IBM ビジネスコンサルティング サービス(IBCS)は2009年4月24日、サプライチェーンマネジメント(SCM)に関する調査結果「IBM Global Chief Supply Chain Officer Study 2009」を発表した。SCMに関して最先端の取り組みをしているグローバル企業との比較により、国内企業のSCMへの取り組みを客観的に評価した興味深い内容だ。
IBCSは、生産やロジスティクス、購買、SCM計画などを統括する責任者を「CSCO(=Chief Supply Chain Officer、最高サプライチェーン責任者)」と定義。CSCOに対するアンケート調査により、国内企業のSCMの課題を浮き彫りにした。
国内企業が抱える5つの課題
調査では、各企業が何をSCMの課題として認識しているかをヒアリングした。明らかになった国内企業の課題は、(1)顧客ニーズの把握に関する協力体制が整っていない、(2)リスク管理の不徹底、(3)可視化を行動に結び付けられていない、(4)コストが抑制できない、(5)グローバルでのサプライチェーン統合の遅れ、の5点だ。特に1と2については、グローバル・リーダー(調査方法参照)と比較して問題意識を持つ国内企業が多いことがわかった。
顧客情報の反映が不十分
まず、(1)の原因について考えてみよう。サプライチェーンのパートナー同士が共同で需要予測や在庫補充計画を立案する取り組みは、国内でも普及の兆しがある。だが、顧客企業と一丸となった取り組みは遅れているのが現状だ。顧客と共同で需給計画を作成していると回答した企業は、グローバル・リーダーで63%だったのに対して、国内企業は23%にとどまる。IBCSサービス・ライン・リーダー サプライチェーン・マネジメント担当の前平 克人氏は、「日本ではSCM担当者が製造部門にいることが多く、営業など顧客との接点がある部門との結びつきが弱い」ことが一因だと指摘する。そのため、案件情報や販促情報といった顧客情報を、サプライチェーンに反映させにくい状況となっている。
多忙と縦割り組織が実行の妨げに
一方、(2)のリスク管理は、サプライチェーンがうまく回らずに供給がストップしてしまうような事態を防ぐ取り組みを指す。リスク管理の前提として欠かせないのがプロセスの標準化だが、これが進んでいないと回答したのは、グローバル・リーダーが48%なのに対し国内企業は63%に達する。
原因はツールやテクノロジーではなく組織にあると、前平氏は語る。「国内企業ではCSCOが様々な仕事を抱えていたり、組織構造が縦割りであることがリスク管理の阻害要因となり、取り組みが成果に結びつかない」。調査でも、リスク管理の障害として組織上の問題があると回答したのは、グローバル・リーダーの19%に対して国内企業は46%と高い数値だった。
各ベンダーもSCMに注目
SCMの効果を発揮できる組織改革を支援するため、ベンダーの中にはコンサルティングと組み合わせた支援策を用意する動きが広がっている。日本IBMとIBCSは09年2月に、シミュレーションを基に改善策を提案するサービスを発表した。IBCSは同年1月より専任チームを組織し、今後も取り組みを強化する。また日本オラクルとべリングポイント(現プライスウォーターハウスクーパース コンサルタント)も、同月にSCMおよび製品ライフサイクル管理(PLM)分野で協業を発表。約250人の専任コンサルタントが、組織改革を含めてSCM導入を支援する。
調査方法の詳細
調査は、2008年の5月から8月にかけて実施。米国や欧米、日本などアジア太平洋地域の25カ国、393社(うち国内企業は27社)のユーザー企業を対象に、IBMのコンサルタントによるヒアリング形式の調査方法を採った。
393社のうち、米AMRリサーチが発表する先進的なSCM企業のランキング「AMR Research Supply Chain Top 25 for 2008」にランクインしている、米アップルやトヨタ自動車を含む17社をグローバル・リーダーと想定。17社の調査結果の平均値を「ベンチマーク」とし、国内企業の平均値と比較した。
今回の調査結果は、以下のWebサイトから無料でダウンロードできる(PDF形式)。
http://www-06.ibm.com/services/bcs/jp/solutions/scos/reports/cscostd2009/