入力が面倒、業務プロセスやデータ項目が自社のニーズに合わない…。かつてのCRM製品にあったこれらの問題は今や、ほぼ解消されたといっていい。カスタマイズの自由度が高く、例えば携帯電話による操作を考慮したものも多い。Part4では、CRM向け製品の最新動向をまとめる。
顧客管理に関係する業務領域は、3つに大別できる(図4-1)。営業担当者の商談進捗状況や売上げ見込みなどを管理する「セールス」、顧客の分析や分類、キャンペーンを管理する「マーケティング」、コンタクトセンターや保守サービスなど、商品購入後の顧客をサポートする「サービス」だ。
ここでは、これらすべてをカバーする製品を、「統合型」と呼ぶ。日本オラクルの「Siebel CRM」やSAPジャパンの「SAP CRM」など、統合型はどれも細かい違いこそあれ、似た機能を持っている(図4-2)。
例えば、営業やマーケティング、コンタクトセンターなどあらゆる顧客接点で発生した情報を統合管理する機能は、すべての統合型が備える。商談や問い合わせ内容などの情報を、部門の壁を超えて共有できるのが利点だ。
一方、セールスやマーケティングなどにフォーカスした製品を、「特化型」と呼ぶ。ソフトブレーンの「eセールスマネージャー」やSASインスティテュートジャパンの「SAS Customer Intelligence Suite」などだ。特化型は、部門間の情報共有では統合型に及ばないが、シンプルな操作性や大量データのきめ細かい分析など、用途をある程度絞り込んだからこその強みを持つ。
以下では、統合型、特化型の順に、特徴的な製品の機能を紹介する。ページ下部には、国内で入手可能なCRM製品100種類の一覧表を掲載したので、参考にしていただきたい(表4-1)。
総合型(1) 使い慣れた画面で利用を促進
CRMシステムの機能を生かすには、統合かつ新鮮なデータが欠かせない。さもないと受注確度の把握はおろか、CRMの基本中の基本である顧客の属性さえ見誤りかねない。
この点を踏まえ、特にデータ入力のしやすさに配慮したという触れ込みの製品が、マイクロソフトが2008年3月に発売した統合型製品「Dynamics CRM 4.0」である。Dynamics事業統括本部マーケティング部の齋藤誉エグセクティブプロダクトマネージャは、「使い慣れた画面をDynamics CRMのインタフェースにすることで、特別に意識することなくデータ入力や活用ができることを重視した」という。
「使い慣れた画面」とは、OutlookやExcelのこと。Outlookを起動すると受信トレイや送信トレイの下にCRMフォルダが生成され、そこからDynamics CRMの機能を呼び出してOutlookの画面上で操作できる。
Outlookの画面上から、Dynamics CRMで管理している受注見込みデータなどをExcelに出力することも可能だ。Excelに出力する機能を備える統合型は他にもあるが、Dynamics CRMがそれらと異なるのは、常に直近のデータをDynamics CRMから取り込めること。例えば、当日の業務を終えてExcelファイルを閉じ、翌日に再び開くと、自動的にDynamics CRMの最新データをExcelファイルに取り込む。
Outlookとの連携機能を備えるのはDynamics CRMだけではない。SAPジャパンのSAP CRMは、マイクロソフトと共同開発した「Duet for Microsoft Office and SAP」を使って、SAP CRMで作成した見込み客の数や問い合わせ件数の推移などのレポートを、Outlookの画面で参照できる。SAP CRMが備える見積もりの申請・承認機能を、Outlookから利用することも可能だ。
これほど緊密な機能連携ではないが、オープンソースCRMの「SugarCRM」やCDC Softwareジャパンの「Pivotal CRM」などは、Outlookを使って顧客とやり取りした見積もり依頼や問い合わせの対応のメールを取り込んで、顧客対応の履歴情報として管理できる。
総合型(2) ポイントサービスに対応
