[市場動向]

クラウド技術で個人の身体データを一括管理、フィールファインが産学官連携プロジェクトを始動

2009年6月5日(金)IT Leaders編集部

インターネット・クラウドを活用して、個人の診察記録や検査結果の情報、いわゆる(パーソナルヘルスレコード(PHR)を収集する。それをデータベース化して、個人や医療機関が分析や閲覧できるようにする。こういったサービスの提供で先行しているのが、米グーグルの「Google Health」やマイクロソフトの「Microsoft HealthVault」といった米国勢だ。すでに米国内の医療機関と組んで事業に着手している。

 そんな中、日本でも大規模にPHRを収集管理・活用するプロジェクトが始動した。ベンチャー企業のフィールファインが産学官連携で進める、「パーソナル・ヘルスログ・プラットフォーム(PHLP)構想」がそれだ。

 2009年6月4日に開催した事業説明会では、「10万人、50万人といった規模ではなく、1000万人単位の情報を収集・管理する」「(診察記録など病歴情報中心の)Google Healthなどと異なり、健常者の情報を管理、分析、活用可能にする」、「個人が自分の健康状態を(他人と比較した上で)管理できるようにすると同時に、企業が製品やサービスの開発に使えるよう情報を提供する」、さらに「グーグルやマイクロソフトと競合するのではなく、連携する」といったビジョンを、明らかにした。

 大きなポイントの1つが、「健常者の情報を収集・管理する」点である。フィールファインによると、健常者の心身に関わるデータは、身体寸法(190項目)から身体組成(78項目)、血液正常(28項目)、運動能力(26項目)、生活習慣(58項目)、性格特性(51項目)までの、合計430項目に及ぶ。多数の個人について、これだけのデータを収集・分析することで、身体の総合的な状態を評価可能にする。

 それによって、個人は自分のデータと統計データを比較でき、例えば自分の健康状態やそれを高めるためのヒントが得られる。客観的な指標に基づく健康維持管理が可能になるわけだ。もちろん個人が430項目もの情報を測定できるわけではない。この問題を解消するため、「身体寸法4項目、身体活性4項目、身体組成3項目、運動能力5項目といった手軽に把握できる16項目から、残る項目を推測するロジックとシステムを開発済み」(フィールファイン)だという。

 一方、企業になると、もっと多様な活用ができる可能性がある。医薬・健康関連メーカーが製品を開発する場合の基礎データになるのはもちろん、自動車メーカーなら車のシートの設計に利用できる。特定の健康食品や飲料メーカーが、自社の製品の効果を定量的に把握できるようになることも考えられる。「これらは健常者のデータを集めるから可能になること。グーグルやマイクロソフトとも補完関係になる」(同)。

 問題は、そうしたデータをどうやって集めるか。フィールファインでは当面、自社が提供しているクリニックや、企業が従業員に対して実施している健康診断や保険関連の指導サービスをベースに、データの収集を行っていく考えだ。すでに綜合警備保障など複数の企業と契約し、検診データを分析、評価し、改善指導するサービスを実施している。これを通じて検診データを集められるわけである。将来は医療機関とも提携し、データを得られるようにする考えだ。

 一方、上記のデータとは異なるが、人体に関わる情報の中で「ポストゲノム」と目される「糖鎖(とうさ)」に関わるデータを蓄積する研究も、北海道大学と共同で進めている。糖鎖は,ガン・糖尿病・アトピーなど様々な病気の原因に関係すると言われ、糖鎖の種類や量を継続的に計測すれば、病気の予防につながるとされる。収集したデータはXML形式で統一し、「今後構築するクラウド型のデータセンターに蓄積する」(同)計画だ。

 フィールファインは1995年に設立され、人の身体、運動能力、精神といった側面の向上を支援するクリニックやフィットネススタジオの運営、企業への改善プログラム提供を主力事業とする。一方で、産官学連携のコンソーシアムを組織し、「医学的・科学的に裏付けのある身状態の総合的評価を実現する研究開発活動」(同社)を実施している。

 連携している組織や企業は、人体に微小センサーを取り付け、ワイヤレスで状態を測定する技術を開発するウェアラブル環境情報ネット推進機構(WIN)、経産省系の独立行政方針である産業技術総合研究所、大学では東京大学や慶応義塾大学、早稲田大学、北海道大学、九州大学、民間企業では塩野義製薬や浜松ホトニクス、NTTデータなどがある。

 PHLP構想の課題を挙げると、(1)検診データなどを集めるにしても1000万以上という目標には遠い、(2)医療機関の協力が得られるか不透明、(3)データを蓄積するためのシステム構築はまだこれから、など山積状態。それでも厚生労働省のような行政機関あるいは医薬メーカーやIT企業が、単独で“PHRクラウド”を実現できるかというと、電子カルテさえ普及させられない日本では望み薄である。

 だがプレーヤーがいなければ日本人の健康・医療情報を、グーグルやマイクロソフトに委ねることになってしまいかねない。PHLP構想をどこまで具現化できるか、先行きに注目する必要がありそうだ。

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