実行するかという実行系システムの強化、グローバル化をにらんだ、新規市場参入に向けての新たなSCMを構築すること。無駄をなくして利益を生み出すSCM改革が日本企業の課題として持ちあがる。(文中敬称略)

寺門 正人氏
寺門 正人
IBMビジネスコンサルティングサービス
サプライチェーン戦略リーダー

サプライチェーン戦略部門の日本における責任者。サプライチェーンの構想策定や業務改善支援を中心に携わり、生産や販売など、現場における指標策定・運用のコンサルティングを強みとする。IBMが提唱する次世代SCM(Sense & Respond型SCM)の推進にも従事し、関連書籍や寄稿の執筆多数

─ 必要な量を必要なタイミングと価格で生産・販売するために「SCM」という概念が提唱されたのは1990年代後半でした。それから10年経った今、SCMに対する企業の取り組みは、どうなっていますか?

寺門 私はSCMが提唱された当時、需要予測ツールで知られたi2テクノロジーズの日本市場参入に携わりました。当時の前提は「需要を精度よく予測できれば、生産計画も調達もうまくいく」でした。それが、需要予測に用いるデータの精度や鮮度を高め切れない、競合環境が非常に厳しく、ちょっとした価格変動で需要が大きく変動するなど、難しさが露呈してしまいました。

しかし当たり前ですが、SCMへの関心はむしろ強まっています。例えば在庫削減や欠品防止に向けて、メーカーと流通業が販売実績や需要予測結果を共有する「CPFR(Collaborative Planning Forecasting and Replenishment)」という取り組み。これはここ数年、着実に広がっています。

安井 同感です。ここ数年、SCMの話題がないと感じている人が多いかもしれませんが、色々な取り組みが広がっています。食品や日用品業界のサプライチェーン構築に多く携わっている私の場合で言えば、SCMの肝ともいえる責任権限の再配置についての問い合わせが増えています。ビジネススピードが飛躍的に速まっている中、意思決定も早める必要があるといったことですね。一方、需要予測を行うSCP(サプライチェーン計画)ツールを本当に活用しようという動きも少なくありません。企業のコスト削減に対する意識は本当に高いですから。

稲垣 私は10年以上、電機・電子などのハイテク業界のサプライチェーンを担当しています。この業界では、事業部ごとに構築・運用してきたSCM系のシステムを、コンプライアンス対応などの観点から集約させる動きがあります。経営層が各事業部の動きを把握したいというニーズです。

海外の生産・販売拠点の統合、つまりグローバル化も重要なテーマになっています。この点で言えば、海外の大手企業は一歩先を行っていて、彼らのSCMの焦点は中国やインド、ブラジル、韓国、メキシコ、ロシアといった新興国にあります。日本企業はまだ欧米などの先進国が主体で、中国やインドの拠点を結んだSCMをどうしようかと検討している段階ですね。

─ 韓国の大手企業でプロセス改革に携わった経験がある宋さんは、どう見ていますか。

宋 最初に申し上げたいのは、「SCM」は流行り言葉ではないということです。企業が生産や販売活動を行う中で、様々な課題は当然出てきます。それを解決するためのマネジメント活動が、SCMです。つまり金融などを除くほとんどの企業にとって、普通の業務なんですよ。マネジメントが優れていれば競争力が高まるんです。

日本企業は、サプライチェーンの要素ごとには見事なシステムを持っていますが、全体としてのマネジメントが弱い。ただし「これでは所詮ローカルであり、グローバルでの競争力はない」と問題意識を持ってSCMに取り組む企業は増加しています。

効果的なSCMの活用が大事

安井 正樹氏
安井 正樹
アビーム コンサルティング
製造/流通統括事業部 プリンシパル

1998年にデロイトトーマツコンサルティング(現アビーム コンサルティング)に入社、現在に至る。製造業を中心に、SCM戦略立案から組織の変革、システム導入まで幅広く支援。基幹システム構築プロジェクトも多数手がける

─ 需要予測を中心とした計画系からCPFRや責任権限を中心にした組織改革、部門から全社統合、あるいはグローバル化など、取り組みが多様化しているわけですね。その中で経営面での成果、つまり売り上げや利益増は実現されつつあるのでしょうか?

寺門 逆説的な言い方ですが、現在のSCMは生産や調達の効率化のみならず、マネジメントや経営戦略を含んでいます。当然、売り上げや利益と連動する仕組みに向かっています。儲けはいくらか、キャッシュフローを増加させる効果はどれだけかなど、むしろそうした面からシステムの機能やあるべき姿が求められるようになりました。成果を追求するためにSCMに取り組むわけですからね。

安井 例えば、このぐらいの数量と思って食品を作って販売したら、すぐに追加発注が入ったので慌てて増産します。ところが、その後はぱったりと追加発注がなくなって過剰在庫になったり、場合によっては賞味期限が切れたりしてしまう。新製品の需要を見誤る典型的なメカニズムで、こんなケースは今も多いし、改善の余地はいくらでもあるんですよ。本当は1000個も需要がないのに、「まとめて作った方がいい」、「まとまった数でないと作れない」といった理由から、2000個作ってしまうこともあります。これらを改善できれば利益につながります。

─ 情報システム面では、企業はどんな点を改善しようとしているんでしょう?

安井 1つ言えるのは、日次の計画システム構築に向かう企業が増えていることです。これまでのSCPは補充計画を作る部分が弱く、計画系の中でも未成熟領域でした。自動化して日次の計画を作成し、実行まで含めて動かすことができれば、効果は大きいと思います。

稲垣 少し話は戻りますが、利益に関して海外企業は、どこで生産して、どこに在庫を保管しておくのがよいのかに注力しています。狙いは利益最大化であり、タックス(税金)の最小化です。それを可能にするための調達システムや物流システムなどのSCMは、利益の源泉の1つだと考えて重視しています。日本企業はまだ、SCMを在庫の最適化やコスト削減など守りのツールと見る傾向があります。本来、SCMは攻めのツールとしてより大きな効果を期待できるのにもったいない気がします。

寺門 海外でのSCMは日本企業の課題ですね。海外の新興市場の場合、法規制やインフラが整っておらず制約条件が多いので、日本国内のようなサプライチェーンは望めません。欧米やインド、中国などの企業は、この制約下で製品作りを行い、そのためのシステムを作っている。では日本企業はどうするのか、ということです。見方を変えれば、これまでのSCMモデルを新たに作り直せるチャンスとも言えます。思うように効果が出なかった面を改善、強化できることはメリットと捉えられますからね。

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