一般消費者が商品やサービスを購入した際に、一定の割合でポイントを付与する「ポイントサービス」は、リピート客を獲得する手段として定着している。そうしたポイントサービスのマネジメント機能を特徴とするのが、日本オラクルの「Siebel CRM」だ。「Siebel Loyalty Manager」と呼ぶ機能を使って、売り上げに対するポイント率の設定や利用状況を管理する。
2009年2月に発売した新版「8.1.1」では、さらに他社のポイントサービスへの交換率を設定し、交換状況を管理する機能を追加した。小さな機能強化に見えるが、家電量販店や航空会社のように、ポイントの相互交換が可能な他社サービスの拡充を続けている企業にとっては価値があると言えそうだ。
SaaS型という点ばかり注目され、機能が語られることが少ないセールスフォース・ドットコムの「Salesforce CRM」も、統合型としてはユニークな機能を備える。「アイデア管理」は、その1つ。いわゆる「社内SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)」に相当する機能である。
「そういう顧客には、こう対応すべき…」、「こんなサービスが顧客に喜んでもらえるのでは…」。営業やマーケティング、コンタクトセンターの担当者は、日々顧客と接する中でさまざまなことを感じている。それを共有して、業務上の課題を解決する方法や、新商品/サービスなどのアイデアを創出する。投票機能によって、多くが希望するアイデアを可視化することもできる。
特化型(1) シンプル操作でデータ入力を支援
特化型のCRMソフトには、シンプルな操作性や高度な分析機能を掲げる製品が多いことは、先に述べた通りだ。
操作性では、ソフトブレーンの「eセールスマネージャー」のように、携帯電話の画面からプルダウンメニューで訪問履歴を入力する機能は、セールス特化型の製品で一般的になっている。
一方、特化型といっても、ワークスアプリケーションズの「COMPANY CRM for Sales / CRM for Support & Service」のように、セールスとサービスを網羅する製品も多い。「顧客情報は、重要な資産であると同時に機密性の高い情報でもある。COMPANY CRMでは、人事パッケージで培ったセキュリティ機能をもとに、部署や役職、業務などによってきめ細かく情報開示を設定できるようにした」(同社)。
特化型(2) 緻密な分析で販促効果を最大化
高度な分析機能については、BI(ビジネスインテリジェンス)ソフトベンダーが、CRM向けに提供しているマーケティング特化型の製品がある。導入実績から考えると、SASインスティテュートジャパンの「SAS Customer Intelligence Suite」と、日本テラデータの「Teradata Relationship Manager」の2つが代表的な製品といえるだろう。どちらも大企業向けだけに、数十種類を超える統計解析手法を提供。商品/サービスの潜在的なニーズを把握したり、顧客の属性を分類したりできる。
マーケティング特化型の製品が特に力を発揮すると考えられるのが、販促キャンぺーンのマネジメントだ。例えば、過去に実施したキャンペーンの内容や、それによる売上高の増加、売り上げに寄与した顧客の属性などを分析して、新規のキャンペーンの仮説や戦略立案に役立てることができる。
顧客の行動パターンを分析して、キャンペーンの実施に適したタイミングかどうかを見極めることも可能だ。銀行を例にすると、銀行は預金の入出金という、顧客の行動傾向を蓄積している。この傾向を分析した結果、昨年の同時期より預金残高が増えていれば購買余力があると判断できるので、キャンペーンの実施時期としては悪くない。逆に、ターゲットとしている顧客の預金残高が減っていれば、キャンペーンを実施するタイミングとしてあまり適切ではない。
なお表4-1に掲載した製品の多くは複数回のバージョンアップを経ており、新しい製品も既存製品を研究して開発されている。その意味では、製品の機能差は今では大きくない。むしろ既存のシステム環境との連携機能や運用性(オンプレミス型か、SaaS型かなど)、導入費用や運用・保守費用などをチェックするべきだろう。
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